神話からお笑いへ、お笑いから神話へ

 XBOX LIVEの北米アカウントにてサインインすると、Video Marketplaceにてマイケル・ジャクソンのPV特集がやられていた。マイケル、やっぱり愛されてたんだな。ブルックリンで泣いてる黒人とか、HMVの空になったマイケル・コーナーの映像よりも、マイケルへの愛を実感できたよ。
 あと、マイコーりょうのブログも、愛たっぷりで、思わず感じ入ってしまったよ。
訃報 深い悲しみ | マイコーりょうオフィシャルブログ「WELCOME TO NEVER LAND」 Powered by Ameba


 そんなことを考えてしまうのは、マイケルの「死」というものが契機となって、「ポップスター」や「キング・オブ・ポップ」としてのマイケル・ジャクソンの再評価がぐんぐん進んでいるように感じているからだ。
 なんかさ、マイケル・ジャクソンって一時期「お笑い」の対象だったよね?「マイケルジャクソンの真実」っていうドキュメンタリー番組があったじゃん。何百日もマイケルに密着して、マイケルが骨董屋で何万ドルも散財したり、整形手術のことを尋ねられてキョドった挙句「二回したよ!」と逆ギレ気味*1に答えたり、児童虐待の件について「二人で仲よく寝ていただけだよ」と素直すぎる発言をしたりしていた、あれだ。


 あの番組は「マイケルお笑い化」のピークだったのだと思う。
 80年代のマイケルというのは、疑い無し、掛け値無しにポップスターであったし、キング・オブ・ポップであった。だが、90年代に入ると性的虐待疑惑や、どんどん白くなっていく肌や、整形を繰り返して人間離れしていく顔面といった要素が「ポップスター」の範疇を大きく逸脱し、マイケルを語ることはマイケルの音楽性やポップカルチャーについて語ることではなく、一つの「笑い話」としてマイケルを消費することになっていった。「マイケルジャクソンの真実」が日本で放映されて数ヵ月後、「ワンナイ」で「ゴリケル・ジャクソンの真実」というパロディコントがやられて、大爆笑したことを憶えている。


 以下、昔の日記をちょっと引用。

 マイコーと言えば、どうしても思い出さずにはいられないのがバイトの先輩だ。大学時代、私はレンタルビデオ屋でバイトしていたのだが、そこの先輩の一人がマイコーの熱狂的ファンで、熱狂的過ぎて少々扱いに困る所があった。
 まずマイコ−を「マイケル・ジャクソン」と呼ぶと機嫌が悪くなる。「MJと呼べ」と不機嫌な口調で言われる。なぜ「MJ」なのか理解に苦しむところだが、石原軍団が裕次郎を「さん付け」で、スマップのファンが中居正広を「くん付け」で呼ばないと不機嫌になるのとほぼ同じ心情なのだろう。
 次に、マイケルの整形の話題をすると怒る。「MJは整形なんてしてないよ!」とわめきちらす。もしくは「人知れず交通事故かなにかにあったんだよ!ビートたけしみたいに!」と話をでっちあげたりもする。話がマイケルの白人よりも白い肌に及ぶと「あれは先天性の疾患なんだよ!MJはかわいそうな病気なんだよ!!」とまた怒りの声を上げる。でもジャクソン5の頃は普通の黒人的な肌でしたよと反論すると、「大人になってから発症するかわいそうな病気なんだよ!」そんな遺伝病あったか?勿論、マイケルのCDやビデオは全部揃え(全部国内版で、何故か安い輸入版は買わない)、自分も大学のダンス・サークルに入って踊っていた。
 で、大多数の人がお気付きのことと思うが、私はこの先輩を思うさまバカにしていた。マイケル信者、いやさMJ信者と。MJが死んだら自分も自殺するんだぜ、みたいな感じで。
 だが、この先輩の凄い所は大学卒業後からだ。しばらくフリーター生活を送っていたのだが、彼なりに思う所あったのかディズニーランドのバイト面接を受けたら採用され、エレクトリカル・パレードの中で踊っていた。それでも生活が苦しいのか、それともバイトにいた巨乳(だけど不細工な)娘を狙っていたのか、ディズニーの仕事が始まった後もしばらくの間バイトは週一で続けていたけれども。
 一度バイトの店長がディズニーランドへ遊びに行く機会があり、エレクトリック・パレードの中に彼の姿を見かけて手を振ったら、パレードの列の真中で踊りのフリを一人だけ異様に激しくすることで、挨拶を返されたらしい。
 次第にディズニーランドでのダンサー稼業が忙しくなってきたのか、その先輩はバイトを辞め、それきり疎遠になってしまった。だが、今でもディズニーランドへ行くとその先輩の事をちょっとだけ思い出す。年齢的に、もうディズニーランドで踊ってはいないかもしれないが。
 「マイケルジャクソンの真実」にもマイケルの熱狂的ファンが出てきて、マイケルの車(通称マイケル・モービル)の中に無理こじ入らせて貰ったり、マイケルとハグできた感動で号泣したりしていた。まぁ誰に迷惑をかけているでもなし、人それぞれだろうが、やはり思う。アホか。
 だが今にして思うのは、先のバイトの先輩は、なかなかに凄い人だったんじゃないか、という事だ。最初は彼もテレビに出てきたファンと同じようにただ盲目的にMJ大好き・MJハグしてと騒いでいただけだったのだろう。それがいつしかダンスを通じてMJと同じ気持ちになりたい、同じ世界を味わいたいと思うようになり、それはある程度実現したのではなかろうか。そこまで行くとただの「熱狂的ファン」とは呼べず、簡単にバカにはできず、ある種の敬意すら覚える。そういう意味で凄いと思う。
 しかしバイトの飲み会後、機嫌が良かったのか友人宅で踊ってくれた先輩のタイツ姿を思いだすにつけ、やはりバカにせずにはいられないです。スマン、先輩。


 上記は2003年の「マイケルジャクソンの真実」放映直後に書いた日記なのだが、やはりあの頃はマイケル=お笑いみたいな空気が濃厚にあったのだな。
 時代はちょい戻るけれども、「スペースチャンネル5」の「スペースマイケル役」や、「メン・イン・ブラック2」の「MIBのエージェントになりたがる宇宙人役」なんてのは、マイケルがその時代における自身の立ち位置というのをしっかり把握したセルフ・パロディ的、あるいは自虐的ギャグだった。自虐ができるということは、自分を客観視できるということだ。マイケル、やはり頭良いな。
スペースチャンネル5 パート2
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 それが「死」を契機に、評価が180度変わった。どの人も「キング・オブ・ポップ」としてのマイケル・ジャクソンに言及し、レスペクトを惜しまない。オマエ、確か児童虐待裁判の時は「マイケルに誘われたら男子は要注意ですね」みたいな辛辣コメントを口にしていただろ?というワイドショーのコメンテーターも、真面目な顔して「惜しい人を亡くしました」なんて台詞を口にしやがる。やっぱり、「死」をネタに笑いをやることはコメンテーター風情では難しいのだろう。もしくは、マイケルに対する評価が180度変化した空気を上手く読んでいる、というべきなのか。


 ただ、その「180度の変化」なのだが、90年代に児童虐待や整形疑惑でキング・オブ・ポップの座から転落し、その後の変化だということを考えると、ぐるっと一周回って元に戻ったともいえる。こういうのって、小説家やマンガ家にはよくある現象だと思うのだけれど、マイケル・ジャクソンもそうなるとはな。
 「死」によって、やっと彼はキングの座に返り咲いた、と書くとカッコ良すぎか。


 そう考えると、今後マイコーりょうは仕事しにくくなるような気もして、ちょっと心配でもある。

*1:整形手術は当人の勝手なので「逆」という表現はおかしいのだが