岡田斗司夫のひとり夜話5 その2
最近集中力が落ちてきて困っている
- 具体的に何が困るんですか?
- (質問者)自分も演劇をやっているのだが、舞台の上で困る。
- そうか。今日のお客さんはそういう人ばかりなんですね(笑)。
- 「集中」というのは自動詞じゃなくて他動詞だと思う。集中「する」んじゃなくて、集中「しちゃう」もの。
- 集中力が無くなってきたということは、楽しくなくなってきた、飽きてきたんじゃないの? 俳優じゃなくて演出に変えてみたら?
- ひょっとしたら集中しない方が良いのかも。舞台の上ではリラックスするべきで、集中するのは二流の役者なのかも。自分の例でいうと、ここに登壇するときに集中なんてしない。
- もしくは、練習する必要すらなくて、舞台の上でのアドリブとか瞬間的な受け答えに切り替えるべきなのかも*1。
最近のマンガが中ヒットばかりしかない理由*2
- 歴史的な観点からいうと、月刊誌しかない時代、マンガを載せる基準は編集者が持っていた。発表の場が限られていたから。そのマンガ家が連載できる基準にあるかどうか、編集者もしっかり分かっていた。
- 時代が下って週刊誌の時代になると、これまでの4倍の速度で消費されるようになる。月間だと対応できていた書き直しや書き足しにも、週刊だと対応できなくなった。発表できるキャパシティも4倍に増えた。マンガの「場」が凄い荒れた。
- 現在、編集者でなくマンガ家が自作の発表の場を選べるようになった。同人誌、ネットやブログで発表、携帯で配信……基準が緩くなった。自分が発表したいかどうか、意識があるかどうかだけが唯一の基準。本人の心次第。その代わり、安定した収入というのが無くなった。
- ちょっと前、元ジャンプ編集長の堀江さんが「ジャンプ120コマの法則」というのを言っていた。週刊連載1回分、20ページあたり100コマ、ページあたり平均して4コマないと読者の心を掴めない。120コマあれば傑作になる、というもの。
- しかし、現在投稿されるマンガのコマ数は歴史上最も少なくなっている。ページあたり約2.7コマ。この話をしたら、大阪芸大の生徒が「あー」と言った。
- マンガ家志望者のマンガを書く力がどんどん下がっている。マンガを読んだり書いたりする訓練、マンガにかける時間がどんどん減っている。そうなると、同じマンガでも共感できる人とできない人がはっきり分かれてしまう。
- ネット時代、誰もがコンテンツを世に出せる。でもそれは、素晴らしいコンテンツが増えるのではなく、どうでも良いコンテンツが増えるということ。
6歳の娘にどのように金銭感覚を教えれば良いのか?
- うちの場合、金銭感覚に関しては、働かなくては駄目だとしか言ってないですね。他人を働かせるか、自分が働くかしてカネを稼がなきゃならない。
- 僕はあまりお小遣いを貰わない子供だったし、母が死んだ時も遺産は50万円しか無かった。この50万円というのは、「トシオ、私が死んだらお願いだから遺灰をエーゲ海に撒いておくれ」と、その費用として使ってくれという(笑)。それが死ぬ1週間くらい前、エーゲ海が沖縄になったり、またエーゲ海に戻ったりと、ぐるぐる回っていた。なんとか沖縄にならんもんかなと思った(笑)。
- 唯一大事なのは、ちゃんと働いて稼ぐという根性を植えつけることだと思っている。だからカネ・カネ・カネで育てたのだが、誰か金持ちと結婚して……という夢みたいなことは考えずに、いつもどうやって稼ぐか? みたいなことばかり言っているので、頼もしい。
- ある程度子供が大きくなってくると本音で話さなくなる、でも、ゼニカネの話は数値として具体的なものなので、会話が有意義になる。それは一週間バイトして買うのに価するものなのか? とか、俺にとっての10万はこういう意味だけどオマエにとっての10万はどういう意味か? とか。お互いが本音で話せるし、共通の価値観を育てられる。
- 最近うちの娘はブックオフのことをマンガ喫茶と呼んでいる(笑)。本屋みたいにフィルムついてないから立ち読みできるから。どうしても家で読みたい時だけ買うらしい。
- だから、マンガ夜話が終わると揉み手をしながら擦り寄ってくる。「ねぇ、お父さん。『青い花』はもう読まないでしょ? 『もやしもん』も、もう読まないでしょ」(笑)で、ビール飲まないくせに発酵に詳しくなっていたりする(笑)。
マンガ原作の映画ベスト1とワースト1を教えて!
- ワースト1はわからない。つまらなさそうなのは観ないから。
- 『DRAGONBALL EVOLUTION』も『ルパン三世 念力珍作戦』も、いつか観ようと考えている(笑)。
- ベスト1は『ヤッターマン』の最後についていた予告編の、ヤッターペリカンが出てくるところ。(笑)
- マンガ原作映画は予算規模が大きい。優れたクリエーターにとってはそこが魅力で、映画化を言い訳に好きなことができるという美味しい状況がある。
- 唯一の例外が『ヤマト』。あれを今実写映画化しようというのは、スタッフが本気だからに違いない。だから映像素材を必死に集めている。
- ちなみにキミのベスト1とワースト1は何?
- (質問者)ベストは『トランスフォーマー・リベンジ』。ワースト1は『DRAGONBALL EVOLUTION』です。
- なるほど。ちなみに『DRAGONBALL EVOLUTION』、面白かったという人はいる? 理由は?
- (手を挙げた人)私、原作もアニメも一切観ずに、映画だけ観ました!
- えー! 今までどうやって生きてきたの?(笑)凄いレアケース。明日のブログはキミの話でもちきりだよ! じゃ、キミにとっての悟空は……
- (手を挙げた人)あの高校生です。
- 高校生! 30年後くらいに韓国で『エヴァ』が実写化されて、それで初めて『エヴァンゲリオン』に触れた人が「綾波レイって男じゃないの?」というような衝撃! いや、いっそのこと、もう一生マンガやアニメの『ドラゴンボール』に触れない方が良い(笑)。
私もアラフィフなんですが、『らき☆すた』とか『秒速50センチメートル』とか、最近のアニメについていけません
電子出版についての展望
- 出版はこれから先、撤退戦じゃなかろうか。負け戦という意味でなく。20世紀末、バブルの勢いに乗って発達したけど、今後これが維持できるとは思えない。
- ネットで一番減ったのは読書の時間。雑誌とかがどんどん少なくなってきている。皆、ブログで紹介するために本を読んだりする。
- そうなると、さっきマンガで言ったのと同じことが起こってくる。発表のハードルは下がるけど、クオリティが上がるわけじゃない。ケータイ小説が出版される時、必ず豪華な装丁になるのは象徴的。
- 『フリー』という本を読んだ時にも思ったのだが、今僕が書いていることを面白いと言ってくれる人を増やすのが戦略として一番良いのではないか。
- だから無料公開にこだわる。本の売上げよりもYahoo!やGoogleで検索一位になることを重視する。お金の経済よりも評価経済を重視する。でも、そこまでやったら生活はどうなるのか?
- 僕を使って色々とやってくれた方がお金儲かると色々な人が思ってくれることが、僕もやりたいことが一番やれる状況に通じる。
- 今、ブログのエントリがコラムのようになっている。あれを毎日やるのは正直辛い。でも、有料メルマガで上手く機能している例も無い。悩みどころ。
- じゃ、この一人2000円とってやる「ひとり夜話」のスタイルが良いのか? オタク的世間話とセミナー話を混ぜて良いのか? 考え中。
- 勝間和代は凄い面白い。でも、円への換金が少し早すぎるような気もする。評価経済への換金が良いのかも。
- この「ひとり夜話」というイベントも、例えば半年間の内容を収めたDVDを1万円とかで販売して、その特典として購入した人の中から○○人を抽選で招待するというやり方もある。その方が間違いなく自分の話が伝わる。というか、このイベントに毎回来てもらうのもそろそろ苦行に近くなってきてるでしょ?(笑)
映画の完成度高いってどういうこと?
- 映画以外で、これなら完成度高いってのが分かるものってありますか? ラーメン?
- たとえばラーメンでいうと、色々なパターンのラーメンを食べてる状態を考えて欲しい。だからラーメンの失敗作も分かる。「美味しいけど、おれの口に合わない」とか。データベースがたっぷりある状態。
- そうなると、「世間の目」と「自分の目」を区別できる。自信が持てる。
- 映画の完成度が分からないのは、そういうのに自信が持てない状態だということ。データベースを増やすしかない。
- 「良い映画」、「好きな映画」とかでなく、その作品を「映画」全体からみた時の評価を考えてみる。アメリカ映画でいえば白黒→トーキー……というような、歴史的評価。これが一つ目。
- 二つ目は、バランスからみてみる。「シナリオ」「映像」「歴史的意味」この三つが丁度良い状態が、バランス良いということ。何かが突出して優れているというのはバランス悪い。
- たとえば『アバター』は、誰もストーリーを褒めていない(笑)。たとえば最初の『スターウォーズ』のストーリーは、それまでアメリカン・ニューシネマで描かれてきたような暗い世相を打ち消すような歴史的意味があった。
Twitterでやっていた「フリー」の公開読書でも感じたのだが、本から読み取る能力が凄い。本から学び取る能力を上げるには?
- うーん。多分、僕の見方が正解だと思ってない? そうじゃない。
- 僕の考える富野由悠季は本人よりも面白い(笑)「フリー」も、本当の「フリー」よりも僕の読み方の方が面白い。でも、著者がみたら激怒するかも(笑)。
- 正解じゃない。より多くの妄想を引き出している。でも、その方が利益が大きいんじゃないか。複数の選択肢というか、考え方をいっぱい引き出すような読み方の方が。
- 物事の解釈として、著者の考えたまま正しく受け取るというのは無理。それよりも自分の物語に落とし込んで、妄想を豊かにする。これが一つ目
- 二つ目は、どれくらい多く妄想できるか? という点。自分の中の思考や情報のカケラとどれだけリンクできるか? 毎日毎日脳内リンクを増やして、鍛えるしかない。
- 三つ目は速度。言い換え能力みたいなもの。1200字を800字に置き換える訓練をする。すると、一言を一冊の本に置き換えるようなことがある程度できるようになる。逆からみると、一冊の本を一言にするのではなく、これくらいで勘弁しといて! という妥協点をみつけるということ。いっぱい文字を書くことによってまとめる能力がつく。
- 正しいわけじゃない
- 妄想
- 簡単な言葉におきかえる
- 以上、三点が答えということで。
感想
いやー、なんか今回も濃厚だったよ。特に最後の質問と回答には唸らされた。つまりはこれが評論ということだよな。
もう一つ印象的だったのは電子出版の話から流れた従来経済<評価経済の話で、最近の岡田斗司夫が作ろうとしているのは「株式会社岡田斗司夫」のロイヤル・カスタマーなのかな……なんてことを思った。これは「ひとり夜話3」の「岡田斗司夫文明」の話を違う言葉で表現しただけのことかもしれないけれど。
「岡田斗司夫のひとり夜話3」その2 - 冒険野郎マクガイヤー@はてな
実際に利益が上がったわけじゃないのに、新商品開発やなんかで株価が上がるというのも、評価経済の一種なのかもな。
質問者とその質問の内容をよく鑑みると、もしかしてあの質問した人はあのブログを書いてるあの人なんじゃ? みたいなのに気づいてしまうのも面白かった。質問する人がブログ書いてる人ばかりというわけでも無いのだろうが。
実は自分も質問を用意していったのだが、メモをとるのに忙しくて質問できなかったのが残念な点か。でも、こういう質問回はまたやるらしいのでその時までとっておこうかな。