ぼくらは全員ささきいさお!:『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』

前回の続きのような、続きで無いような日記。
『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』とライダー40年の歩み40YEARS CHRONICLE
東映
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オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』鑑賞。スタッフが命をかけて本気で作ったというよりはプログラムピクチャーなお祭り映画だし、タイムトラベルものとしてはツッコミどころ満載な映画だったし、オールライダーものとしてはやっぱり『ディケイド』の方が好きなのだけれども、特筆すべきところがある映画だと思ったよ。


タイトルからも分かる通り、これは「スパロボ映画」の一種だ。以下、前回のコピペ。

  • スパロボ大戦映画」は下記のように定義される
    • 少なくとも三作以上続いている長期テレビシリーズの映画化であり
    • それぞれの作品において主人公を務めるヒーロー/ヒロイン達が資本主義的な要請から一同に介し
    • 当初は全く他人だったり、いがみ合ったり、仲間内で戦ったりするものの
    • 最後は一丸となって蘇った歴代幹部や再生怪人軍団や映画オリジナルなラスボスを倒す
    • 旧来の「まんがまつり」とフォーマットは異なるものの、お祭り感は共通する映画


このような映画が流行する理由は、当然メリットがあるからだ。

  • メリット
    • 比較的安直に企画・製作し易い
    • 相応の動員が見込まれる点


メリットがあれば、当然デメリットもある

  • デメリット
    • どうしてもヒーロー/ヒロインの人数が多くなるので、キャラが被る奴等が出てくる
    • それぞれにある程度の見せ場を作る必要があるので、構成に無理が出やすい
    • ワンパターンになるので、続編が作り難い


しかし、何回も作ればこなれてくるもので、上記デメリットの回避方法も幾つか考案されるようになってきた。


で、本作『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』は、この回避方法の見事さによって、ちょっと見逃せない映画になっていると思うのだ。


タイトル通り、仮面ライダーオーズとNEW電王は本作の主人公の一員だ。
S.I.C. 極魂 仮面ライダー電王ソードフォーム
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自分は『電王』が大好きなのだけれども、どんなに屁理屈こねたとしても真っ当なSFとしては評価できない*1し、タイムトラベルものとしては超いい加減だと思う。タイムトラベルものにはタイムパラドックスをどう解決するか? という重要なポイントがあって、時間旅行者による歴史改変が起こると枝分かれ状に複数のパラレルワールドに分岐する、という多世界解釈をとるのが常道*2なのだが、基本的に線路のように一本道で、「特異点」とか「神の路線」とか「分岐点の鍵」といったイマイチよく分からないのだけれども力を持った言葉を持つ設定で押し切り、面倒くさいSF考証なんていーじゃん、いーじゃん、どーでもすげーじゃん! で済ませたのが『電王』だった。


一方で、タイムトラベルものに「人の記憶が時間に影響する」という概念を持ち込んだのが新しい点だったともいえる。どんなにタイムパラドックスが起こっても、誰かが覚えている限り、人や事象は存在し続ける。一方で、誰も覚えていなくなると、たとえ「時間(他世界解釈でいうところのパラレルワールドに相当)」が修復されても人や事象は復活しない。普通のドラマツルギーで考えたら別れが待っている筈のラストも、「人の記憶」でハッピーエンドとなった。『電王』はタイムトラベルものとみせかけて、「人の思いや記憶が現実を変える」ということを描いた映画だったのだ。



以下ネタバレ。


本作の世界観は『オーズ』とも『電王』とも異なる、映画だけのパラレルワールド*3。40年前にショッカーが存在し、歴代ライダーの全てが存在する世界なのだが、映画冒頭で既にナオキが40年前の記憶を持っており、映画が始まる以前から何らかの歴史改変が行われていたことを意味する。そして、現在の仮面ライダーであるオーズ――映司から勇気を学んだ後、時間を旅したナオキが洗脳された最初のライダー――仮面ライダー一号、二号を元に戻し、歴代ライダー復活のきっかけとなる。


これはどういう意味を持つのだろうか……と問いかけるまでも無く、意味するところは明白だ。
つまり、ナオキは現役ライダーの視聴者である今の子供の象徴であると共に、40年前から面々と続く仮面ライダーシリーズの視聴者の象徴なんだよね。子供であり、おっさんであるわけだ。しかも、40年間過ごしていない、40年間ライダーを見つづけていない、現在の子供の象徴でしかないミツルの父親でもある。
しかも、そのおっさんを演じるのが、よりによってささきいさおだったりするんだよね。
〜デビュー50周年記念〜 ささきいさおTV主題歌全集 [DVD]
ささきいさお
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ショッカーに拉致され、科学班で働かされたささきいさお! 『ガッチャマン』でコンドルのジョーをアて、共演した上田みゆきと結婚したささきさお! 『ゴレンジャー』と『ヤマト』と『メタルダー』の主題歌を熱唱したささきいさお! 『ジャスピオン』で黄金の鳥を追いかけたささきいさお! 『ZO』にて博士にしてライダーの父親役を演じたささきいさお! 日本の特撮とアニソンを象徴するささきいさおが、40年間特撮とアニメを見つづけてきた我々に重なるんだよ!!
しかもしかも、そのささきいさおが、40年前に戻って本来の歴史に戻そうというオーズや電王の申し出を断るんだよね。「ノッコと結ばれて、ライダーと共に生きてきたこの40年間、ぼくは幸せだった」と。おれの青春は輝いていたと。おれの人生は 満たされていたと。
……これはさ、子供の頃から特撮やアニメを見続けてきて、4歳の息子と一緒に映画を観に行った自分には、ちょっとくるものがあったよ。最近の投影特撮は明らかに親子二世代をターゲットにしてるのだけれど、このような「メタフィクション」と「オリジナル主人公」なんて手を使ってくるとはな。
『電王』本編では登場人物の記憶が改変された時間を修復し、世界を作っていた。本作では観客の記憶が時間を修復し、世界を作っている、ということなんだよな。怪獣博士や少年ライダー隊には嫉妬まじりの不満タラタラだったおれ達大きなおともだちも、ささきいさおには満足だ。


そういうわけで、本作の真の主人公はささきさおだ。右腕アンクが飛びまくっていて死なないか不安とか、なんで改変された現在に残った映司が二回目のタイムトラベル知ってるんだよとか、クライマックスが単なるヒーローショーとか、ブラックとRXが言い訳ゼロで同時に存在とか、歴史が変わったままで映画終了とか、巷で非難轟々な描写も、全然受け入れられる。ささきいさおで全て許す!



とはいっても、本当は不満が無いわけでもない。


はっきりいって、キカイダーイナズマンの「いるだけ参戦」が多いに不満だ。ゲームだったら手持ちユニットとして自由に動かし、自分だけの物語を紡げるけど、映画だとそうはいかない。単なる顔見せ興行よりも劣悪な、ひとりよがりなサービスと成り果ててしまう。
最も大きな不満は、絵作りがカッコ悪いということだ。なんでそれぞれのライダーが持つ必殺技や大型マシンをもっと出さないの? 名乗りのシーンやそれに続くアクションシーンで主題歌くらい流さないの? なんで昭和ライダーはわき腹あたりの服の皮が余っているの? 『ディケイド』のライダー大戦よりも退化してるじゃん! 過去作で出来ていたことが何故できないの?
……愚考するに、多分スタッフの情熱は『ゴーカイジャー』にいっちゃったんだろうなぁ。


というわけで、2011年度東映スパロボ三部作のトリを飾る『ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦』に期待大だ。こいつぁすごいぜ!

*1:製作陣もそんなこと望んでないだろうが

*2:過去の同ジャンル作を参照可能で、最も矛盾が少ないから

*3:『オーズ』27、28話だけは映画と同じ世界観だと思う