アニメと実写のあいだ、特撮と時代劇のあいだ:『劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』

最近の東映は実入りの良い仕事と考えているのか2、3ヶ月に一回ライダーや戦隊やプリキュア達が集団戦闘する映画を公開している。聞いたところによると、一般映画に比べて比較的安い制作費にも関わらず、親子連れで客が入ってくるので普通の映画より興収が良くなるのがこたえられないのだそうだ。確かに去年の電王三部作なんて安そうな作りだったけど客が入っていたもんなぁ。
そんな東映も盆と正月は気合を入れた映画を作る傾向がある。特に昨夏の『仮面ライダーW FOREVER AtoZ / 運命のガイアメモリ』はクオリティの高い傑作だった。ヒーローものとしてだけでなく、普通のアクション映画としてみても良い出来だった。
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ただ、自分としては、出来の良さは認めるものの、手放しで好きになれる作品ではなかったんだよね。何故かというと、自分は東映特撮の過剰さや歪さに魅力を感じているからだ。チャイルディッシュな設定。チープさ漂うセット。不自然な展開や台詞。そういったものを、魅力溢れる設定や、豪華な背景や、味わい深い展開や台詞に変える、脚本家や現場スタッフや役者の力があった、それまでの東映特撮の傑作には。
『運命のガイアメモリ』は傑作であることに違いないのだけれど、三条陸の脚本やシリーズ構成やキャラ造型が全てを支配し過ぎていて、現場スタッフや役者による素敵なサムシングが足りない気がしたんだよね。監督の坂本浩一の興味はあくまでもアクションであって、人間ドラマには興味無さそうな感じだったし。
絵に描いた餅をそのまま動かすアニメなら、三条のやり方で正解なのだと思う。しかし、役者のマジックや現場での化学変化を可能な限り取り込み、時にはそのマジックや化学変化を既存の仕込みや段取りよりも優先させてしまうのが実写作品のキモなのだろう。そして、優れた実写映画の脚本家は、そういったマジックや化学変化の誘導を促すような脚本を書く、ってことなんじゃなかろうか*1。主演がオダギリ・ジョーじゃない『クウガ』、半田健人じゃない『555』、佐藤健じゃない『電王』は考え難い*2が、桐山漣菅田将暉じゃなくても『W』という作品の魅力は大差ないんじゃなかろうか(好演した須藤元気や『エターナル』については別のエントリで書くつもり)。



で、前置きが長くなったのだけれども『劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』の話だ。
この映画、一言でいってしまうといつものお祭り映画なんだよね。『運命のガイアメモリ』の充実っぷりに比べると、完成度もあんまり高くない。将軍は単に街中で主人公とスレ違っただけだし、酒井美紀と子役の母子の話なんて女優の私生活と劇場に連れ添いで来た親の生活に無理やり重ねあわせようという意図がみえすぎるし、地面が円形に裏返ってドイツや江戸時代に通じるが「世界の終わり」とどう関係するのかよく分からないしと、そこここにご都合主義が垣間見える。


でも、やっぱり主人公が子役のおにぎり喰って「ありがとう」とか、クライマクッスで叫ぶ「全員家族!」という台詞は、役者が渡部秀じゃなかったら全然違うものになっちゃてると思うんだよね。番組も一年の半ばを過ぎて、俳優の活かし方も殺し方も分かってきた靖子が、完全にアテ書きで書く上手さがここにある。


また、特撮と時代劇の関係性が垣間見えるのもこの映画の良い所だ。
かつて特撮と時代劇は一つだった。いや、特撮が生まれたのは時代劇における殺陣や様式美や撮影所のシステムがあったればこそだった。『大魔神』『妖怪百物語』そして『仮面の忍者赤影』……『仮面ライダー』で伊上勝が作ったテンプレートは、それまで東映が作ってきたケレン味たっぷりの忍者モノ時代劇と石森章太郎ワールドの融合であった。倉田準二や平山亨は「人知れず戦うヒーロー」「悪の秘密結社」「巻物争奪戦」といった時代劇で培ったテンプレートを特撮に応用した。
仮面ライダー・仮面の忍者赤影・隠密剣士・・・ 伊上勝評伝 昭和ヒーロー像を作った男
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で、本作で松ケンとオーズが交互に敵を倒し、共に刀を構えるシークエンスは、こういった特撮と時代劇の同一性を映像だけで語る名シーンだと思うんだよね。時代劇を象徴するのが生身の役者で、特撮を象徴するのがヒーローのスーツという描き分けも良い。「全員家族!」という台詞も、まるで「特撮と時代劇は家族だ!」と言っているようにも聞こえてくるのだ。


そういうわけで、決して出来のいい映画ではないが魅力ある作品だと思う本作。でも、DVDで良いっちゃ良いかもなー。正直、酒井美紀と子役の話を入れるくらいなら、め組や御庭番が登場させるべきだとも思う。もしかして、「エピソード・ゼロ」みたいな感じで初代オーズの話にした方がスッキリ表現できたのかもなー、とも思う。
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そうそう。フォーゼは全然カッコ良かったのだけれども、もしかしたらオンドゥル星の住民かもしれないという危惧が……いやいや、まだ慣れてないだけだよな。

*1:なんだかんだいいながらも井上敏樹が上手いと思うのはそこらへんの空白をわざと入れていることが分かるから。靖子もアニメと特撮では書き方を変えているのが分かる

*2:だから皆『ディケイド』に文句言ってたんだよね?