すべての映画は東映特撮になる:ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

 私は誰が何と言おうとも「スター・ウォーズ」の中で最も面白いのはエピソードVIだと主張して憚らない男であるのだが、初めて劇場で観たスター・ウォーズが「ジェダイの復讐」だったという理由以外に、ジャバの宮殿が大好き!というのが大きい。
 だってさ、考えてもみたまえよ。砂漠のど真ん中にデカい邸宅を抱え、部下は全員異形の宇宙人やバケモノばかり。ちょっと熟女な女奴隷と可愛い小動物を小脇に従え、毎日飲めや唄えやの大騒ぎ。ペットとして凶暴な怪獣を飼い、デカい車じゃなかったセール・バージで優雅に遊覧飛行。ジャバの宮殿に住んで気ままに暮らすことこそ男の、いや漢の、もしかするとオタクの、まぎれもない夢だよな。


 さて、そんな夢が頭からケツまでギチギチに詰まった映画が「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」だ。何が凄いってこの映画、主要キャラが全員異形のバケモノなのな。赤い悪魔に青の半漁人にドイツ生まれの(毒)ガス人間。仲間内で真っ当な人間なのは、口うるさい上司のおっさんと、黒髪でショートカットな彼女だけという、もうどこをどう切り取っても男にとって、いや漢にとって、もしかするとオタクにとって、まぎれもなく正しい世界だ。


 バケモンが主役ってのは前作もそうだったんだけど、今回は端から端までバケモンばかり、ってのは徹底している。
 劇中、異形三人組がトロルマーケットという何故かマンハッタンの地下にある人外魔境に赴くのだが、ここもまたバケモノだらけ。しかもCG全盛の昨今には珍しく、殆どがバケモノメイク、もしくは着ぐるみやアニマトロニクスを仕込んだパペットで出来ていて、ラテックスやシンナーの匂いがスクリーンを通して漂ってきそうに感じたのは、私がおっさんであるからだろうか。


 おまけに敵はイケメンエルフときたもんだ。一般的には醜男のカテゴリーに入るであろうヘルボーイがイケメンエルフと戦う場面なぞ、キモオタキモオタと言われ続け、暗く長い青春時代と童貞時代を過ごしてきた我々にとって、これほど手に汗握るシチュエーションは無いだろう。


 しかも今回は、そんな醜男達の恋がきちんと描かれたりするんだよな。真実の恋に目覚めたエイブとマタニティブルーな彼女の態度に悩むヘルボーイが酔っ払って愚痴りつつ、それでもバケモノである自分達が恋したり愛したりできる人生って素晴らしいよなと、バリー・マニロウのラブ・ソング「涙色の微笑」を二人して唄い上げるシーンには、思わず胸がジーンとせずにはいられない。


 こういう、異形の者が日常に潜む小さな幸せや素晴らしさを歌で祝福するシーンって、もう涙が出てくるほど感動的だよな。「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」でジャックが”What's this?”とクリスマスという日の細々とした素晴らしさを唄い上げるシーンがあるのだが、思わず連想してしまったよ。


 本作のような、着ぐるみや特殊メイクをその存在の成立に前提とするキャラクターが、本当にそのような生き物が実在するかのように生き生きと主役を張る映画って最近無かったよな……などと思ったのだが、いや、あった。「仮面ライダー電王」だ。最近じゃなくても良いのなら、「アクマイザー3」や「超人機メタルダー」だ。
 そういや、エイブが基本的に能面でしかない顔を上や下に小刻みに動かして表情を作るさまの、なんと東映特撮的なことか。魔界の王子であるが故に人類の敵であることを宿命付けられたヘルボーイが、それでも愛する彼女と猫の為に運命に挑戦する様の、なんと石ノ森ヒーロー的なことか。


 話の流れ的に絶対に制作されるであろう三作目が楽しみだ。でも、ギレルモ・デル・トロは忙しいらしいので、きっと十年後とかなんだろうなー。