お前の敵はこの社会全体だ

 「青春リアル」を観て、「から騒ぎ」を20分ほど観た後に「真マジンガー」を観て、ちょこっとオナニーした後寝て起きて「シンケンジャー」と「ディケイド」と「フレッシュプリキュア」を観るという、夢のような週末を今クールは過ごしている。嗚呼、日本人で良かったなぁ。


 「シンケンジャー」は初回から現在までずっと面白いのだが、一方で「ディケイド」は最近持ち直した感じがする。會川昇降板でどうなるか不安だったのだが*1、「ユウスケと夏海は基本的に賑やかし」、「士がエスパーの如き認識能力を発揮する」、「最後に士が全部台詞で説明する」等々のフォーマットを上手く生かした上で、各脚本化が自らの特性を生かしている感じだ。あれだね、もう東映小林靖子に足向けて寝られないね。


 「ディケイド」といえば、今丁度やっているシンケンジャー編も面白いのだが、前回のディエンド編は最高だった。


仮面ライダーディケイド 第22話 ディエンド指名手配|東映[テレビ]
仮面ライダーディケイド 第23話 エンド・オブ・ディエンド|東映[テレビ]


 ディエンドこと海東大樹の出身世界、そこは人々が他人に対してやたらと優しい世界であった。アウトサイダーである士達に、通行人はフレンドリーに挨拶しまくり。足が疲れたユウスケや夏海を背負い、空腹とみれば小学生が自分の弁当まで差し出す。日本のド田舎風のロケーションも効果的だ。だが、そこは「エリア管理委員」が人々に優しさを強制する、フーコー的生権力が支配する社会だった……という話だ。


 しかもこの世界の村民というか「市民」は、自身のセキュリティの為にエリア管理委員の支配を自ら支持しているんだよね。だから蔓延する優しさアティチュードを壊す異分子は「社会の敵」であるし、他の世界*2では「正義の味方」であった仮面ライダーを、鍬や鎌といった農機具を手に追い詰め、排除しようとする。現代の百姓一揆は上部ではなく異物に対して行われるんですな。
 つまりこの22・23話は、現代特撮が生権力や規律訓練型権力環境管理型権力というものに真正面から挑んだ、超力作ですよ!やるじゃないか井上敏樹大先生!相変わらずユウスケは空気だったけれど*3


 平成ライダーシリーズにおいて、ライダーが社会の敵であるというプロットは、これまで何度か試みられてきた。
 例えば「アギト」の最終5話では、社会の番人である警察組織がアギトを敵とみなし、アンノウンと組んでアギトを排除しようとする。
 もう一つ、オルフェノクが人間にとって代わった世界を舞台にした「劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト」では、「市民」であるオルフェノクを惨殺するライダーの姿をみて、オルフェノクの母子がその場から逃げ出したりする*4


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 だが、「アギト」は最終5話という、本来なら1クール程度かけてやるものを数回でこなすという、ちょっと駆け足気味の展開であった。「パラダイス・ロスト」は平成ライダー劇場版における最高傑作であると思うのだが、「市民」の象徴としてのオルフェノクってのは理解できるのだが、一見すると単に人類が新人類であるオルフェノクに追いやられただけ*5、ともとれる。


 しかし、「ディケイド」の22・23話は「市民社会の敵」としてのライダーを、しかもイレギュラーが許される劇場版ではなく通常のテレビ放送にてきっちり描いたという意味で、傑作だと思う。


 しかも、ラストがまた良いよね。
 民主国家において、エリア管理委員会による支配を市民が望んでいる以上、「社会の敵」である仮面ライダーという存在は秩序を乱すテロリストであるわけだ。だからフォーティーンを倒しても、市民が自らの意思でセキュリティを保障する管理を望む限り、社会は変わらない。
 だから、黒田勇樹が好演する海東純一は洗脳もなんもされておらず、市民の意思を尊重するのと同様に、海東大樹の意思も尊重した、というラストはグッジョブだと思うねぇ。やはり、ポストモダン的管理社会というかポスト近代社会を変えるのは、市民一人一人の内なる意思の力というか価値観なのだ。いや、流石だよ井上敏樹大先生。



 もともと石森章太郎の原作漫画版「仮面ライダー」にも、そのような要素はあった。
 漫画版のクライマックス、ショッカー秘密基地の最深部にて、仮面ライダーはラスボスであるビッグマシンと対峙する。


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「まったく……電子頭脳(コンピューター)をつかって日本人をロボット化しようなんて……!……とんでもないことを考えたもんだが、そんなデタラメは許すわけにはいかないんだ!」
「……ふふ。……この計画はもともとお前たちの政府がはじめたものだよ」
「なんだと!?」
「おまえもきいたことがあるはずだ。国民を番号(コード)で整理しようという国会での審議を……あの“コード制”というアイディアは日本政府の「コンピューター国化計画」の一部なのだ」
「?」
「ふふふ。もっとも……いちはやくそれをキャッチしたわが“ショッカー”本部が……日の下電子に政府が発注したこの電子頭脳の九分どおりの完成をまってのりこみ……ぶんどって一部に手をくわえはしたがな。
 しかしそれも……おまえたちのえらんだ政府の計画をより完全なものにしてやろうという親切心からしたことだ。ふふふふふ……」
「そ、そんなことは信じられん!」
「うそではない!!」
「うっ!!」
「ふふFBI日本支部の滝という男もそういっていたはずだ。だからわれわれがうらまれるのはめいわく千万な話なのだ!うらむのなら日本政府を……そうじぶんらで選んだ政府なのだからじぶん自身を……」


 そういうわけで、古い皮袋に新しい酒を注ぐ「仮面ライダーディケイド」は、やはり傑作であると思う。劇場版も楽しみだわー。


 そうそう、こういうのを劇場版や5回や2回のみじゃなくて、テレビシリーズ全編にわたってやるというのが、井上敏樹に遺された最後の仕事だと思うのだが、どうか。
 ビッグブラザーならぬビッグマシンが支配する、もう一つの1984年ならぬ1Q84年を舞台にした仮面ライダー。その名も「仮面ライダー・ハルキ」。世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドで大冒険。カンガルー日和にランゲルハンス島でねじまき鳥と一大ファイト。無垢の民である<卵>を<壁>から守るのがライダーの正義!ライバルライダーは勿論「仮面ライダー・トシキ」だ!!

*1:いかにもオタらしい心配

*2:昔の世界、ってことだ

*3:尺があれば洗脳クウガVSディケイドをやったんだろうなぁ

*4:ちなみに全部井上敏樹大先生の脚本です

*5:それも石森漫画的には抜群にOKなのだが