エクストリームな何か:『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』

平成ライダー劇場版といえば、『パラダイスロスト』や『MOVIE大戦2010』といった少数の例外を除いて、お祭り感覚に溢れるイベント映画としての存在価値は大きいけれども作品的にはつまらんものと相場が決まっているのだが、今年の仮面ライダーW劇場版『AtoZ/運命のガイアメモリ』は素直に面白かったな。


まず、脚本が良いと思うね。基本的にはアクションシーンのつるべ打ちで、合間合間にドラマシーンを挿入するというのが最近の東映特撮映画の勝ちパターン*1なのだが、それに加えて、きっちり三幕構成で、レギュラー陣のみならずゲストそれぞれにも見せ場を作り、物語の起伏と登場人物の感情の起伏が同期していて、おまけにTVシリーズのゲストキャラが大挙して友情出演し*2、クライマックスで元気玉エネルギーを送るという超がつくほどの王道少年マンガ的展開。はっきりいって、凄い気持ちが良かった。これに抵抗できる日本人男子は少なかろう。三条陸は職人だよなー。


また、劇場版といえば豪華なゲスト、増量された敵、いつもよりクオリティの高いアクション&特撮シーンといったものを求めてしまうわけなのだけれど(だからそれらが満たされなかった『電王トリロジー』はつまらなかったわけなのだけれど)、いつもより強いアイテム(次世代ガイアメモリ)で変身する傭兵軍団とのバトルって展開は申し分ないよね。なんか、一匹の怪人に対して5人でタコ殴りにするスーパー戦隊の逆バージョンとして、大勢の敵に対して孤軍奮闘するロンリー・ライダーという燃える展開が良い。まぁ、実際は2号ライダーであるところのアクセルとかマーケティング的な理由から登場する来年のライダーが助けてくれるわけなのだが。
にしても、平成ライダー映画は最終回後の未来とかオルフェノクの占領完了したパラレルワールドなんかを舞台にすることが多いのだが、TVシリーズと共通の世界観+バージョンアップした敵といえば最初の劇場版であった『アギト』の『プロジェクトG4』なんかを思い出す。シリーズの仕切りなおし作品としての『W』は劇場版もシンプルさを意識してるってことなんだろうか。


また、アクションシーンのキレの良さも特筆ものだ。『ウルトラ銀河伝説』でウルトラ戦士達に香港アクションをやらせた坂本浩一が監督なのだが、役者が動くこと動くこと。特に、ジョン・ウーばりに無限段数の銃を撃つ杉本彩とか、生足放り出してキックを放つ片腕マシンガールこと八代みなせとか、変身前が良い。TV本編では、結末に向かって語らなきゃいけないことが多すぎるせいか、当初に比べてアクションシーンがショボくなってしまったのだが、ガイアメモリや多段変身といったガジェットの使い方含めて、劇場版は映画ならではのアクションシーンを堪能できた。



そういうわけで、「普通の」アクション映画として、普段ライダーや戦隊ものを観ない人達にこそみてほしいのだが、ここまで出来が良いと不満もある。特に「普通」じゃない映像作品、特撮が好きな者としては。
特撮の魅力とは何だろうか。非日常の映像、有無をいわさぬ格好良さ、イケメン俳優……人それぞれだと思うのだが、やっぱり「普通の」映像作品には無い「エクストリームな何か」であると思うんだよね、私は。
そういう観点からみると、『仮面ライダーW』という作品には不満がある。特に本編であるTV版が不満だ。職人、三条陸による申し分の無い脚本。東映の小馴れた撮影システム。若手イケメン俳優……。まるで、絵に描いた餅をそのまま動かすアニメ的な完成度の高さがそこにはある。
やっぱりさ、人間をムシャムシャ喰うフランケンシュタインの怪物とか、ガメラに敬礼する自衛隊とかが観たいわけよ。正義の味方であるウルトラマンが人類に絶望するとか、アルミホイルをバックに女性隊員に告白するシーンとかが観たいわけよ。平成ライダーでいうなら、変身前の俳優が素手ゴロで泣きながら殴りあうとか、最終回直前に主人公が死ぬとか、怪人と料理対決するとかいったエクストリームな展開が観たいんだよね。


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おそらく、三条陸のやりたいことっていうのは「普通の人間の強さ」ってことなのではないかと思う。『ダイの大冒険』の真の主人公が竜の騎士の血を引くダイではなく普通の人間のポップであったように、『W』の主人公は園咲家の一員で地球の本棚にアクセス可能なフィリップではなく翔太郎だ、というのがやりたいのだと思う。翔太郎のリアル家族が描かれないのもおそらく意図的なことなのだろうし、『ビギンズナイト』が翔太郎の成長を描いた物語なのだとすれば、『運命のガイアメモリ』はフィリップの物語なのだろう。
そういうのは凄い上手いと思うのだけれど、もし同じプロットで井上敏樹が脚本書いたら悪役の悪たる心理を執拗に描くだろうし、會川昇だったら正義の正義たる拠所を描くだろうし、小林靖子だったら死ぬか生きるかみたいな緊張感を描くだろうし、荒川稔久だったら暴力の犠牲になる者たちの悲しさを描くだろうなぁ、なんて思っちゃうんだよね。


あとこれは「脚本家の業」に関係するかどうかわからないけれど、もうちょっと台詞で説明する場面を少なくしても良いんじゃないかと思った。「そうか、フィリップの母を求める気持ちが云々かんぬん〜!」みたいなものまで台詞で説明すると、それこそシネコンでやってるような「普通の」映画と同じになっちゃうよな。


まぁ、色々文句を書いたのだけれども、文句を書く気力もなくなるくらいのデキな普段の平成ライダー映画に比べれば段違いなわけで、気になった方は是非とも観て欲しい。
ああ、そうそう、来年の『オーズ』はもう名作確定です。タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ! ……なんて串田アキラ・ボイスで叫ばれちゃ嫌いになれないぜ!

*1:例)『ゲキレンジャーVSゴーオンジャー

*2:スタッフロールで友情出演の多さに笑った