『伊勢田大博覧会6』レポート

先々週のことだが、コリアンタウンを通り越してすっかり韓流タウンになった新大久保に行ってきた。
なぜ新大久保かというと、ネイキッドロフトで『伊勢田大博覧会6』が開催されるからなのだな。


伊勢田勝行とは誰か? アニメ界のヘンリーダーガー。孤高の自主制作アニメーション作家。禁断の自主特撮作家。彼を語る言葉は数多い。
……知らない方の為に今一度説明すると、伊勢田勝行とは神戸在住の自主アニメ作家である。ただ、一人で作画し、一人で撮影し、一人で編集し、一人でアフレコし、一人で劇伴をつけ、一人で完成させるという点が余人の追及を許さぬ最大の特徴だ。ちなみに女性キャラのアフレコは喉仏を上にあげることで高音を出しているらしい。
『伊勢田大博覧会3』、『4』と観覧したものの、子守のために昨年の『5』は観れなかったのだ。そんなわけで、今年は楽しみにしていたのだな。


まずは開催元であるところの映像音声芸者によるつかみのトーク。ここ最近、伊勢田人気が何故かぐんぐん盛り上がっているとのこと。広島で行った上映会では物販に出した1枚1000円のDVDが94枚も売れ、こんなに売れるのなら本人呼べるじゃん! と盛り上がったそうだ。


今回の上映はおなじみ自主特撮『聖ジェルノン』の新作と、自主アニメ『きりーつ!霊』『プリ・マブ』の三作品だ。


昨年、伊勢田監督は『デスカッパ』にカメオ出演したのだが、『デスカッパ』の監督、原口智生もゲストとして登壇し、撮影時のエピソードなどを語っていた。
原口監督の弁によると、「キズついた主人公が再生する」というストーリーラインが伊勢田作品全てに通じており、そこが最大の魅力なのだという。自身の妻だった女性漫画家が亡くなった際、その哀しさを癒してくれたのが伊勢田アニメだったとのこと。
何かお礼がしたく、『伊勢田大博覧会4』と撮影時期が重なっていたこともあって、カメオ出演してもらったそうだ。ちなみに『デスカッパ』には庵野秀明樋口真嗣カメオ出演しているのだが、彼らにはロハで出て貰ったのに対して、伊勢田監督にはちゃんと新幹線のギャラや控え室を出したそうだ。「僕の中では庵野秀明樋口真嗣よりも扱いは上です!」
その後、憧れの特撮映画への出演を恩義に感じたのか、伊勢田監督が生原稿を送ってきたそうなのだが、亡くなった妻の原稿と一緒の棚に入れ、守っているとのこと。なんて良い話なんだ!


その生原稿はどういうものかというと、伊勢田モノには常識らしいのだが、なんと伊勢田アニメは本人が書く漫画が原作なのだ。14才のフリして「なかよし」だの「別冊マーガレット」だのに投稿しているらしい。一度奨励賞に当選し、いつもの女声で応対したら「親御さんに代わってください」と言われて焦ったのだとか。勿論、一人二役で対応したそうだ。
今回、『イカ娘』より早かったにも関わらずモタモタしていたらアニメ化の機会を逸したという『女王陛イカ きょーしょクイーン』の原稿を紹介していたのだが、伊勢田マンガは同人としてみるとわりと大人しめの部類に入る*1。しかし、アニメ化というステップを経ることで驚きの作品ができあがるのだ。伊勢田監督自身も、マンガの時は投稿を考えてわりと抑え目に描くが、アニメ化の際はやりたい放題やると語っていた。


で、肝心の自主アニメ『きりーつ!霊』『プリ・マブ』なのだが、最高に面白かった! 内容はというと、『きりーつ!霊』が漫画ゴラクに載っていそうな日常4コマ漫画のアニメ版、『プリ・マブ』はバレエ部とESP研究部(!)を舞台にした伊勢田版ブラックスワンであった。
特に『プリ・マブ』が凄かった。伊勢田アニメを全編観るにはかなりの体力と集中力が必要で、通常の伊勢田アニメ上映会では短縮版を上映することが多いのだが、今回の『プリ・マブ』はどこも切れないという理由がよく分かった。近年、地味に画力がアップしている*2のと、意味不明なカットはほとんどみられなくなったのに相まって、文芸面でも伊勢田監督なりのやり方というものが確立されたようで、タイトルや設定の言葉遊びと、シャマランも真っ青な伏線を回収した驚愕のどんでん返しがどの作品にも共通しているのだが、『プリ・マブ』では自分の自主アニメ・テクニックの下手さ――「ヘンな動き」を伏線に持ってくるという驚きの手法を用いていた。これは自己を客観視しないとできない手法だ。いやマジで。
あと、今回特に感じたのは、伊勢田監督のエンタメ志向というか、おもてなしの心だ。これでもかとネタを詰め込んだ本編といい、絶対にコスプレで登場する本人といい、クリエイションとはこういうことなのではないかと思う。や、初期作からあった筈なのだが、初見だとクオリティの低さに惑わされて、そういうことに気づかないんだよな……


今回、物販は脅威の売り上げ。自分もDVDを5枚購入。しかも伊勢田監督は物販の売り上げの一部を東関東大震災義援金として寄付するという。阪神大震災の際に神戸で『聖ジェルノン』のロケを強行し、地震で壊れた神戸を「宇宙人の侵略で壊れた町」として作品に活かすという鬼畜の所業をした人間と同一人物とはとても思えない。伊勢田監督もオトナになったのか。それとも、311は伊勢田監督の生き方を変えるほどのインパクトがあったのか。


男声、女声、悪者声と三種の声を作品中で使い分ける伊勢田監督は若本規夫の真似も上手いらしく、昨年ディナーショウで披露されたという「トランスフォーマー小噺」という宴会芸は絶品らしい。今年こそ自分もディナーショウに参加したかったのだが、用事があったので断念した。次回こそ!



そうそう。最後にフード注文するともらえるチケットを利用したプレゼント抽選会があったのだが、なんの因果かTシャツが当たった。コスプレ姿の伊勢田監督に「着てくださいね」と言われたので、きちんと着ましたよ!

*1:伊勢田マンガよりブっとんでいたり、クオリティが低かったりする同人マンガは、コミケで割と普通にみかける

*2:初期作である『ラブコメッサー』なんかと比較してみると良く分かる