最近のおすすめ本(主に漫画)

ちょっと忙しくてあまり映画を観に行けていないのだが、本(大半が漫画)は結構読んでいる。この際なので、面白かったものを紹介したい。

『ギャル男vs宇宙人』

ギャル男vs宇宙人 (ビッグコミックス)
吉沢 潤一
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題名通り、渋谷センター街のギャル男が宇宙人と戦う話なのだが、ギャル男が意外にも侠気に溢れていたり、『ウルトラヘブン』級の薬物描写があったり、宇宙人の吐くものすごくニヒルなインテリっぽい台詞にギャル男が衝撃を受けたりするところが面白い。
ウルトラヘヴン (1) (ビームコミックス)
小池 桂一
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つまり、宇宙人は「大人」や、「社会」や、非ギャル男的存在の隠喩であるのだな。
しかも、最後にはこのギャル男と宇宙人の心が、どこかで通じ合ったりもするんだよね。敵対する組に所属しているヤクザ同士の心が通じ合うとか、鬼車掌とホーボーが命がけで喧嘩してる最中なのに何かが通じ合うとか、範馬勇次郎郭海皇に友情を感じるみたいなシーンは、やはりなんだかグッとくる。東映三池崇史はこれを映画化すべきじゃないのか。
読んだのは半年ほど前なのだが、最近もう一回読み直しても面白かった。2013年俺ベスト。
やっぱりジャンプとスピリッツは毎週読まないと駄目だな。


『誰も懲りない』

誰も懲りない
中村珍
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怨念といえば、羽海野チカ東村アキコのマンガにも怨念を感じるのだが*1、ちょっと種類が違う。
たとえば羽海野チカの漫画を読むと、手作りの美味しそうなお菓子やら愛情たっぷりの料理やらが出てきてほっこりしたりするのだが、一方で、中村珍の漫画を読むと、常にコンビニ飯とか有名店の惣菜とかばかり出てきたりするわけだ。抱えている業や怨念の種類が全く異なるのではないか、などと思っていた。
本作は、内田春菊にとっての『ファザーファッカー』とか、卯月妙子人間仮免中』みたいに位置づけの作品、ということになるのだろうか。自分としては、嗚呼やっぱりと頷く内容の作品だった。

  • 父はDVにAC
  • 母は年下イケメンと不倫で離婚
  • 母についていったせいで父方の祖母や伯母と関係悪化
  • 母方の祖父からレイプ
  • 母方の祖母は認知症
  • 生活費に困ったら身体を売る

……まとめるとなるのだが、スキャンダラスな過去開陳が大事なのではない。もっといえば、実話かどうかも重要ではない*2。このネタを16ページで、しかも連載で何回もやるというのが凄い。客観力なり、構成力なり、よほどの力量が無いとできない。


だが、それだけではない。
漫画家を目指す者として「心が動くほどの情景に出くわすと何が何でもそれを絵に変えたくなる性分」の主人公は、母に暴力を振るった後、それを絵にしようと試みる。でもできない。そのシーンにかかる文章が凄い、「私は漫画家ではなくまだ人間だったので どうしてもてに負えませんでした」これはつまり、この作品をきちんと書き上げた今は、人間ではなくて漫画家である、ということだ。
現代におけるエンターテイメントの本質とは、人と人とが心を通わせあうことだ。すなわち「KIZUNA」とか「つながろう」とか、そういったものだ。映画でも漫画でも、人と人とが心を通わせ合い、分かり合い、共感しあうシーンに感動する。だからどんなに目を背けたくなるシーンがあっても主人公とボビーや家族や病院の医師や看護婦との交感が描かれる『人間仮免中』はエンターテイメントだ。
一方で『誰も懲りない』は違う。この漫画の登場人物たちは誰とも分かりあわない。勝手な愛を押し付け合ったり、勝手な憎しみをぶつけあったりしている。書き下ろしで描かれた、一見主人公にとっての救いのような恋人も、主人公のことを理解していない、というシーンで終わる。本作が構成力や語り口に優れる一方で、畏怖すべき荒々しさのようなものを感じてしまうのはそこに理由があるのではなかろうか。

『アルティメッツ2』

アルティメッツ 2 (ShoPro Books)
マーク・ミラー ブライアン・ヒッチ
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お馴染みマーク・ミラーの描くもう一つの『アベンジャーズ』。『キック・アス』や『ウォンテッド』や『スーパーマン:レッドサン』で手を変え品を変えアメコミヒーローのアンチテーゼや脱構築をやったマーク・ミラーだけに、ただのアベンジャーズではない。

……と、全員ことごとく屈折してるのが良い。
宇宙人と戦う第一巻は(あれだけブ厚かったにも関わらず)チーム結成とキャラ紹介が大部分を占めていたが、別のヒーローチームと対決することになる第二巻は破格の面白さ。「裏切り者は誰か?」「この世界のソーは神ではなくただの変人なのか?」「アメコミ史に残るクズ男アントマンが結成するディフェンダーズとは?」……といったドラマで読者を引き込みつつ、怒涛のクライマックスに持ち込んでゆく手腕が最高だ。
キャップの孤独もトニーの病気もシルク・スペクターじゃなかったワスプのサークラぶりも――個々の問題が全く解決していないにも関わらず、敵のヒーローチームと対決する展開だけで盛り上げるだけ盛り上げ、読後には異様な爽快感を醸し出す展開が見事。『ウォッチメン』や『ゴッドファーザー』の引用もステキ。映画『アベンジャーズ』が本作を大いに参考にしたというのも納得だ。アントマンはこのバージョンで映画化して欲しいなあ。

『ビフォア・ウォッチメン:ミニッツメン/シルク・スペクター』

ビフォア・ウォッチメン:ミニッツメン/シルク・スペクター (DC COMICS)
ダーウィン・クック アマンダ・コナー
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ウォッチメンの続編ならぬ前日譚。誰もが心配したクソ作品には絶対にしないぞという気合が感じられるシリーズなのだが、コメディアンとロールシャッハをフィーチャーした第一弾のみならず、第二弾も面白い。
特にいかにもゴールデンエイジなヒーロー・チームがシルバーエイジ的な苦い展開を味わうミニッツメン編が秀逸。
90年代のカートゥーン版『バットマン』というか一連の『The Animated Series』に参加したダーウィン・クックがライターとしてもアーティストとしても参加しているのだが、『バットマン/マスク・オブ・ファンタズム』みたく思い出の地が最終決戦の場になるのが味わい深い。
バットマン マスク・オブ・ファンタズム [DVD]
ケヴィン・コンロイ
B00005HC4U

自分は『The Animated Series』の『ジャスティス・リーグ』や『ヤング・ジャスティス』が本当に好きだったのだが、こちらもオリジナルの要素を継承しつつ、新しい物語を作るという意味で凄くよくできている。
皆がちょっとうんざりしているアラン・ムーアの本当に濃い部分――おっさんとおばさんがこれ以上ないというほどみっともないセックスするとか――はさりげなく回避しているのも上手い。自分はムーアのそういうところが大好きなので、ちと残念なのだが、それを含めて富野オリジナル『ガンダム』に対する『UC』みたいな位置づけなのかも。
それにしても、アニメではこんなに上手く映像化されているDC作品が、実写映画になるとあんまりで、マーベルはその逆なのが面白い。やっぱり人材なのかなあ。

『幻想ギネコクラシー』

幻想ギネコクラシー 1
沙村 広明
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『シスタージェネレーター』や『ブラッドハーレーの馬車』を例に出すまでも泣く、沙村広明の描くSFとSMと耽美幻想趣味が合わさった結果、人を喰った(両方の意味で)ような話ばかりになる短編集は最高なわけだが、本書も最高だった。
基本的にコメディやパロディで、この年代の漫画家に特徴的な自己言及の多さ(作品の中のキャラという意味でも作家本人という意味でも)も実にしっくりくるのだが、星野宣之のパロディみたいな『惑星ソラリッサ』と、コメディを排した『イヴァン・ゴーリエ』が特にいい。
本作が連載されている雑誌「楽園」も実に面白そう。四ヶ月に一回の発刊らしいが、買ってみようかしら。

『漫画版 野武士のグルメ』

漫画版 野武士のグルメ
久住 昌之 土山 しげる
4344025539

原作は『孤独のグルメ』でお馴染み久住昌之のお気楽エッセイなのだが、漫画化するにあたって「定年退職したサラリーマン」を主人公に据えている。
これがいい。
井之頭五郎の「誰にも邪魔されず自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ」が「定年後の自由」として重なってくるのだ。千葉に住む友人を訪ねた後、帰るのが億劫で、思わず民宿に泊まっちゃう話とか実に羨ましい(テレビドラマ版に同じようなシチュエーションがあったが)。おれも定年したら真似しよう!
どう考えても土山しげる谷口ジローを意識しまくっているのだが、『かっこいいスキヤキ』の向こうを張った話とか、文庫版孤独のグルメの巻末についていた『釜石の石割桜』の漫画版とか、土山しげるなりの「おれなら同じ原作でもこうするね!」という強烈な対抗意識が匂ってくるのにもニヤニヤする。
なんでも、久住が土山のために原作を書いて続編を描くらしいが、期待大だ。
2014年04月24日(木)久住昌之「夜食の真髄」Session袋とじ - 荻上チキ・Session-22

タモリ学』

タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?
戸部田誠 (てれびのスキマ)
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てれびのスキマでお馴染み戸部田誠によるタモリ評論本。
タモリが80年代に出した番組本や対談本、果てはゼロ年代以降の芸人のラジオ番組まで出典元をきちんと記載した引用をまとめる形で書かれており、記憶や印象で書いた樋口毅宏『タモリ論』と好対照だ。まさしく、小説家と研究者の書く文章の違いといった感じ。当初はアングラ芸人だったタモリが『いいとも』で変質――絶望していったというのが『タモリ論』の主旨であるが、タモリではなく世間が変わっていったのだというストーリーも対照的だ。
だが、伝わってくるタモリ像――タモリはあるがままを肯定する――は似通ってる(似通ってしまう?)ところが興味深い。
タモリの両親や祖父母のエピソードや、「実存のゼロ地点」など、さすがタモリと唸らされるところも多かった。
ほとんどウルトラCのようにロジックを成立させている『タモリ論』の方が好みではあるが、読み比べるとなお一層面白い。

『ゲーム・レジスタンス』

ゲーム・レジスタンス (GAMESIDE BOOKS)
原田勝彦 ゲームサイド編集部
4896374614

原田勝彦ことゲーモクさんユーゲーで連載していた人気記事をまとめた書籍がついに出るらしい。

※本書は初版少部数の発行につき、本書のご注文をいただきました店舗様のみへの入荷となります。そのため、入荷冊数が限られることが予想されます。
※確実な購入をご希望の方は、誠にお手数ではございますが、販売店様でのご予約をいただきますよう、お願い申し上げます。

ゲームサイド公式サイト GAMESIDE

ので、このブログを読んでるような皆はすぐに予約だ!

*1:不思議と西原理恵子には感じない

*2:基となるエピソードが何もない状態でこれを書いたとしたら、そっちの方が凄いが

*3:おまけでついていたシナリオでは『ロード・オブ・ザ・リング』のTシャツを指定されていたのには笑った