あなたの親愛なる童貞：『アメイジング・スパイダーマン』
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『アメイジング・スパイダーマン』やっと観た。面白かった。
面白かったけど、やっぱ自分はサム・ライミ版のスパイディの方が好きだな。今回のスパイダーマンには童貞力が足りないんだよな。童貞力が。あ、関係ないけど本エントリにおける「童貞力」は「オーラ力」みたいに「どうていちから」と読むと富野っぽくて良いと思う。
今回のピーターは、確かに内気だけど、なんか格好良いんだよね。女子からは普通に話しかけられるし、趣味でスケボーなんてやってるし、服もそれなりにおしゃれだ。女子からは無視され、スパイダーマンになるまでトロくさく、メイおばさんがダイエーじゃなかったKマートで買ってきたような服を着て、常に挙動不審だったサム・ライミ版のピーターとは大違いだ。
おまけにヒロインからは最初からモテモテだ。ライミ版でMJがキスしたのはあくまでスパイダーマンであってピーターでは無かったのに対し、『アメイジング』でグウェンがキスするのはピーターなのだ。
一番愕然としたのは、学校で偶然出くわしたピーターとグウェンの二人が廊下でやるやりとりだ。
「放課後どこか行こうか？」「今日は無理」「無理なの？」「あ、そういう意味じゃないよ、今度絶対にね！」「ウフフフフ」……なにこの友人以上恋人未満な青春のやりとり？ こいつら絶対好きあってるよ！ 女神をみるような目でMJをみていたピーターと、まるで養豚場の豚をみるような目でピーターをみていたMJという、ライミ版の非対称性とはえらい違いだ。
勿論、ライミ版のスパイディは数あるスパイダーマン解釈の一つであるに過ぎないということは理解してるつもりだよ。今のオンゴーイング・シリーズにおけるスパイダーマンは爽やかな兄ちゃんという感じで、むしろ今回のマーク・ウェブ版の方が現在の原作像に近いといえるのかもしれない。ベンおじさんの仇を探すというヘヴィなことをしているにも関わらず軽口を叩きながら悪人を痛めつけるというのは、確かに原作準拠だ。
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でも、やっぱりスパイダーマンは童貞であって欲しいんだよな。嗚呼、自分は童貞力の高かったライミ版の若ハゲピーターが大好きだったんだよ！ 今回の映画でいうなら、冒頭でジョックスのフラッシュに逆立ちにされ無理やり給食食わされていた奴こそスパイダーマンになるべきだよ！ 常に伏し目がちで他人と目を合わせず、人間というよりも妖怪が人間のフリしていたような童貞だけど、精神的には誰よりも崇高で、隣人を救い、市民を救い、911で傷ついたニューヨークを救い、キリストになり、あなたの親愛なる童貞になる……というのが醍醐味だったのに。『アメイジング』のピーターはスパイダーマン姿でiPhone弄ってるのが可笑しいところ以外は普通のヒーローなんだよな。
これは別に自分が童貞マインドな男だからという理由ばかりではない。私見だが、アメコミ・ヒーローは二種類に分けられると思う。童貞か、童貞じゃないかだ。
あるいは、童貞かヤリチンかといってもいい。童貞スーパーマン*1に対するヤリチン・バットマン。マーブルでいうなら、童貞のキャプテンアメリカ*2に対するヤリチン・アイアンマン。アメコミ・ヒーローは性的に極端であればあるほどキャラクターが立つことになる。
こういったジャンルにおいて、キャラクターの過剰さイコール強さになる。だから童貞ヒーローは童貞力が高ければ高いほど強くなる。仏教やカソリックの聖職者がセックスを禁じられているのと同じだ。俗なる世界から離れれば離れるほど強くなるわけだ。やっぱり、『アメイジング』のピーターが自分の体から白い糸を出せずウェブ・シューターを自作せざるを得ないのは、原作準拠というより童貞力が足りないからだろう。
自分はライミ版スパイダーマンで唯一不満だったのがヒロインのキャラクター造形だったのだが、こう考えてみると何故MJはあんなにもビッチでなければならなかったのか、理由が分かる。ピーターの性的妄想が実現し、童貞を捨てたら、話が終わっちゃうからだったんだね。誘惑するけど決して挿れさせず、他の男とホイホイつきあうMJじゃないと童貞話が盛り上らないという理由だったんだな。
正直、自分は期待していたんだよ。
監督は『500日のサマー』にて童貞を捨て去るさまを時に軽やかに、時にこじらせつつ描いたマーク・ウェブ。主演は『ソーシャル・ネットワーク』でギークというよりも童貞ナードを演じていたアンドリュー・ガーフィールド。そしてヒロインは『Easy A』にてすべての童貞の恋人を演じたエマ・ストーン……もう、いかにもな顔ぶれじゃないか。しかもピーターが蜘蛛に咬まれるところから描きなおすというではないか。ライミ版とはまた違うアプローチで新たな童貞物語を描くと思ってたんだよなぁ。
まぁ、前任者と同じことやりたくないというのは分かるが、童貞成分を脱臭した代わりに両親のドラマとスケボー追加ってのは安易すぎるのではなかろうか。
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でも、今回のピーターは1と2の間にサクっと童貞捨てていそうで怖いなぁ。しかも、童貞捨てたせいで弱くなったりはしないんだよ。逆に強くなるんだよ。「守るものができた！」なんつって。ライミ版は、童貞捨てたら弱くなったり死んだりするどころか、シリーズが死んだのに。
是非とも続編ではトビー・マグワイアにピーターのクローン役で出演して欲しい。当然、トビー演じるスカーレット・スパイダー（ベン・ライリー）はウェブ・シューター無しで糸を発射できるし、彼女もいない。スケボーなんてリア充なスポーツもしない。嗚呼、観たい。観たすぎる。
