『踊る』=平成ライダー説: 『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』

自分はだいたい映画を週に一本のペースで観ているわけですよ。一年に換算するとだいたい50本くらい。一説によるとシネフィルと呼ばれる、或いは自称する為の最低ラインは年間100本らしいので、中途半端な映画オタと考えてくれて間違いない。


そんな映画半可通が今まさにネタとして語りまくり、こき下ろし、ディスりまくる映画といえば『踊る大捜査線 THE MOVIE3』だ。
だが、自分はこの映画、というかこのシリーズ、結構好きなんだよね。
カネよりも時間が惜しいので、基本的にどう考えてもつまらなさそうな映画は観ないと決めている。だから『アマルフィ』も『ALWAYS』も未だに観てないし、将来観る気も無いし、『DRAGONBALL:EVOLUTION』を観るくらいならば、アニメの方の映画版*1を観た方が良い、というスタンスだ。そんな自分が何故『踊る大捜査線 THE MOVIE』を観るのかというと、やっぱり、面白かったんだよ、TVシリーズは。


『踊る』のTVシリーズが放映された1997年、自分は大学生で、レンタルビデオ屋でバイトしていたのだが、はっきりいってそれほど人気が無かったんだよね。自分も全くノーチェックで、バイトの同僚にこれTVドラマなのに意外と面白いっすよとお勧めされるくらいだった。1セットのみ発注されたビデオも常に貸し出し待機中だ。
ところが、何度か再放送が繰り返されるうちに、事情が変わってきた。当初はビデオ屋のバックヤードに永遠に眠るかと思われたビデオも貸し出し中が多くなり、遂に店長がもう2セットほど発注したことを覚えている。


何が面白かったというとですな、私は『機動警察パトレイバー』が大・大・大好きだったわけですよ。だから『踊る』TV版の「第二小隊に本庁からのキャリアが赴任!」みたいな雰囲気がえらく楽しくてねぇ。組織の中で真面目に仕事したい若者たちの姿がエンターテイメントとして描かれてるのが心地よくてねぇ。エヴァのアレンジ楽曲を臆面もなく使ってたのも良かったなぁ。
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で、その後『踊る』は再放送やスペシャル番組の好評を経て、映画化されたわけなんだが、これがただでさえ知名度が高いTVドラマの続編をいTVドラマそのままのクオリティで映画化し、ガンガン荒稼ぎするという「世界の亀山モデル*2」の誕生に寄与したというのは有名な話だ。


その結果、『踊る THE MOVIE』という映画シリーズは、絶対に絶対に絶対にヒットしなくてはならない映画となった。どれくらい「絶対」かというと、もしヒットしなかったらフジテレビの株価が下がるくらいのレベルだ。
だから製作スタッフは、ヒットさせる為の要素をこれでもかと詰め込む。「庶民感覚」に溢れた主要キャラはTVドラマで固定客がついた美男美女の役者が演じ、脇を固めるレギュラーや個性的な新キャラクターは「庶民」が大好きな旬の俳優が演じる。憎まれ役である犯人や犯罪動機は「庶民」が感じている現代を反映し、本当の悪役である上層部は「庶民」のことなぞ考えず常に保身を第一とする。コメディのセンスはその時々に「庶民」の間で流行している芸人や劇団のセンスを導入する。念の為に書いておくと、ここでいう「庶民感覚」とはニュースやワイドショーで年収○千万円クラスのアナウンサーやMCが口にする「庶民感覚」であることは言うまでもない。


この「サバイバルの為に現代的な売れセン要素を貪欲にとりこむ」という姿勢を考えた際、私が真っ先に連想するのは、平成ライダーだったりする。『バトルロワイヤル』がヒットすれば『仮面ライダー龍騎』を作り、ムシキングが流行れば『仮面ライダーカブト』を作り、草食系男子が流行れば『仮面ライダー電王』を作る。主要キャストは全員美男美女で、アニメの脚本家を使ってアニメの如くキャラ立てして擬似家族を作り、『ディケイド』では遂に「世界の亀山モデル」を導入した、あの平成ライダーだ。思えば、亀山千広白倉伸一郎も、どことなく似てないだろうか。


その結果誕生するものは何か。それは、「庶民」を飽きさせない為に5分や10分単位で映像的ドラマ的見せ場が起こり、警察組織上層部に代表される「上流」やルサンチマンや貧困ゆえに犯罪に走る「下流」部分は極めて幼稚な論理で動くけれども、「庶民」を代表する「中流」部分は変なリアリティがある、ドラマ的には異形だけれども生理的には変な魅力があるという、駄菓子みたいな映像作品だ。


で、ここからが重要な本題となるのだが、自分は駄菓子も平成ライダーも大好きなんだよ! 大金かけて作った豪勢なフランス料理は口に合わないし、毎日パンの耳食べるのは嫌だけれど、着色料や合成甘味料がいっぱいな駄菓子はしこたま食いたいわけよ!


具体例を挙げると、『踊る THE MOVIE3』の警視庁や警察庁上層部は、はっきり言って頭がおかしい。どこの国に自ら積極的にテロに屈しようとする警察組織があるんだよ! よど号の時だってあんなにも糾弾されたのに、最悪の事態になっても警察官(と出入りの引越し業者)が死ぬだけで全く民間人が犠牲にならないこんなテロで、犯人の要求呑もうなんて考えるわけないじゃん!
もう一方の悪役である派遣清掃員側だけど、最初の金庫破り事件とバスジャック事件は何故おこしたのか? 今でも理由が分からない。あれだよね、わざと事件を起こしても警察署にはたくさん人がいるから、無人にもならないし人もそんなに減らないよね? あと、ついでに言えばこのシリーズはハッカーやクラッカーというものを過大評価しすぎなんじゃないの?
何よりも、どう考えたって徒労に終わる、杭でシャッター叩くさまとか、恩田すみれの構内放送とか、部下じゃなくて仲間だ発言*3とか、あからさまに感動させよう演出がクサくてクサくてたまらないんだよね。


でもでもでもさ、きっちり死体が映る殺人事件の合間合間に係長となった青島が「皆、ちゃんと健康診断行っといてねー」なんてサラリーマンライクに部下をマネジメントしたり、新しい警察署への引越し作業を陣頭指揮したりする姿は、やっぱり面白く感じるんだよ。ユースケ・サンタマリア寺島進八嶋智人といった、普通なら(あの時点で)主演はれない筈の俳優の主演映画や主演ドラマも観たいわけよ。年とってから変にエロくなった内田有紀深津絵里の姿も眼福なわけよ。主人公と真犯人双方が「死ぬ気になって生きる」というプロット上における最大の仕掛けは……正直、あんまり上手く機能してないけどさ。
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だから、前述のような不満点は、薄目でみて忘れるようにするか、逆にネタとしてギャハギャハ笑って消費しちゃうんだよね。丁度、平成ライダーの池ポチャで生存とか、携帯電話でライダー呼び出して瞬間移動とか、いきなり若くなってその後二度と元に戻らないヒーローやヒロインに対する態度と一緒だ。たとえ画面にdocomoの携帯ばっか出てきても、バンダイ製のライダーベルトを見慣れた自分は驚かない。
違うたとえでいうと、もし『踊る』が海外の映画だったら、たとえばヨーロッパコープが製作した(全く同じ編集で役者だけ外人の)映画だったとしたら、こんなにも悪評芬々ではなかったと想像するんだよね。まぁ、ヒットもしなかっただろうけれど。



「踊る3」は見ないでよろし。 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール
「俺の邪悪なメモ」跡地


そういうわけで、昨日からはてなの映画クラスタを揺るがす上流ブロガー達の論争にイマイチのりきれないなぁ、なんて庶民ブロガーの自分は思いましたよ。

*1:この前『BLEACH』や『ナルト』の映画版を観て驚いたのだが、ジャンプアニメの映画版はおそろしくデキが良い

*2:(C)宇多丸

*3:しかも、これは流行語になりそうもない