ヒーローソング熱中昼話in阿佐ヶ谷Loft A

 嫁と子供が実家に帰省する連休は映画を観るかロフトプラスワンでオタ話を聞くのが定番なのだが、阿佐ヶ谷ロフトで面白そうなトークイベントがあった。以前、「BS熱中夜話」でやった「ヒーローソングナイト」では時間の関係で放送できなかった内容について触れるという触れ込みで、出演者は腹巻猫、唐沢俊一田中公平の3人。番組は面白かったし、なかなかこの種のイベントに出演する機会の少ない田中公平がどんなトークをするか大いに興味が沸いたのでいってきた。

 田中公平といえば、「史上最強のオタク座談会」という鼎談本があるのだが、そこでは岡田斗司夫山本弘を超える黒さと濃さのしゃべくりを披露していて強烈に印象に残っており、先の熱中夜話やアニメギガでもトークの冴えは健在だったのだが、このイベントでも大活躍だった。NHKのディレクターが脇から参加したりして少々危ない話も。以下、面白いと感じた所を中心に自分なりのメモとしてまとめる。括弧内は私の勝手な感想なのだが、それ以外にも私というバイアスが入っているのでご注意のほどを。
封印―史上最強のオタク座談会 (史上最強のオタク座談会)
岡田 斗司夫
4872790235

「ヒーローソングナイト」について

  • 「ヒーローソングナイト」の収録は4時間を越えたが、そのうち90分しか放送できなかった。
  • 特に、腹巻猫のヒーローソングに関する成り立ちの部分、60年代の部分が大幅に削られた。面白かったのに。
  • そういうわけで今日はカットされた部分を中心に昼間から濃い話をしようという企画です。
  • 先日、地上波であるNHK総合で再放送したが、台風が来ていたこともあって、「サラリーマンNEO」を超える視聴率だった。台風どうなってんのかな?とNHKをつけた大きなお友達がたまたま目にしてそのまま観続けたのか?
  • 「ヒーローソングナイト」第二段を企画中だが、大物作曲家を呼ぶつもり。男性は田中公平がいるので、女性作曲家の大物であるあの人を呼びたい(客全員が「あー、あの人ね」と頷く濃さ!)。

田中公平によるヒーローソングアレンジ評価

  • 本日のイベントでヒーローソングを会場内に流す際、アレンジャーとしての評価を田中公平がA〜Cの三段階で評価するという趣向。あくまでもアレンジャーとしての評価であって、作詞作曲の評価ではない。
  • [A] 芸術度5、お仕事度5:アーティストとしての自分を前面に出している。これ以上自分を盛り込むとアレンジではなくなる。これを通すと仕事がこなくなる。
  • [B] 芸術度3、お仕事度7:適度に自分を盛り込みつつアルチザンとして良い仕事をしている状態。これを目指したい。
  • [C] 芸術度1、お仕事度9:完全にお仕事として流してやっている状態。アレンジャーとしての意味が無い。例としてあげるのならAVEX系の仕事か。
  • 最初は誰でも[A]だが、気を抜くとあっという間に[C]になる。いかに[B]で留まるかが重要である。
  • 原曲が素晴らしい時はそれを最大限に生かすアレンジという意味で[C]が正解である場合もある。

ヒーローソング創世記

  • 最初のそれは「月光仮面」ではなかろうか。
  • 間奏に拍子が3つ連続して入るのが上手い。評価[A]
  • 特徴として、ヒーローの世界観を謳いあげる、劇伴にも使える、明るく元気で皆で唄える等々。
  • エイトマン」は[超A]。間奏だけが浮いている。ガンバスターじゃないんだから。
  • この頃の音源はソフト化されてないものも多い。代表的なものが冨田勲作品。1960年代の録音技術は悪かったので、CD化したくないのだという。
  • 作曲家の中でそういう芸術家ダイプの人は一杯いるのだが、次第にアニメ業界から離れる。やっぱり、どうしても予算的に厳しいから。自分の中で折り合いをつけられる人でないとやっていけない。
  • あと、アニメの場合は詞先(詩が先に作られ、それに曲をつけるもの)の時、とんでもない歌詞が来るときがある。
  • 「ぼくらのバロム1」なんて、「ブロロロロー」なんて歌詞がきたら普通パニクるよね。「こんなのに曲つけられるかー!」って(笑)。
  • この業界にはそういう過去があるから、「ガ」が100個くらいある歌詞がきても対応できるんです(笑)。

マッハGoGoGo!」

  • これはスゴい。評価[A]。
  • タツノコプロはオープニングに凝る。画と曲が完璧に合うのが魅力。
  • 思うに、タツノコは一番最初のオタクの集団なのではなかろうか。
  • 一方、手塚プロは手塚先生だけがオタクなのが対照的。
  • でもタツノコも「新ガッチャマン」くらいからおかしくなった。

「怪獣音頭」

  • 評価[A]。
  • アニメ業界には「音頭文化」みたいなものがあって、昔のアニメに音頭と数え歌は必ず用意されていたが、ヒットしたのは「オバQ音頭」くらい。
  • 私もコンポラ音頭とゲキテイ音頭を作った。あとは、「キングゲイナー」が音頭なのかも?

ジャングル大帝

  • ものスゴいアーティスティック。評価[A]。手塚治虫が「子供には歌えない」と反対したくらい。でも冨田勲はアーティストなので押し切った。
  • そういや以前、となりのスタジオで「たそがれ清兵衛」のレコーディングをしてるというので覗いてみたら、山田洋次冨田勲の二大巨頭が腕組みしながら睨み合っていた。スタッフに聞いてみると、お互い巨匠だから譲らないのだという。
  • 黒澤明と佐藤勝はそこいら辺が対称的。佐藤勝は職人だった。
  • 彼らと伊福部昭も対称的。「ゴジラ」では本多猪四郎が職人だった。伊福部昭も組み合わせによっては監督とケンカになる時があったが、注文する方が悪い。

田中正史

  • 黄金バット」、「サスケ」、「妖怪人間ベム」僅か3曲で強烈な印象を残した異能。
  • 「サスケ」評価[A]。半音ずつ上がるのが曲としてはブサイクだが、でもそこに情念を感じる。「カムイ」→「サスケ」と続く白土三平作品の内容にスゴく合っている。
  • 全曲、普段はコーラスを務める人が歌っていて、変に健康的。

小川寛興

  • 七色仮面」、「仮面の忍者赤影」等、ヒーロー音楽のパイオニア
  • ナショナルキッド等のCM音楽でも活躍した。
  • ただ、劇伴の報酬は印税ではなくギャラという慣行を作ってしまった人でもある。小川さんの頃はCM一本で車が買えるくらいのギャラを貰えたので良かったけど、その後に続く人が苦しい。
  • それに反発して、すぎやまこういちさんなどは「印税で行こう!」と、特にゲーム業界で戦ってくれた。
  • でも、今のゲーム業界には金が無い。音楽は社内で作り、印税は内部留保。仕方が無いけれど、でもそれだと良い人材が外から入ってこないよね*1
  • でもでも、企業で著作権フリーの音素材を作るというのは若手作曲家なら誰もが通る道でもある。私もコロンビアでCD1枚分くらい作ったけれど、その時の前任者がなんと久石譲先生。引継ぎの時、君もこの仕事をやるのかね?という調子で「ニッ!」と笑われた。そこで、私も退社する時後任の人に「ニッ!」と笑ってやった。

冨田勲のスゴさについて

  • この業界にはヒエラルキーがある。一番偉いのが映画音楽。次が歌謡曲にCM音楽。アニソン・特ソンはその下。その更に下がゲームかな?今はそれほどじゃないかもしれないが、昔は確実にあった。
  • でも、そのような意識が根強かった時代に、これだけの才能をアニソン・特ソンに注ぎ込んだ冨田勲は本当にスゴい。しかも、ノスタルジーでスゴいのではなく、技術的にスゴい。これは誇れる文化だ。
  • 余人に真似のできない作風。大陸的、宇宙的なスケール感。ただ、どの曲も「足し算」の構造で、暑苦しいことは確か。
  • キャプテンウルトラ」。評価[A]。バンデル星人のチャックが見えまくりの本編の映像的ショボさに比較して、この音楽の素晴らしさ!このまま音だけルーカスフィルムに持っていっても何の問題も無い。
  • 「空中都市008」。あー、これは手を抜いてますなぁ。シンセを口でやるというだけで終わっている。評価[C]*2
  • 冨田勲は日本で最初にシンセを買った三人のうちの一人。あとの二人は渡辺宙明と誰か。

タイガーマスク

  • 暗いエンディング、ウエスタンのリズムにマイナーな曲調と、70年代への布石的な曲。
  • それまでコーラス一辺倒だったアニソンがソロで唄うようになったのも特徴的。
  • タイガーマスクはヒーローとしても異色。悪の組織に出自があり、裏切って自分がいたソ組織と、チームではなく一人で孤独に戦う。これはその後に続く70年代の特徴的作品である「仮面ライダー」と全く同じ。
  • (70年代のそれは)公害問題とか、「明るい科学」が大阪万博で頂点を打ったという理由もあろうが、70年代安保闘争で敗北した人間がクリエーターとして業界に入ってきたのも大きかろう。

インテリ作曲家渡辺岳夫の最高傑作とは?

  • 巨人の星」、「キューティーハニー」、「天才バカボン」と、90点作品ばかり作るような人。
  • 逆にいえば薄ーい人が良く分かる曲を作る。よくテレビのゴールデンでやる「懐かしのアニソン大賞」みたいな番組でかかるのはみんなこの人の曲。渡辺宙明菊池俊輔のような濃い曲ばかりでは大衆に受けない。
  • ここで泣け、ここで感動しろ!というのを「私」が決める、インテリの音楽。感情が突き抜けなくてはならないヒーローソングが不得意。
  • その典型が「飛べガンダム」だろう。アニメ史において「ガンダム」が「ヤマト」に続くアニメなら、「ヤマト」の主題歌より良い曲でなければならない筈だが、そうはなってない。皆の印象にも残ってない*3
  • インテリは芸術家になれない。外をパンツ一丁で歩けない。渡辺岳夫は服をキッチリ着て生きているタイプの作曲家だ。
  • パンツ一丁で歩いているのは伊福部昭とか。あの人の曲には自分しかない。一方、富田勲はバランスが良い。
  • それでも渡辺岳夫はアニソン界の巨人だ。色々なジャンルで90点の曲を作品に合わせて書くプロだ。パンツ脱ぐのが偉いといってるわけじゃないよ。
  • 昔、私(田中)は渡辺さんを目標にしていたが、自分は皆の前でパンツを脱げる人間だと気づき、路線変更した。
  • さて、そんな渡辺岳夫の最高傑作は「キャンディキャンディ」だと思う。作曲家の才能がでた超名曲。
  • 作詞の名木田恵子は原作者の水木杏子の変名。つまり、どう考えても詞先。これに曲をつけるわけだが、まず「一つの特徴的なフレーズを作って、音程を下げていくことで曲にする」というラクなことをしない。これは渡辺さんの美意識。
  • そこに「オテンバ いたずら だいすき」「かけっこ スキップ だいすき」というシークエンスが続くが、「ひとりぼっちでいると ちょっぴり さみしい」で曲調がマイナーに変化する。邪推すると、これは「アタックNo.1」で味をしめたのでは?
  • 「そんなときこういうの〜」ここだけ感性のほとばしりがある。堀江美都子の一番良い時の声もそれに重なっている。その後、「わらって わらって わらってキャンディ」「なきべそなんて サヨナラ」と、どんどんどんどん盛り上がる。広がっていく。
  • 曲は広がったら、しまらないと終わらない。どんな風にまとめるのかと不安になるが、なんと「ネ」ですべてがチャラに!
  • この「ネ」で全てが変わる。普通はこんな風にまとめられない。もっと長くやらないと後始末できない。でもこの曲は最後の4小説で急激にしまる。あとは「キャンディ キャンディ」で終わっちゃう(笑)*4
  • もうね、これは神が降りたんだよ(笑)!普通、神はパンツ一丁の芸術家にしか降りないものなんだけれど、インテリである渡辺岳夫にも唯一降りた瞬間、それがこの曲の作曲時だったに違いない(笑)。
  • アニソン魂はロック魂と似ていて、なにしろ地球を征服しようという理不尽な状況を打開するような時にかかる曲だから、盛り上げて盛り上げて終わるものなのだが、渡辺岳夫の異端さは、綺麗に終わる様式美と美意識にある。

田中公平最初のロボもの「バイオロボの歌」

  • バイオマン」の音楽担当だった先輩作曲家の矢野立美さんから、夜中に「俺がやるのは面倒くさいからバイオロボの歌やってくんない?明日までに」と頼まれた。酒飲んで酔っ払ってるんだよね
  • 頑張って作曲すると、「急いでいるから電話で送ってくんない?」と言われた。どういうことかというと、電話口で唄うんだよね。「バイオドラゴン 発進だ〜!」と実際に唄った(笑)。
  • できあがった曲は、矢野さんが酒飲んでアレンジしたとは思えないほど良いできだった……と思いきや、矢野さん最後にありものの劇伴をくっつけて手を抜いた。だから評価は[C]。
  • でも、これが結構な高評価で、腹巻さんなんかはBGMをとりこんでキチンと世界観が合った良い曲だと思ったとか……ファンとはなんとありがたい存在なんだ!
  • 今度大阪でコンサートをやるのだが、唄おうかな。

 トークはこの後ももっと続いたのだが、ちょっとこの後に別の用事が控えており退場したのでレポートはここまで。他の人のレポートを読むと田中公平のデモテープ披露とか色々楽しげなことがあったらしいのだが、仕方なし。

 とにかく田中公平トークが楽しすぎるイベントであった。第二回をやるのなら是非行きたいねぇ。


 再度紹介するけれど、田中先生に興味を持った方は「史上最強のオタク座談会」を今すぐゲットだ!ただ、あまりにも黒すぎる自分の発言を振り返って「仕事が減る」と恐れを抱いたせいか、その後に続く「空前絶後のオタク座談会」シリーズは不参加。「空前絶後〜」からはゲストを呼ぶ形式になったのだが、渡辺宙明とのクロストークなんかして欲しかったなぁ。
封印―史上最強のオタク座談会 (史上最強のオタク座談会)
岡田 斗司夫
4872790235

史上最強のオタク座談会〈2〉回収 (史上最強のオタク座談会 (2))
岡田 斗司夫
4872790340

史上最強のオタク座談会〈3〉絶版 (史上最強のオタク座談会 (3))
岡田 斗司夫
4872790405

 最近では3ページほどだけどゲームサイドに載ったゲーム音楽について語るインタビューが興味深かった。「伝説のオウガバトル」で崎元仁と共に楽曲を担当していた松尾早人を自身の音楽プロダクションにヘッドハントしていたなんて知らんかったよ。
GAME SIDE (ゲームサイド) 2008年 04月号 [雑誌]
B0014FUYBU

*1:サクラ大戦」以外でも「ジャストブリード」や「風雲カブキ伝」なんかで大活躍した田中公平が言うと説得力がある

*2:でも、私は好きだったりする

*3:むしろ映画版の「哀 戦士」や「めぐりあい」の印象の方が強烈だよね

*4:ここいら辺、田中公平は「BS熱中夜話」の「ガオガイガー」の解説の時みたく、実際に演奏して説明してみせて、会場は爆笑につぐ爆笑だった。凄いよ田中先生!