憑依合体ゴーオンジャー

炎神戦隊ゴーオンジャー VS ゲキレンジャー

 「炎神戦隊ゴーオンジャー VS ゲキレンジャー」を観てきたのだが、今年は面白かったよ。
炎神戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー [DVD]
古原靖久, 片岡信和, 逢沢りな, 碓井将大, 諸田敏
B001MHS9EY

 この、現役戦隊と一年先輩戦隊が共演するVシネマシリーズってのはここ十数年に渡って毎年製作されている訳なのだが、描かなきゃいけないことが多い割に尺が一時間と短いせいか、割合パターンが決まっているんだよね。あと、年によっては完全にキャラがカブっている者達(特に六人目)がいる、という問題もある。作り手もそれを分かっているのか、毎年頭を捻っている感じが見受けられるのだが、浦沢脚本の魅力全開な「激走戦隊カーレンジャー VS オーレンジャー」や歴代スーパー戦隊からセレクトされた猛者達(芸能界の立ち位置的にも)が集う「百獣戦隊ガオレンジャー VS スーパー戦隊」に「轟轟戦隊ボウケンジャー VS スーパー戦隊」以外はそれほど面白く無いよなーなんて思っていたので、嬉しい誤算だ。
激走戦隊カーレンジャーVSオーレンジャー [DVD]
特撮(映像)
B00005HS0Y


百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊 [DVD]
特撮(映像)
B00005O5WK


轟轟戦隊ボウケンジャーVSスーパー戦隊 [DVD]
大和屋暁
B000K2UDDC


 「二戦隊の顔合わせ」「誤解」「和解」を主題歌前のアヴァンタイトルで済ませ、あとは修行シーンに時間を費やすという構成の勝利かもしれん。「いったいこの二組の組み合わせがどのような化学反応を起こすのか?」というワクワクさがこのVシネシリーズのキモだろう。


 しかも、今年は劇場公開ときたもんだ。レンタルDVDで視聴すれば充分という人もいるかもしれないが、映画好きとしてはやっぱり嬉しいね。画面の隅でゲキチョッパーがセクハラしていたりとか、イエローが二人でそれに反撃したりとかいった小ネタもデカいスクリーンでバッチリ確認だ。


 でも、ラスボスに対して14人がかりで最大火力を浴びせかける光景には流石にひいた。ラスボスには部下が申し訳程度に一人いるのだが、それでも彼我戦力比にして7対1。やっぱり、正義側にこれだけの人数が集まるのなら、敵側に再生怪人軍団が必要だよな(ついでに、ブルー二人の戦闘シーンがいきなり森にワープするという、ちょっと編集がおかしいところもあったけれども、これはDVD版だと修正されると思う)。


 それでも、来年も何がしかの映画公開がポシャって、絶対に製作されるであろう「侍戦隊シンケンジャー VS ゴーオンジャー」が劇場公開されると良いな。不況バンザイ!

レッツ、ソウルイン!

 そうそう、今回は初めて息子(2歳)と共に映画館に赴いた。オタ帝王教育が激しすぎたのか、娘(4歳)の方は「暗いの怖い!」とすっかり映画館が嫌いになってしまったのだが、息子の方はすんなり適応して、順調にスーパー戦隊好きになったのだな。前述の「激走戦隊カーレンジャー VS オーレンジャー」や「VS スーパー戦隊」を幾度と無く観せた甲斐があったというものだ。「カーレンジャー」のインパクトが大きかったせいか、放映終了から10年も経とうというのに「カーレッド!カーグリーン!」などと息子が口走る羽目になったけれども。息子よ、それを言うならレッドレーサー、もしくはグリーンレーサーだ。


 映画も気に入ったらしく、オマケに貰ったカードを笑顔で握り締めつつ帰宅した。で、自宅では夕食前に朝放送された「ゲキレンジャー」と「仮面ライダーディケイド」をしっかり視聴。スーパーライダー大戦で初見の視聴者のハートをガッチリ掴んだ「ディケイド」は二回も観る始末だ。将来は確実に特撮オタだな。


 「特撮三倍段」という言葉があるけれども、特撮オタってのは迷惑なもので、その迷惑さは大別すると二つに分けられると思う。一つは、特撮って馬鹿!合成丸出しの爆発が馬鹿なら、CG丸出しの変形も馬鹿!携帯で呼び出したらワープで駆けつけるのも馬鹿なら、池ポチャで助かるのも馬鹿!でも、そんな馬鹿なモノを観て楽しんでいるオレも馬鹿〜!……と文句言いながらもきっちり観るツッコミタイプ。もう一つは、ゴジラウルトラマン井上敏樹の批判を一言でも聞いたら顔を真っ赤にして怒り、とうとうと反論する原理主義タイプだ。自分がどちらに属するかは脇に置いといて、どっちも迷惑なことは言うまでも無い。
 うちの息子はどのような特オタになるのかな〜なんて話を嫁に振ったら、意外な答えが返って来た。


「もう既に、迷惑なオタクになってるよ……」


 なんでも、先日の親子面談で聞いた話らしいのだが、「普段は良い子なんだけど、ゴーオンジャーになっちゃうとねぇ……」なんてことを言われたらしい。
 今、保育園で息子が属するクラスでは「ゴーオンジャーごっこ」をできる子が息子含めて三人いるというのだ。で、普段は泣いている友達を慰めたり、高い所に置かれた物を背の低い友達の為にとってあげたりと優しいところある息子なのだが、一度ゴーオンジャーに「変身」じゃなかった「レッツ! ゴー・オン!」すると、超暴れん坊になるのだという。ボーっとしている子の頭をハタいたり、ところ構わずキックしたりするのだと。
 「ゴーオンジャーに変身したら、何しても良いと思ってるんだよ」と嫁はぷりぷり怒っていたが、私は苦笑してしまった。

 人間は何かのキャラになりきることで実力以上の力を発揮する、ということを昔からやってきた。動物や精霊の力を借りるアニミズムシャーマニズムはその典型だ。先日話題にした天皇霊や「大統領霊」は近代においてなお力を発揮するシャーマニズムだ。自分の復讐心を利用するバットマン(実在の人物じゃないけど)や、演説中のヒトラーも、何かが憑依したと思えるほどにキャラになりきるという意味では同じだろう。

 そういう意味でいうと、毎日社会人ですよという顔をして会社に通勤したり、夫や父親ですよという顔をして隣人とつきあったりする私も、「社会人」や「夫」や「父親」というキャラをその場その場で演じているにすぎない、ということにもなる。まぁ、当たり前のことかもしれないけれど、そういうのを2歳の頃からやってんだなー、とちょっと感心してしまった。

「正義ノミカタ」の必要性

 さらに話は続くぞ!

 保育園の連絡ノートには「ゴーオンジャーが正義の味方だということを一生懸命刷り込もうと思います」と嫁の字で書いてあった。
それで思い出したのだけれど、「ゴーオンジャー」の一編で「友情ノパンチ」という話がある。*1
炎神戦隊ゴーオンジャー Vol.8 [DVD]
古原靖久, 片岡信和, 逢沢りな, 碓井将大, 諸田敏;中澤祥次郎
B001KJ8OP8


 ガイアーク(悪者)のおマヌケな攻撃で悪の心がパワーアップしてしまったレッドとブルー……という洗脳ネタなのだが、「ゴーオン」は一味違う。正義の味方なのに悪行三昧、それも一般人に攻撃するとか町を破壊すると思いきや、チンピラ&インテリヤクザ化(元キャラと逆な所がまた秀逸)し、「正義の味方だって、喰ってかなきゃいけないッスよ!」と「ガイアーク保険」という詐欺商品を主婦に売りまくるという、相変わらず冗談なのか真剣なのか分からない戦隊物に特有の面白さ(タランティーノにも通じると思う)が満載のお話だ。
 色々あって正義の心を取り戻し、バンキ獣を倒したゴーオンジャー。だけど、最後にゴーオンゴールドがこんな印象的な台詞を妹であるシルバーだけに呟くように言うんだよね。


「人間は簡単に裏返っちまう、だから正義の味方が必要なんだ」


 これはさ、「正義の味方」アプリオリに存在可能な子供向け特撮番組世界の中でも、正義の味方は「正義の味方」を演じているという(念のために書いておくと、役者が「正義の味方」を演じているという意味とは全く違うよ))、サラっと締めに使われている割には驚くべき描写だと思う。
 この「友情ノパンチ」の脚本を書いたのは會川昇なのだが、思えば會川昇はこれまで「正義とは何か」についてありとあらゆる手練手管を用いて語ってきた。それは時に説教臭いと呼ばれることもあったし、やりすぎて物語の構造を破壊することもあったのだが、ゲスト脚本家として参加した「ゴーオンジャー」でも相変わらずその姿勢は変わっていないのだな。


 で、何がいいたいのかというと、「仮面ライダーディケイド」の後半は必ずや會川昇による「正義」と「闘争」の物語、言い換えれば大説教大会が開催されることになると予想しているのだが、説教臭いドラマが大好きな私は楽しみで楽しみでならない。