『特撮仕事人 特撮監督 佛田洋の世界』

特撮博物館」の会期中に紹介しようと思っていた本があるのだが、ちょっと野暮用をこなしている間に終ってしまった。
それでも、全国巡業の検討もしているそうだし折角なので紹介しようかと思う。


特撮博物館」で自分が一番不満だったのは、東宝に円谷にピープロまで紹介されているのに、東映特撮が全く紹介されていなかったことだ
いや、理由はわかるんだよ。ゴジラウルトラマンに比べて、ライダーや戦隊は順調だ。わざわざ負け組みと寄り集まってジブリ博物館の真似事なんてする必要ない。きっと、東映首脳部はそういった観点から参加依頼をやんわり断ったんだと思う*1
でも、日本特撮史を俯瞰してみた場合、昭和ライダーの怪人造形やスーパー戦隊の着ぐるみロボは絶対に外せないものだと思うんだよね。


なによりも『巨神兵 東京に現る』をジブリスタジオカラーと共に製作した特撮研究所は1965年の創設以来、東映作品を手掛けまくりじゃないか。『巨神兵 東京に現る』にスタッフとして参加した三池敏夫も、特撮研究所の所長の佛田洋も、ミニチュア特撮とCG特撮の使い分けに優れた人間じゃないか。特撮研究所は大泉の東映撮影所の中にあるけれど、東映専属でも関連会社でもない。彼らの仕事である戦隊やライダーやメタルヒーローを紹介しなくてどうするんだ……と思ったわけだ。や、「紹介したくてしたくてたまらないのだけれど、オトナの事情でできなかったんだよ!」という思いは、ライダーとウルトラマンがほぼ同じ比率で配置された最後の「館長コレクション」コーナーでしっかり伝わってきたけれども。


そんな中、「特撮博物館」開催直前のタイミングで特撮研究所所長 佛田洋の仕事ぶりを振り返るインタビュー本が上梓された。もう数ヶ月前の話になるのだが、あんまり話題になってないみたいなので紹介したい。


特撮仕事人 (マーブルブックス)
佛田 洋
4123903428
本書はまず「特撮博物館」館長である庵野秀明との対談から始まる。
戦隊は『超電子バイオマン』でいったん離れたが、『ジェットマン』でちょっと戻り、『カーレンジャー』から本格的に見始めたという庵野秀明は、『ジェットマン』のオープニングで佛田洋の名前を認識したという。自分が監督するアニメ作品*2において、CGでミニチュアのセットを再現するという庵野は、佛田よりも佛田洋の仕事に詳しい。

  • パワーレンジャー』でメカにディテールを加えるなんて。アメリカに媚びちゃ駄目。
  • RVソード激走斬りみたいに、そのまま人形回す必殺技バンクをCGではなかなか再現できない。スタッフに言っても嫌がられる
  • ロボはなかなかレオパルドンを超えるものが出てこない。

……等々、名言続出だ。


その後、佛田洋のインタビューが続く。
溢れてくるのは、ミニチュアへの偏愛や、3DCGへの嫌悪でもなく、特撮監督としての演出への拘り具合と、その結果としてのミニチュアとCGの使い分けだ。
「ミニチュアを役者と思って撮りなさい」という師匠矢島信男の言葉を「名言」として語る佛田は、実際に撮れるものに関しては極力ミニチュアを使って撮った方が良いと力説する。

今の時代にCGはダメとかいうのは愚の骨頂で、むしろCGじゃないとできない表現はあるし、実際のところ今の特撮表現にCGは欠かせませんから。ただ、じゃあ全部CGでいいのかといえば、間違ってもそれはないだろうと思うし。

その理由として、そこにミニチュアという現物があるのが大きいと、佛田はいう。まず、現物をみることで、それを動かして、撮影して、映像を作らなきゃいけないという共通認識をスタッフ間で持つことができる。
一方で、予算が潤沢にあるハリウッドなら『トランスフォーマー』のように全てCGでやるという方法もあるが、時間にも予算にも制限のある日本のテレビ特撮では、現物をエイヤっと撮りきり、補助でCGを使うしかないという事情もある。
更に、CGはどう頑張っても最初に描いたコンテ以上のものにならないが、実写だと偶然にも素敵なサムシングが加わって、良きにつけ悪しきにつけ、思いもよらない映像が撮れることもある。良かった場合はそのまま採用。悪かった場合は、それをCGで修正するということもできる。
更に更に、スーパー戦隊の世界観というものもあり、オープンでミニチュアを一発撮りしてこそ出る映像の力もある。


面白かったのは、普段は特撮監督を受け持つ佛田洋が本編監督をやった時のエピソードだ。
通常、特撮作品は特撮監督と本編監督の二班体制になっている。「佛田さんの特撮シーンには演出を感じる」ということで『カクレンジャー』の頃から、何度か本編監督を依頼されることがあるのだという。『ゴーバスターズ』でも前半終了の節目となる重要な回で監督を務めていた。当然のことながら、特撮パートとの連携も良い。
超力戦隊オーレンジャー Vol.2 [DVD]
B0013V10C2
そんな佛田が『オーレンジャー』第15話「友よ 熱く眠れ!!」で本編監督を務めた際、巨大ロボ戦を省略したというのは象徴的だ。ヒーローであるオーブルーと敵怪人であるバラリベンジャーが友情を結ぶという、井上敏樹の書く脚本のあまりの熱さに、「本編部分でドラマが解決しているのに、ロボ戦で再度葛藤をやる必要があるのか。ロボ戦パートが無い方が流れ的に良いのではないか」といった理由から、省略したのだそうだ。更に、普段はレッドしから使わない必殺武器であるジャイアントローラーに、ブルーを乗せる。更に更に、声はスネークじゃなかった大塚明夫だ。
ご存知の通り、スーパー戦隊におけるロボ戦パートは玩具会社のCMとしての要素も併せ持つ番組として、かなり重要なパートだ。井上脚本にも「お約束」としてロボ戦パートがしっかりとあったそうだ。何よりも、佛田洋はそのロボ戦パートを外注として受け持ち、撮影することでお金を貰う制作会社であるところの特撮研究所の人間だ。
そんな佛田がロボ戦を省略するというのは、えらいことだ。ミニチュアもCGも、本編も特撮も、本当の意味で関係ない、最終的に良い作品に仕上がることを目標とする、そんな心意気を感じた。


そういうわけで、巻頭の対談にて「ロボはなかなかレオパルドンを超えるものが出てこないですよね」という庵野の言葉に「レオパルドンを超えるもの! いいフレーズだね」と驚いていた佛田が、インタビューの最後では「基本的に戦隊は『デンジマン』でいいんじゃないかな?」と自ら発言するさまは腑に落ちまくりだった。


その他、『ジャスピオン』でコスト削減のために外注せず自分達で作ったビルが後々まで使われたとか、夕日をバックにうねる龍星王のバンクを撮影したら、余りに出来が良かったのでオープニングに採用されたものの、刺激を受けた「超合金の男」こと村上克司が大神龍をデザインしたとか、誰もが想像した『響鬼』や『電王』の裏事情が想像した通りだったこととか、ニチアサスーパーヒーロータイムを寝る前に観たり、特撮博物館に何度も通ってプロトンビーム発射フィギュアを何個もダブらせている大きなおともだちにとっては、興味深い記録で一杯だ。
カラー版 超合金の男 -村上克司伝- (アスキー新書)
小野塚 謙太
4048677985


男たちの大和/YAMATO』や『聯合艦隊司令長官 山本五十六』といったそれなりの評価を得た一般作品のみならず、『北京原人 Who are you?』や実写版『デビルマン』、東映がライダーや戦隊で稼いだ金を注いで作るという吉永小百合主演映画といった、勝手にこちら側が黒歴史と思っている作品群にも、ほいほい答える佛田のテンポが心地良い。矢口史靖特撮研究所でバイトしてたなんて初耳だったなぁ。
北京原人 Who are you? [DVD]
早坂暁
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そんな、ネットで叩かれていちいち右往左往してるようではダメですよ。


そういうわけで、読んで損の無い本なのだが、Amazonレビューの一評もないので紹介してみたよ。

*1:ULTRAMAN』を連載中の清水栄一と下口智裕が『HYBRID INSECTOR』を東映に認めて貰えなかったことなんか、象徴的だ

*2:当然、『ヱヴァ新劇場版』のことだ