『ハッピー フィート2』から妄想する『マッドマックス』続編

『マッドマックス』シリーズ続編が観たい

https://news.yahoo.co.jp/articles/4c1108cbe2174ba6d03a50fe80e9162abcd938f0:title=『マッドマックス』マックスの前日譚は実現しないだろう…トム・ハーディが明かす


――というニュースにガックリきている今日この頃です。

 アメリカ本国では大コケらしいのですが、観た人の評価は批評家・観客共に高いことですし、なんとか続編を作って欲しいものです。
とにかく自分は『マッドマックス』の続編が観たいのです! 観たいよー! 『メタルマックス』にも『Fallout』にも『Fallout』のドラマ版にも無いものが『マッドマックス』シリーズにはある! ……と『マッドマックス:フュリオサ』を観て思い直したばかりなのです。

前日譚は情報多い

 「続編」と書いたのは、マックスの前日譚として準備中とされている『Mad Max: The Wasteland』の内容については、コミック『マッドマックス 怒りのデス・ロード: COMICS & INSPIRED ARTISTS』とゲーム『マッドマックス』の内容から、ある程度答え合わせ的に予想できるからです。

 当初、『フュリオサ』がアニメとして製作される予定だったように、『Mad Max: The Wasteland』もゲームとして製作される予定でした。両方とも企画が無くなったものの、その際に作られた設定が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』公開後に描かれたコミックや別企画として立ち上げられたゲームとして反映されているのだそうです。
 おそらく『Mad Max: The Wasteland』では、『デス・ロード』にてマックスの白昼夢に登場した少女やその母親が登場し、『フュリオサ』にも登場したスキャブラス・スクロタスが悪役なのでしょう。もしかすると『フュリオサ』終盤やゲームにも登場したチャムバケットがメカニックとして登場し、インターセプターを修理したり「マグナム・オプス」と呼ばれるウェイストランドで最も強力で最も速い車を作ることが導入部になるのかもしれません。そして、かなり高い可能性で『フュリオサ』と同じ章立てであり、ヒストリーマンもしくはゲームに登場したグリッファを語り手とする枠物語形式なのでしょう。

後日譚はどうなるのか

 自分が気になるのは『デス・ロード』の続編、後日譚です。
 以前、ジョージ・ミラーは『デス・ロード』のその後について、「フュリオサが悪役のイモータン・ジョーの別バージョンにもなる可能性がある」とコメントしていたことがあります。
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 これで思い出したのが、ジョージ・ミラーが監督したCGアニメーション、『ハッピー フィート』の続編『ハッピー フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』です。
 『ハッピー フィート』は、歌が全てという価値観のコウテイペンギン国で産まれた音痴のペンギン「マンブル」を主人公とした物語です。
 コウテイペンギンたちは歌で意中の相手に求愛するため、音痴というのはコウテイペンギン国においてハンディキャップとなります。しかしマンブルは国を出て世界を巡り、アデリーペンギンイワトビペンギンといった他種族と出会い、これがきっかけとなって自分にタップダンスの才能があることを発見し、歌とダンスを合わせることで国の価値観を変えます。更に謎の「エイリアン」による魚不足といった国の危機すら救います。ゆきて帰りし物語の果てに「革命」を起こしたわけです。 続編『ハッピー フィート2』は、マンブルの息子エリックが登場します。マンブルとエリックによるダブル主人公の物語といって良いでしょう(あるいは、後述するサイドストーリーに登場するオキアミのウィルも主人公の一人に入るかもしれません)。
 ダンスでコウテイペンギン国に革命を起こしたマンブルの息子でありながら、エリックはダンスが苦手で嫌いです。そんなエリックをマンブルは歯がゆく思い、有形無形のプレッシャーをかけます。「革命」を起こして価値観を変えた男というかペンギンが、体制側になり息子に対する圧制者になったわけですね。エリックはそんな父からのプレッシャーに耐えかねて家出するのですが、そこで出会ったのが「空を飛べるペンギン」マイティ・スヴェンでした――
――というのが『ハッピー フィート2』のあらすじになります。

 リーダーがどんな善人であっても、全ての権力は腐敗するし、圧制者になりえる――『ハッピー フィート』も『2』もガワはファミリー向けのCGアニメですが、そういったテーマがジョージ・ミラーの頭の中にはあるし、『マッドマックス』シリーズにおいて同じことを違う表現でやりたいのではないかと考えるとワクワクします。
 つまり、『デス・ロード』の後日譚では、シタデルの新しいリーダーとなり支配者となったフュリオサが、当初はシタデル全員のための政治を行っていたものの、多すぎる人間に比較して資源に限りがあるため難しくなり、次第に「イモータン・ジョーの別バージョン」といえる強権的な圧制者となってしまった姿を描くのではないでしょうか。

ダブル主人公、サイドストーリー

 一方で、「ジョージ・ミラーは続編で空飛ぶキャラクター出しがち」という傾向もみえてきますが、ここでは「ダブル主人公」に着目したいです。
 もし『デス・ロード』の後日譚で圧制者となってしまったフュリオサを登場させるのであれば、まず間違いなくフュリオサの娘……は設定的に難しいかもしれないので、次世代の若者主人公を立てるはずです。『ハッピー フィート2』のような父と息子ならぬ母と娘的なダブル主人公を描くのではないでしょうか。
 願わくば、フュリオサをちょっと加齢したシャーリーズ・セロン、次世代の若者主人公をアニャ・テイラー=ジョイに演じて貰えると嬉しいところです。アニャ・テイラー=ジョイは『フュリオサ』での若きフュリオサ役をやったのでシリーズ全体で二役を演じることになるわけですが、サーガとしてメタ的な連続性が出るのではないでしょうか。

 また、『ハッピー フィート2』はオキアミのウィルとビルによるサイドストーリーが最高でした。
 オキアミのウィルとビルは、「自分たちはクジラのエサだったのか」という気づきから自我に目覚め、「生態系の頂点に立つ」ため冒険の旅に出ます。オキアミにとってメメント・モリとカルぺ・ディエムというわけです。
 ペンギンやアザラシに比べて小さすぎるため、ビルとウィルはマンブルやエリックたちとほとんど絡みません。また、小さな小さなオキアミにとって無限に広がるかのように思える南極海での冒険の旅は、一種観念的なものとして描かれます。更に、ウィルとビルが明らかにゲイカップルとして描かれ、声優をブラピとマット・デイモンが務めているところなど最高です。
 このビルとウィルが最後の最後に窮地に陥ったコウテイペンギン国を救う(一助になる)という展開には唸ってしまいました。こんなのジョージ・ミラーしか考えつかないよ!
 「取るに足らない存在が自意識を持ち世界を救う」という展開は、おそらく『デス・ロード』におけるニュークスに引き継がれていると思うのですが、他のウォーボーイズやシタデルでウジ虫を育てている下層民のような「取るに足らない存在」に自意識が芽生えるという形で、もう一回やってもおかしくありません。

 ここまで、『マッドマックス』シリーズでありながらマックスがどのように関与するのか書かなかったのですが、はっきりいって全く分かりません。
マックスは、第一作『マッドマックス』ではきちんと悲しんで怒って復讐する内面のあるキャラクターでしたが、シリーズを重ねるごとにどんどん抽象化・神話化し、西部劇におけるイーストウッドというか、『ランゴ』における西部の精霊というか、ウェイストランドの精霊のようになってきました(『サンダードーム』で、マックスが死んだ妻や子供、グースの事を思い出して泣くシーンがカットされたのはこれを裏付けます)。もしかすると次世代の若者主人公や、ウォーボーイズやシタデルの下層民を助ける形で登場するのかもしれません。

ジョージ・ミラーの寿命問題

 そんなかんじでシリーズ続編を楽しく妄想しているのですが、気になるのはジョージ・ミラーの寿命問題です。1945年生まれのジョージ・ミラーは今年で79歳。イーストウッド94歳、山田洋次92歳、リドスコ86歳、コッポラ85歳……80、90を越えても精力的に作品を発表し続ける映画監督は沢山存在していますが、収益配分を巡る裁判があったとはいえ『デス・ロード』から『フュリオサ』まで9年かかったこと、『フュリオサ』の興行成績を考えると、なかなか難しいのかなと落ち込んでしまいます。
 『マッドマックス』シリーズは、たとえマックスやインターセプターが出ていたとしても、オリジネイター以外が作ったら全く別の映画になってしまう――シリーズ特有の味わいが薄れるか、変質してしまうシリーズなのではないでしょうか。『スター・ウォーズ』や『エイリアン』といった人気シリーズ作を振り返りつつ、『マッドマックス2』のヒット直後に雨後の筍のように作られたポストアポカリプスもの映画も思い出しつつ、そう考えざるを得ません。
 そしてどちらかというと自分は、『マッドマックス』というよりもジョージ・ミラーのファンなのだなということを自覚した今日この頃です。