『電人ザボーガー』が素晴らしい三つの理由

最近オタ友に会うと会話の9割が『電人ザボーガー』の話題だったりするマクガイヤーです、こんばんは。
それだけ井口昇によるリメイク版の映画『電人ザボーガー*1は傑作なのだと思う。どのくらい傑作かというと、映画を観た後思わずカラオケに行って主題歌を熱唱したり、「飛龍 三 段 蹴り!」と叫びながらジャンピング・キックしたくなるほどの傑作だ……や、まぁ思わず自分も何かをしたくなるような映画、と理解して貰えれば嬉しい。


思い返せば、『ガメラ2』や『エヴァンゲリオン』、『少林サッカー』や『トランスフォーマー』が世に出た時も、自分は似たような心持ちだった。ジャンルが熟成し、行き詰った後、それまでの蓄積を活かしつつも、全体的にみると突然変異のようにみえる異形の力で壁を越えてしまうエポックメイキングな作品がどのジャンルにもあるものだが、井口昇によるリメイク版『電人ザボーガー』はそんな類の作品だと思う。多分、自分にとっては『ガメラ2』や『電人ザボーガー』と同じく、DVDやBDを買って、何度も何度も見返しそうな映画になりそうな気がするなぁ。
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電人ザボーガー』の魅力、それは特撮映画、お笑い映画、そして井口映画としてのそれに分けられるだろう。順に説明していきたい。



まず『電人ザボーガー』の凄い所は、現在作られる特撮映画として古くて新しいところだと思う。
自分は平成ライダーが大好きで、平成ウルトラマンもそれなりに好きなのだが、昭和のライダーやウルトラマンにあった魅力を平成のそれらが全て受け継いでいるのかというと、違うわけだ。
現在のライダーは決して造成地やお化けマンションで戦ったりしないし、ウルトラマン夢の島や工事現場で戦ったりしない。怪人や怪獣の着ぐるみはラテックス素材の質感を隠した実に出来の良いものであるし、生身の人間幹部やヒーローの名前を連呼する主題歌、必殺技の名前を熱いイントネーションで叫ぶシーンなんてのも無くなってきた。
そういったチープさやダサカッコ悪さというものを、平成ライダーや平成ウルトラマンは敢えて切り捨てている。何故か。自分の息子をみていると良く分かるのだけれども、子供はそういう手抜きや時代の最先端をあえて外したチープさに敏感なんだよね。だから、うちの息子なんかはメタリックな色使いの平成ライダーにはハマりまくっているのだけれど、くすんだ色ともっさりした造形の昭和ライダーはあまり好きでないらしい(平成の中で一番好きなのがBlackとアマゾンというのも良く分かる)。
ただ、今の大きなお友達が子供だった時代、今よりもくすんだ色使いやもっさりした着ぐるみ造形は、それはそれで時代の最先端だったんだよな。
そういうわけで、『電人ザボーガー』は平成ライダーが切り捨ててきたものを敢えて取り込んでいる。具体的にいえば、敢えて恥ずかしい衣装を着た役者*2、敢えて旧作のまま名前や必殺技を連呼する主題歌、最近のライダーやウルトラマンが避けてきたエログロと馬鹿さ、本家東映特撮よりも金をかけた為クオリティ高いCG、そして、それらを強い意思でやりきる熱さだ!
特に、敢えてリメイク元を完全再現したオープニングからそれは顕著で、バイクからロボット形態へ変形しながら戦い合うクライマックスまで、結果的に『スタートレック』よりも高クオリティになってしまった『ギャラクシークエスト』を連想してしまった。
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また、『電人ザボーガー』には板尾創路主演のお笑いコント映画としての魅力もある。
ざっくりいって、第一部を70年代特撮のチープ感と熱さを大切にしたリメイク、第二部を70年代の子供が大きくなってもヒーローではなく大きなおともだちにしかなれなかった我々に向けた悲哀込みのボンクラ・アクション映画、ってのが本作のコンセプトだと思う。で、おそらく井口昇の頭の中には、マジにやってしまうと第二部があまりに暗すぎるものになるという懸念があったのではなかろうか。
どうするか。井口昇がみつけた答は「板尾創路の”お笑い力”で突破する」という手法だった。それも90年代にダウンタウンが開発した比較的新しい「お笑い力」で。
たとえばクレージーキャッツとかドリフターズとか、お笑い芸人が出演するコメディ映画というのは昔からあった。一つの人情喜劇としての映画で、60〜70年代を全盛期とし、一旦その流れは途絶えたかのようにみえた。
その一方で、80年代にたけしやさんまが『オレたちひょうきん族』ではじめ、とんねるずダウンタウンウッチャンナンチャンが90年代に完成させたコントを含むバラエティー番組の流れを汲むコメディ映画というものが、ゼロ年代後期やテン年代の今になって、やっと出てきた。
で、その一つが『電人ザボーガー』なのだと思う。井口昇が作った予告編はまんま『ごっつええ感じ』だ。

「ザボーガー! 1分だけ抱きしめてもいいか?」
60〜70年代のコメディ映画が音楽とキャラの奇矯な振る舞いで笑わせて泣かせるとすれば、現在のお笑い映画は台詞の間やエクストリームな言葉の表現で笑わせるという特徴があると思う。
板尾創路は『ごっつええ感じ』で世に出、テレビ界でコント番組がほぼ絶滅した今もなお、数々の映画で強烈な役柄をこなしている。数十年後に日本映画史を俯瞰した時、板尾創路ハナ肇植木等に並び立つ映画コメディアンとして認識されるんじゃなかろうか。正に現代のお笑い映画俳優だ。少なくとも本作『電人ザボーガー』は板尾創路の魅力がなければあれほど笑って泣ける映画にはならなかったんじゃなかろうか。おそらく、本作を観て一番悔しがっているのは松本人志だと想像する。
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もう一つ。本作は井口昇フィルモグラフィーにおけるある種の到達点にしてターニングポイントとも思える。
井口昇がブレイクしたのは、それまで傍観者で被害者でしかなかった少女が片腕にマシンガンを付け、自分の人生を決意する『片腕マシンガール』が契機であった。以降の井口昇は『ロボゲイシャ』『戦闘少女』『富江アンリミテッド』『古代少女ドクちゃん』と、少女が主人公の映画ばかり撮ることになる。それは、女の子の視点で、女の子が熱く人生を決心する映画ばかり撮ってきたということを意味する。インタビューでも「本当は女の子になりたいんです」なんて言っていた。
『ザボーガー』は青年大門豊と中年大門豊が熱く人生を決心する映画だ。もしかすると井口が自分を投影しているキャラはミスボーグになるのではなかろうか。そう考えると、本作でオリジナルと最も異なる点――大門豊とミスボーグが恋愛に落ちる理由が分かる。きっと井口昇は大門豊が象徴するもの――映画や特撮やヒーローという名のなにかに救われたのだ。
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そんなわけで東映も『電人ザボーガー』を見習って欲しいのだが、いっとう最初に本作のテイストを取り入れるべきは平成ライダーではなく、平成戦隊なのではなかろうか。熱い主題歌、熱い俳優、エログロにアクション……そういったものを実現しようと頑張りつつも、なかなか高いクオリティで実現できないのが今のスーパー戦隊なんじゃなかろうか。
そういや本作で熱く好演していた古原靖久も山崎真美も、その出自はゴーオンレッドに風のシズカ戦隊シリーズであった。自分が小さいちんこを初めてガチガチにしたのも、デンジピンクが十字架に磔にされていたシーンだった。熱い俳優とエログロを目指していたのはライダーではなく戦隊ものだったんだな。そういう意味で、先週・今週と『ゴーカイジャー』に古原靖久が出演した/するのは、やっぱり東映から『電人ザボーガー』会社の壁を越えたエールなのかねぇ? ……と特オタ以外は共感し難い話題で筆を置きたい。ジャッ!
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*1:以下、特にことわりの無い限り『電人ザボーガー』という表記は井口昇によるリメイク版の映画『電人ザボーガー』を意味するのでよろしく

*2:戦隊系の役者を起用している点については後述