昭和30〜40年代が舞台のオープンワールドゲームがやりたい

コクリコ坂から (スタジオジブリ, 宮崎吾朗監督) [DVD]
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以前のエントリで書いた通り『コクリコ坂から』は結構出来の良い映画だと思うのだけれど、時代背景を原作の1980年から1963年――昭和38年にした変えた理由って、あんまり無いと思うんだよね。
いや、企画を立てた宮崎駿としては「学園闘争をノスタルジーとして描きたい」とか「東映入社や労組活動と重ね合わせたかった」ってのはあると思うよ。
でも、監督の吾郎にとっては「そんなの知らねー」的問題意識なんだと思うんだよね。
じゃ、なぜ昭和38年が舞台なのかというと、プロデューサー観点からのマーケティング的理由が大きかったんだと思うんだよね。すなわち、現在最も世代別人口が多い団塊の世代とその周辺の世代が多感な時期を過ごした青春時代を舞台にすると同時に、『ALWAYS 三丁目の夕日』や『20世紀少年』といった作品の影響から、若い世代からは一種のファンタジーとしてみることが可能な時代だからなのだと思う。皆、昭和30〜40年代が好きなのだな。それも、敗戦から高度成長期への変化に伴い、公害や貧困といった社会問題や新しい犯罪が出現してきた昭和30〜40年代ではなく、人情や家族愛といった人間的結びつきや現在では失われてしまった真の豊かさなるものに溢れていたという、懐かしいイメージの中で捏造された昭和30〜40年代が。


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一方で、最近のサブカル界にはもう一つの流れがある。『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』や『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』や映画じゃないけど『コール オブ デューティ ブラックオプス』のように、架空歴史や歴史改変まではいかないが、歴史の影にスーパーヒーローの活躍あり! 政府の陰謀あり! 宇宙人との密約あり! みたいな、ある種の陰謀史観をとりこんだ作品群のことだ。こういった作品群がこれまでの架空歴史ものと違うのは、「こうだったらよかったのに」みたいなトンデモ的願望ではなく、今ある問題は全て過去に原因があるとする歴史から現在を照射する視点や、あの時代にアメコミヒーローが実在していたら当然こうなっていただろう的「ベタさ」や「おもしろさ」を優先しているところだろう*1
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特に『ブラックオプス』は凄い。いきなりカストロ暗殺指令、ソ連収容所での拷問と脱獄、バイコヌール基地潜入、北極圏にあるナチスの秘密基地、……間違いないね、このシナリオを書いた奴は絶対童貞だ! ペンタゴンケネディから「腕利きスパイのキミが戻ってくれて助かったよ。キミに頼みたいミッションがあるんだ……」みたいなシチュエーション、伊藤計劃が生きてたら絶対書いてたんじゃなかろうか。まだプレイしてないのだが、後半には童貞が最も好む偵察機SR-71でのミッションもあるらしい。うひょー。


で、ちょっと思ったのだが、日本でもこういうゲーム発売されないかね。つまり、捏造された昭和30〜40年代の世界観を思いっきり楽しめるゲームだ。映画よりもゲームの方が世界観に没入できるからね。



そのような話題でTwitterにて野口智弘さんと雑談したりしていたのだが、このようなゲームを作る場合、当然方向性は二つに分かれるだろう。


一つは、捏造されたファンタジー空間であるところの昭和30〜40年代の東京を舞台にしたオープンワールドゲームだ。
プレーヤーは『おもひでぽろぽろ』的な住宅地に住んでいるのだが、一番の親友は家が『ALWAYS』的な自動車修理工場をやっていて(逆も可)、学校では『コクリコ坂』的な学園闘争があって、隣には売れない小説家が住んでいて、母さんは夕方になるとサンマをくわえたドラネコを追いかけたりするわけだ。町は『グランド・セフト・オート』以上に作りこむ。特に、銭湯と居酒屋ははずせないね。
ぼくのなつやすみ3 北国篇 小さなボクの大草原
万代千紗 ゲーム・ミュージック marhy 鈴木絢子 千葉翔也 大藤史 沢田知可子 本名数人 戸田和雅子 菜穂 斉藤恵
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イメージ的には『ぼくのなつやすみ』1965年版という感じか。『ぼくのなつやすみ』は1〜3作目は1975年、4作目は1985年と、ターゲットとなる購買層がリアルタイムで子供時代を過ごした年代を舞台にしていたわけだが、全ての年代にとっての懐かしさを象徴する時代空間を舞台にするわけだ。


もう一つは、「封印された戦後史」みたいなストーリーラインのオープンワールドゲームあるいはFPSだ。
主人公は内閣情報調査室もしくは自衛隊情報保全隊の職員なのだが、普段は身分を隠して『ALWAYS』的な東京下町の貧乏長屋に住んでいるわけだ(ここははずせないね!)。あるいは、暴力団の若頭なんてのも良い。で、下山事件三鷹事件の真相を探ったり、731部隊の遺産を探す為に登戸研究所の地下に潜ったり、『人狼』や山本直樹の『レッド』的な政治闘争に関わったりする。ちょっと年代が違うけれども、廃止前の赤線地帯に潜入なんてのも良い。クライマックスは建設途中の東京タワーもしくは大阪万博での戦闘だ。
東京事件 1 (角川コミックス・エース 49-4)
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イメージとしては『龍が如く -TOKYO CASE-』みたいなものだ。当然、三億円事件の真犯人や永山則夫NPCとして仲間になる。ナチスの流れを汲む秘密結社に誘拐されて改造手術を受ける、なんてのも興奮するなぁ。


スーパーロボット大戦にはスーパー系とリアル系という分類法があるが、似たようなものかもしれない。ディズニーランド的ファンタジー昭和30年代ルートと、昭和史のアンダーグラウンドを駆け抜けるハードルート、みたいな。嗚呼、やりたい。プレイしたい!


映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲 [DVD]
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でも、自分のように本当の昭和30〜40年代を知らず、今ブームとなっている昭和30〜40年代は捏造されたファンタジー空間であることを認識している世代が作るとしたら、ラストは必ず世界観をひっくり返すオチをつけそうな気がするな。「ここは本当の昭和30年代じゃない。イエスタデイ・ワンスモアが作った偽者の昭和なんだ!」的な。

「そもそも60年代に青春時代を過ごした団塊の世代を主人公にして、『あの頃はよかった』的な話をやることに違和感があった。いまの行き詰った時代のきっかけを作ったのは団塊の世代じゃないの、と思いますよね(苦笑)」


……と吾郎がプレイボーイのインタビューで語っていたが、団塊ジュニア以降の世代に共通する感覚だと思う。この行き詰まり感を表現したいという思いがどこかにあるんじゃないかと。
だから、現在製作中という『ALWAYS 三丁目の夕日』の三作目のラストが、老人ホームで介護される堤真一アルツハイマー病に蝕まれた脳でみた一夜の夢だった……みたいな締め方でも、全然驚かないなぁ。

*1:後者は『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』に失礼かもしれないが、まぁそういう要素がゼロではなかろうと