岡田斗司夫のクリエーター夜話「プチクリ講演会」in多摩美術大学 その1
以前ロフトプラスワンで「岡田斗司夫の『遺言』」というイベントが開催されていて、結局最初から最後まで半年に渡って計6回全て参加してしまったのだが、もの凄くためになったと感じている(その時のレポート*1)。
その後、「岡田斗司夫の『遺言』」というイベントがあって*2、これももの凄くためになったのだが、こちらは1回限りでその後が無かった。
少々物足りなく思っていたら、多摩美術大学の学園祭でプチクリの講演会をやるという。
ロフトの講演会に毎回来ていただいてるようなヘビーユーザーは無理して来なくても大丈夫ですよ(笑)
http://putikuri.way-nifty.com/blog/2008/10/112-e3e6.html
と書いてあったので当初はスルーしようかと考えていたのだが、
基本は「プチクリ」というクリエイター発想法なんだけど、どんどん脱線していくのも楽しいかな?とか考えています。
http://putikuri.way-nifty.com/blog/2008/10/post-5a0f.html
GyaOジョッキーにはいちおう「放送できる話」という枠があるんだけど、今回はそういう枠もないし、思いっきりやってみようかな、と。
などと追記されたので、思い切って行くことにした。どうせ都内に出るし、何しろ参加料は300円だ。でも、本当にもう「信者」と言われても否定できないな。
実際の内容なのだが、プチクリに関する講義内容は書籍や他のイベント等で言っていたこととほぼ同じ、らしい。実のところ、私は書籍の「プチクリ」を読んでないし、「いつものプチクリ入門編」という映像素材も初見だったせいか、楽しめた。
ただ、本当に面白かったのはその後の質疑応答で、「なんでも良いですよー」という岡田に対して聴衆が本当になんでも質問し、岡田もそれに対して丁寧に答えてくれること約1時間半、サービス満点だなと思ったよ。
以下、いつも通り面白いと感じた所を中心に自分なりのメモ。括弧内は私の勝手な感想だ。いつもながら、文章におこす段階で私というバイアスが入っているのでご注意を。
プチクリ 思いついたきっかけ
- こういう場所でダイエット以外のことを話すのは久しぶり。
- 大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科というところで講師をやっている。この学科はマンガ原作者の小池一夫が設立した。大抵のマンガ学科は文学部にあるのだが、ここはそうじゃない。それは小池さんに、マンガにおけるキャラクターの重要性を伝えたいという考えがあるから。
- 1学年は約150人。学生は9倍以上の競争率の入試を潜り抜けて入学したが、この中でプロになれるのはどう考えても2、3人だろう。
- 過半数が幸福になれないシステムはどう考えても変。しかし、プロになれる可能性が高い数人のみを教育していこうというのは大学教育ではなく徒弟制度になってしまう。
- そこで、プチ・クリエイター略称プチクリというコンセプトを思いついた*3。
幸福と金について その1 宇宙でプラモつくろう問題
- 幸福という観点から考えると、クリエーターは効率が良い。対して、金儲けは効率が悪い。
- 実家は中途半端に貧乏で、小6まで肉というのはミンチ肉のことだと思っていた。でも、金持ちとのつきあいはあった。親戚は金持ちだったし、アニメやゲームの仕事を通しても金持ちとつきあった。でも、彼らの生き方は楽しくなさそう。
- 例えばこの前、株で大層稼いだ人が22億円で宇宙旅行を申し込んだ*4。彼にとって22億円というのは小遣い程度なのだ。でも、傍からみていてあまり楽しくなさそう。
- 人生を楽しむという意味なら、千円や二千円で充分楽しめる。千円あればTSUTAYAの半額デーにビデオを5本借りれるし、マンガや文庫本も2冊は買える。なぜ22億円も必要なのか?庶民と金持ちとでは金銭感覚が違うのか?
- でも、じつはあまり変わらないというのを僕は知っている。例えば、庶民と金持ちが外食する時の金額の違いはせいぜい10〜100倍程度だ。
- 以前、バンダイの社長の奢りで10万円のフランス料理を食べたが、味自体は2万円のそれと大差なかった。違いといえば、銀座の知る人が知る店で、数人の客に店員がこれだけついて、という違い。つまり高価なものはサービス料ということだ。
- 果たして宇宙旅行に22億円払って、22億円分楽しめるのだろうか?なぜ22億円も必要なのか?それはサービスに意味を求めているからだろう。
- 彼も苦しんでいた。宇宙でガンプラを作ろうと、バンダイに宇宙空間で製作することを前提にしたガンプラの開発を依頼したりしていた。でも、プラモの開発は金型やらなんやらに莫大な金がかかるので、勿論作ってもらえない。
- このぐらいから、みている方としては段々切なくなってきた。彼は22億円で「宇宙に行って特別なことをする」という意味を求めている。22億円払うのだから特別な人扱いされたいと思っている。
幸福と金について その2 ホリエモンTシャツ問題
- お金を持っているほど使い方が下手。
- 僕が「ホリエモンTシャツ問題」と勝手に呼んでる問題がある。ホリエモンはライブドア時代、メディアに出る際常にTシャツを着ていて、背広のおっさん連中の中にいるから格好よくみえたり、反逆児というイメージはついたりしたが、はっきりいってセンス悪い。
- ホリエモンは中年太り体型なので、普通のTシャツではデブという事実が露わになる。しかも着ていたのはシャネルやカルバンクラインなんかの高級ブランドTシャツ。2、3万円くらいするが、彼にとっては端金なのだという。でも、100億持ってる人間が、株も持っていない会社の宣伝してどうするよ(笑)?
- せめてシャツの縫製の段階からデザイナーを呼んで、体型に合わせて格好よくみえるTシャツを作るべきだった(そういやライブドア傘下のT-SELECTでホリエモン応援特集*5というのがあったけれど、実際に着用してはいなかったと思う)。
- 胸に四次元ポケットのマークがついていて、「ITマネー」なんてかいてあればなおのこと良い(笑)。
プロのクリエーターのしんどさについて
- それに比べてクリエーターは貧乏だけど幸せだ。まずもの作り自体が楽しい。稼いだ金は全部好きなことに使ってしまえる。その金が巡り巡って自分に戻ってくるという幸福なサイクルもある。
- しかし、プロにはプロで問題もある。プロのクリエーターのうち、凄い楽しいと感じているのは全体の3%くらいだろう。そこそこ楽しいと感じているのは25%。残りの72%は、しんどいけれど辞められないと感じている。明確な根拠があるわけじゃなくて僕の感覚に基づいた話だが。
- 職人の世界はこれに比べると多少ラクで、そこそこ楽しいと感じている人たちが50%くらいに増えるだろう。しかも、残り47%のしんどいと感じてる人たちのしんどさは職場の人間関係や業界全体の景気の悪さ等に基づくものだ。
- プロの世界ではやりたくない仕事でもやらねばならない時がある。
- 例えば、「バクマン」でもそのうちやると思うが、プロのマンガ家はマンガが売れ続けなくてはならない。マンガ家のランクが下がると、あまり売れないと分かっているマンガ、例えば税金の解説マンガなども書く必要がある。
- それなのに何故プロになるのか?
- プロ=毎日作れる
- 作ること=金
- 好きなものを作っていたい
- 本来、上記3つは別々の命題だが、クリエーター志望者にとってはごっちゃになっている。上位3%に入ることができればこの3つを同時に実現可能だが、効率が悪い。
上位3%は何で喰っているのか
リスク分散という意味も
- 僕もそうで、常に3つ以上の仕事をやっているようにしている。具体的にいうと、今なら1:ダイエット、2:教師、3:その他。
- これも更に3つに分ける。たとえば1:ダイエットなら1-1:出版物、1-2:DSでソフト化、1-3:ダイエット用ノートのプロデュース、2-1:芸大、2-2:他の大学、3-1:TV出演、3-2:もの書き、3-3:トーク、といった具合。
- つまり投資におけるポートフォリオと同じことで、なんでも3つ以上あると安定する。嫌になったらすぐ辞められる。
- クリエーターで食っている人はこういう人が多い。例えば、アシスタントを育てるうちにアシスタント育成が仕事の一つになったマンガ家、タレント化する映画監督、等々。
- つまり、プロのクリエーターというのは大体色々やっているうちに喰えてしまった状態にあるということ。逆にいえば、クリエーターだけで喰っていくのは大変だが、なるだけなら簡単だ。
映像系プチクリの具体例 第一段階
- ここからは具体例を話しましょう。例えば映像系のクリエーターなら、面白い映像をとにかく大量に集めるというのが第一段階になろう。ジャンルや形式に関係なく、自分の心の琴線に触れたものを大量集める。それを人にみせる。
- たとえば政権放送。現在の日本で、全くのノーカットで放送される映像は政権放送だけ!
第二段階
- ただ、大量に集めた映像をそのまま人にみせてもそんなにウケが良くないことにすぐ気がつくだろう。長すぎるからだ。そこで第二段階として、編集してまとめて、どこが面白かったかを人に伝える。
- たとえばこれは僕が過去に作った、巨人の星に如何に大袈裟な演出を使用したシーンが多いかを説明する為に編集した映像です(笑)。(「星君、今日は君が大きく見えるですたい!」という左門の言葉と共に本当に星が巨大化する映像など)
第三段階
- 仮説を立てて実践してみる。これが第三段階。たとえばTVアニメのオープニングで描くことは決まっている。しかも、最近のアニメのオープニングの秒数は全く同じ。登場人物、仲間、敵紹介。最後の方にサビとエフェクト。もしかすると、オープニングの曲と映像を入れ替えても成立するのではないか?
- 例えばセーラームーンとサイボーグ009。仲間紹介のタイミングも、サビやエフェクトのタイミングも同じなので充分成立する。
第四段階
- ものをイチから作るのは難易度が高い。ありものを組み換え、自分の好きなシーンだけを繋げることが、ものづくりの初期には良い勉強というか練習になる。
- MADビデオもそう。先程の曲と映像の入れ替えを更に推し進める。たとえばこれは四国の大学生が夏休みをツブして作った(笑)ドラゴンボールのプロモーションビデオです。ドラゴンボール本編から抜き出した映像に「めざせ天下一」の曲をつけている。
- (映像紹介)また、曲と映像が合っているんだよね。
- このシャッフルというのを、作品を入れ替えてやってみる。たとえばこれは「男塾」の松尾鯛雄の髪型がサザエさんに似ているという発想から、「男塾」から寄りぬきした松尾の映像に「サザエさん」の曲をつけたもの(映像紹介)。つまり、松尾をサザエさんに置き換えている。
第五段階
- 次第に「男塾」や「サザエさん」の面白さで無く、自分の作った新しい面白さを伝えたくなってくる。
- たとえばこれは「北斗の拳」+「いなかっぺ大将」(先程の「松尾の髪型=サザエ」という前提が無いところから発想したことに注意)。
- ここまでくると、いよいよ最終段階に近い。映像は素材にすぎない。
まとめ
- どんなクリエーターも最初は模写やパロディや全くのモノマネから入る。
- モノマネはやってはならない!というのは、モノマネを死ぬほどやった人の為の言葉。
- 既存のものを組み合わせることで新しいものができるということ。たとえば、海原雄山がガンダムの世界に入るというのはどうか?「こんなMSを私の前に出しおって!」みたいな(笑)。自分で言っていてなんだが、これは良いかも(笑)。
- そのようなことをやっていると、だんだんと離陸速度に達し、本当にオリジナルなものが作れるようになる。
- つまり、「何が面白いか?」が分かるようになる。その意味では、「何が面白いか?」を言語化することがクリエイティブの本質であるといえる。
- その意味では、評論家とクリエーターは隣り合わせの存在でもある。評論家は言語化したものをそのまま出す。一方、クリエーターは作品としてアウトプットする。
- モノマネをし、一部を他のモノマネで置き換える。或いはありものの作品の一部分を自作のモノマネで置き換える。これはリバースエンジニアリングみたいなもの。振り返れば日本という国も戦後アメリカやヨーロッパの製品をリバースエンジニアリングすることによって技術を高め、工業化に成功した。映画や小説も最初はそれで良いのではないか?表面ではなく、根本でモノマネをするということが大事*6。
この後、質疑応答の時間になったのだが、長くなったので記事を分けます。
プチクリ!―好き=才能!
岡田 斗司夫
*1:http://blog.livedoor.jp/macgyer/archives/51136030.html
*2:http://blog.livedoor.jp/macgyer/archives/51360255.html
*3:参考リンクhttp://putikuri.way-nifty.com/blog/2005/11/post_4024.html
*4:岡田は名前を忘れたのか意識的なのか、具体的な個人名を出さなかったが、元ライブドアの榎本大輔のことであろう。でも、結局行けなくなりましたな。http://wiredvision.jp/news/200809/2008092622.html