若人のためのポール・ヴァーホーベン映画全作ガイド

先日ニコ生にて行なった『ロボコップ』解説がニコ動にアップされました。

STAP細胞解説の回との再生数の違いに哀しくなるものの、どちらかといえばこちらの方に力を入れております。お時間があれば是非御覧下さい。
実はこの回、「ヴァーホーベンと『ロボコップ』」として昨年夏に収録を行なった内容が元になっております。
ヴァーホーベンの過去作解説が思いのほか長くなりすぎ、「編集したくない!」という訴えからお蔵入りしました。
先日の放送では大幅に割愛しましたが、せっかくなので「ポール・ヴァーホーベン映画全作ガイド」としてブログのエントリとしてまとめておきます。『ロボコップ』解説動画と共にお楽しみ下さい。


ちなみにチェックリストの○×△は以下の基準でつけています。

  • レイプ:きっちり挿入しているかのような描写があるかどうか
  • ゲロ:口から吐瀉物にようなものが噴出するカットがあるかどうか
  • ウンコ:ウンコをきっちり映像でみせているかどうか
  • おっぱい:女性のおっぱいをきっちり映像で(以下略)
  • ちんこ:ちんこを(略)
  • 売春:売春描写があるかどうか
  • 人体破壊:人体が残酷に破壊されたりバラバラになる描写があるかどうか
  • 殺人:誰かが誰かを殺す描写があるかどうか
  • 差別:誰かが誰かを人種差別、性差別、職業差別、階層差別的に扱う描写があるかどうか
  • 同性愛:同性愛を意味する描写があるかどうか
  • 反キリスト:キリスト教を馬鹿にするような描写があるかどうか

○/×は基準を満たす/満たさない、△は基準を満たさないもののそれに類した描写があるとお考え下さい。
たとえば『インビジブル』の主人公は透明人間なので、レイプシーンできっちり挿入しているシーンがあるとはいえず、△になります。
◎についてはお察し下さい。
勿論、自分の記憶違いや認識違いもあるかと思います。分かり次第修正致します。


1、1971年『Wat Zien Ik? (英題“Business Is Business”)』

Business is Business
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プリティ・ウーマン』より19年、『セックス・アンド・ザ・シティ』より27年早いセックス・コメディ。しかも主人公は娼婦です。
娼婦といっても、この二人はイメクラのようなものをメインとして商売しているらしく、あからさまなセックスは冒頭だけ。その後はヨーロッパのオトナ然とした紳士たちが嬉々として女教師に責められたり、白い羽毛まみれになってガチョウになりきったりする、いかにもヴァーホーベンといった笑える変態プレイが続きます。
別れても相手を変えて続く元ヒモの暴力を顔のアザだけで描写したり、空に白い羽毛が待ったりするシーンにはヴァーホーベンなりの映像美があります。結婚して脚抜けしようとする娼婦の友人を手助けしようと、皆でお張り子さんのふりをするシーンはベタですが心暖まりますね。
処女作には作家の全てがあるといいますが、後々まで続くヴァーホーベンのエログロやバイオレンスの萌芽を感じとれる一作です。ただ、下記チェックリストの×の多さから分かる通り、本人にとっては軍隊時代の作品が処女作という気持ちなのかも。ずっと室内で口喧嘩してるシーンが続き、たまに屋外に出るとホッとしてしまう等、他作品に比べると映像作品としてのクオリティが一段落ちるかもしれません。未だに日本版DVDが出ないのもどこかしら納得です。

  • レイプ△
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ×
  • 売春○
  • 人体破壊×
  • 殺人×
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト×

2、1973年『ルトガー・ハウアー/危険な愛』

ルトガー・ハウアー 危険な愛 [DVD]
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初期ヴァーホーベンのアルターエゴことルトガー・ハウアーと初期ヴァーホーベンのミューズ モニク・ヴァン・デ・ヴェンによるエログロ純愛青春物語。
全編通して若かりしルトガー・ハウアーのが異常に格好良いのですが、そんなルトガーが「おまえのマンコは牡蠣の味」「俺はキリストよりセックスが上手い」といった下衆すぎる名言を連発し、オナニーとフリーセックス三昧というのが映画の冒頭です。おかげでぐいぐい映画に引き込まれます。そして時間が巻き戻り、こんな風になったきっかけが描かれるわけです。本質は、既存の価値観に反発する青年が、恋に破れ、イノセンスを失う。やるせない青春映画なんです。
後期作品群のインパクトから、特定の作家からの影響を受けていないかのように思えるヴァーホーベンですが、本作の高速道路や海岸のシーンを観ると、当時のアメリカンニューシネマやヌーベルバーグからの影響をしっかり受けていたことが分かります。映画青年ヴァーホーベンなりの純情を感じ取れる一作です。
特に、ほとんど台詞無しで語られる終盤は圧巻の一言。原題でもあるトルコのお菓子「ロクム(Turkish Delight)」を頬張るモニク・ヴァン・デ・ヴェンと、その後飛び立つ鳩に青春の終わりのやるせなさを感じないおっさんはいないはず。アカデミー外国語映画賞ノミネートや、園子温がオールタイムベストの一本に選んでいるのも納得です。
オランダでは大ヒットしたそうで、今でもオランダで「ロクム」といえば本作を思い浮かべる人が多いそうです。
本作を最後にヴァーホーベンは100%感情移入できる男性主人公を描かなくなります。

  • レイプ○
  • ゲロ○
  • ウンコ○
  • おっぱい○
  • ちんこ○
  • 売春×
  • 人体破壊△
  • 殺人△
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト○

3、1975年『娼婦ケティ』

Keetje Tippel [DVD] [Import]
Jan de Bont
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19世紀末のアムステルダムを舞台に、貧乏一家の娘が娼婦になり、上流階級に入るまでの一代記。
前作『危険な愛』でヒロインを演じたモニク・ヴァン・デ・ヴェンのキュートすぎる魅力が爆発です。ついでに姉弟父母の下衆さも爆発。母に売春を強要されて「あそこがヒリヒリする」と言いながら夜の街を歩くという、笑っていいんだか、せつなくなるべきなのか戸惑う描写の連続です。姉二人のふるまいを見て育った弟がおっさんのちんぽを銜えようとする展開は、さすが鬼畜ヴァーホーベンといったところ。
こういった笑いと哀しさが同居する描写は後の『スペッターズ』に、どんなに非道い目にあっても人生に絶望しない丈夫な主人公は『ショーガール』や『ブラックブック』に、一見ハッピーエンドですがよく考えると"money turns people into bastards."といっていた娘が資本主義に取り込まれるという苦い結末は『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』に繋がっていくことになります。
DVDは出ておらず、レイプシーンではモザイクだらけで何が起こっているんだか全く分からないVHSソフト(しかもオランダ語ではなく英語吹き替えに日本語字幕)が発売されたのみです。何故かAmazonにもありません。
ちなみに、モニク・ヴァン・デ・ヴェンは、本作を含む数々のヴァーホーベン作品で撮影を務めたヤン・デ・ボンが娶ることになるのですが、絶対にヴァーホーベンと穴兄弟だと思います。

  • レイプ◎
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ○
  • 売春◎
  • 人体破壊×
  • 殺人×
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト○

4、1977年『女王陛下の戦士』

女王陛下の戦士 [DVD]
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第二次大戦中のドイツ軍占領下のオランダを舞台にした男8人戦争物語。
フラタニティ(男子寮)の新歓パーティー(という名のかわいがり)から始まる冒頭20分は完全にライデン大学に通うリア充どもの青春白書として演出されているのですが*1、ドイツによる爆撃で肉片だらけの街をバイクで失踪するあたりからヴァーホーベン演出が冴えまくりです。
開戦当初にドイツ系オランダ人が差別されたことからSSに所属する者、ユダヤ人という出自からレジスタンス活動に身を投じるもの、はたまた二重スパイになる者……とバラバラになる中、単純な正義感を燃やして行動しつつも女のケツを追うことも忘れない主人公像が後の『スターシップ・トゥルーパーズ』と比較すると興味深いところです。冒頭で主人公にかわいがりをカマしていた寮長がマブダチになるのも良いですね。フラタニティでの上下関係なんて戦争になったら関係ないんです。
イギリスに亡命後、スパイとしてオランダに舞い戻る際の緊張感や、それまでバラバラだったドラマが収斂する際の大河ドラマ的ドキドキ感はまさにジャンル映画の真骨頂。まさか男と男のダンスシーンでこんなに興奮するとは思いませんでした。まるでビルドゥングスロマンのようなラストも素晴らしいです。
と同時に、トイレットペーパーにウンコで嘆願書を書いたり、ケツ穴にホースを入れて拷問したり、トイレで爆死したりといった、笑っていいんだか哀しむべきなのかというお馴染みの演出もそこかしこに出てきます。セックスで男を操るファム・ファタールが二人も登場するのも、考えてみれば凄いことです。
また、当時のオランダ映画界史上最高の製作費をかけ、オランダ王室も観た国民的映画にも関わらず、イギリスに亡命したオランダ女王が完全に変人として描かれています。SSに入った友人が完全な悪役として描かれなかったりするのも製作年代を考えると凄いですね。オランダでは終戦の日に上映されているという噂は本当なのでしょうか。
明らかにヴァーホーベンにとって一つの到達点である、完成度の高い傑作です。ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされたり、本作を観たスピルバーグが『ジェダイの復讐』監督に推薦したのも頷けます。

  • レイプ×
  • ゲロ×
  • ウンコ○
  • おっぱい○
  • ちんこ×
  • 売春○
  • 人体破壊○
  • 殺人○
  • 差別○
  • 同性愛×
  • 反キリスト×

5、1980年『スペッターズ』

スペッターズ [VHS]
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Spetters [Import anglais]
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モトクロスに熱中する馬鹿で無軌道な三人の若者が夢に敗れていくさまを描く青春残酷群像劇。
本作くらいから感情移入できる登場人物がいなくなり、キャラクターを突き放したような描写が多くなります。ルトガー・ハウアーが三人の若者にとっての憧れのスターとして出てくる時点で、ヴァーホーベンの立ち位置が分かろうというものです。
初期ヴァーホーベン作品には、人生の落とし穴としてのファム・ファタールがよく出てくるのですが、本作にはなんと二人でてきます。「コロッケ屋の兄姉」という役どころなのですが、つまり一人は男のファム・ファタールですね。
主人公の一人がハードゲイにレイプされるシーンがあることで有名ですが、その主人公がゲイを脅してカツアゲしていたこともあり、レイプシーンは因果応報として笑って見られます。
むしろ辛いのは、別の主人公が事故で下半身不随となる描写でしょう。教会で神の不在を実感するシーンは、ヴァーホーベンが妻に中絶させた経験を重ね合わせていることもあり、渾身の描写です。ゲイからもフェミニストからも身体障害者からも、ありとあらゆる人間から嫌われたというエピソードは伊達ではありません。
そして三人目の主人公は、モトクロスでスターになるという夢を捨て、バーのおやじとしておめおめと生き残ります*2。これが一番残酷に感じてしまうのが素晴らしいですね。
本作を観たスピルバーグが『ジェダイの復讐』監督推薦を取りやめたというのも実にイイ話です。
本作もVHSのみで日本版DVDは未発売。DVD出ないかなー。

  • レイプ◎
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ◎
  • 売春○
  • 人体破壊△
  • 殺人×
  • 差別○
  • 同性愛◎
  • 反キリスト○

6、1983年『4番目の男

4番目の男 [DVD]
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妄想と現実にキリスト教的隠喩が入り混じる観念劇を、なんとリンチとヒッチコックの合わせ技のようなタッチで描いたサスペンスです。
主人公はバイセクシャルで、イイ女と彼女のツバメの美少年の両方を狙うクズなのですが、そのイイ女がやっぱりファム・ファタールで……という『氷の微笑』の原型みたいな一作です。
前作に続いてまたもやファム・ファタールを演じるレネ・ソーテンダイクに加えて、またもやフルチンを披露する主人公がいて、またもやガチホモ描写があります。
交通事故や溺死者の横を通り過ぎるというクローネンバーグみたいな演出や、妄想でキリスト(のように美しい若者)を犯すというとんでもない描写もありますが、ヴァーホーベンは新境地を狙ったらしく、基本的には落ち着いた作りの映画です。
列車に掲げられたサムソンとデリラの絵画や、カソリックを揶揄するスピーチ等、大いに教養が必要な作りにもなっています。ていうか、本作のヴァーホーベンはちょっと格好つけすぎだと思いますね。

  • レイプ△
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ○
  • 売春△
  • 人体破壊○
  • 殺人△
  • 差別×
  • 同性愛◎
  • 反キリスト◎

7、1985年『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』

グレート・ウォリアーズ [VHS]
B000064NVT

Flesh + Blood [DVD]
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16世紀のヨーロッパを舞台に、神の名の下に欲望の限りを尽くす傭兵達を描く中世騎士道アクション……とみせかけた悪女伝説です。『ブレードランナー』出演後、俳優としての名声のピークを迎えたルトガー・ハウアーが主演またもや主演を務めています。
情婦の死産をきっかけに「これまでは雇い主のために戦ってきた、でもこれからはおれとおれの守護聖人のために戦うんだ!」とばかりにカリスマ教祖として目覚めたルトガーがやりたい放題やるさまに興奮するのですが、まるで少女のようなお姫様ジェニファー・ジェイソン・リーを攫ったのが運の尽き。情婦の怒り、許嫁のペスト死体投げ込み攻撃、元傭兵隊長の攻城と、どんどんドツボにハマっていくこととなります。「この娘は犯されているんじゃない、逆に犯しているんだ!」は一度実際に使ってみたい台詞ですね。
初めての英語劇であり、アメリカ資本で作った作品なのですが、ヨーロッパの因習や隠された歴史の恥部をエログロ暴力演出で開陳するという、実質的にはオランダ時代の総決算的な作品です。「今お上品な顔してる貴族だって、皆こんな風にエログロ暴力で城を乗っ取ったカルト集団の子孫なんだよ!」というヴァーホーヴェン先生の心の叫びが聞こえてきそう。敗北したにも関わらず、城をバックに不敵に微笑むルトガー・ハウアーというラストカットがこの上なくカッチョ良いですね。
淀川長治が生きていた頃の日曜洋画劇場では何度も放送していて、おそらく放送を観たであろう三浦健太郎の『ベルセルク』に影響を与えたことは間違いないと思います。
本作を最後にルトガー・ハウアーはヴァーホーベン作品に出演していません。「ヴァーホーベンの現場にはもう愛想が尽き果てた」という台詞が伝わっているのですが、いったい何があったのでしょうか。
本作もVHSのみで日本版DVDは未発売。正直な話、DVD化してもあんまり売れなさそうな『娼婦ケティ』や『スペッターズ』と違って、『ベルセルク』や『ゴッド・オブ・ウォー』のような残酷暴力ファンタジーものとして売り出せる本作がDVD化されないのは不思議でしょうがありません。昨年WOWOWで放映されたりしたので期待したんだけどなあ。

  • レイプ○
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ○
  • 売春○
  • 人体破壊○
  • 殺人◎
  • 差別○
  • 同性愛○
  • 反キリスト◎

8、1987年『ロボコップ

ロボコップ 〈特別編〉 [DVD]
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みんなお馴染みロボ警官が大活躍するSFアクション映画。実質的なアメリカ&世界デビュー作です。
本作でヴァーホーベンの名前を知った方も多いでしょう。自分は初めて本作を観たとき「世の中にこんな暴力的な映画があるとは!」と驚きました。
アメリカで映画監督をするに当たって、ヴァーホーベンなりに職人に徹して監督したようで、お話だけに着目すると典型的なアメリカン(コミック)ヒーロー物語を、演出だけで異形の文明批評に変えています。今まで一回も演出したことが無い筈のSFアクションというジャンルにすんなり適応し、映画内映像や主観描写でテンポよく物語を語れるポテンシャルもさすが。
オランダ時代とは異なり、ヨーロッパ的教養や歴史観無しでも楽しめる映画を目指しています。よって、ちんこ・うんこ・まんこ描写は控えめ(それでもナンシー・アレンがちんこを見て油断したり、ちんこを銃で打つシーンがある)。代わりに暴力描写は100倍増しです。
実際に観てもらえば。ヴァーホーベンはSFやメカニックに全く興味が無いこと、エログロや批判精神やバイオレンス・ギャグへの興味は他人の100倍あることが分かるでしょう。これが80年代という時代性ともマッチし、大ヒットしました。
本作最大の魅力は、あんなにもけれん味や爽快感たっぷりのラストであるにも関わらず、マーフィが「勝利」していない皮肉――文明批評にこそあります。この姿勢は後の『スターシップ・トゥルーパーズ』や『ショーガール』にも受け継がれます。
また、当時隆盛を極めていたマッチョ・アクション俳優ヒーローから、アメコミスーパーヒーロー等のキャラクター・ヒーローへの転換点にもなっています(だから、俳優が変わってもすんなり続編が作れたました)。クライマックスで仮面を脱ぐ(あるいは被り直す)演出は、現在ではアメコミ・ヒーロー映画の基本的演出になっていますね。
オランダ時代はヨーロッパ社会の暗部や偽善を開陳することに熱心だったヴァーホーベンですが、郷に入りては郷に従えとばかりに、本作以降はアメリカ資本主義社会の矛盾をイキイキと描くようになっていきます。

  • レイプ△
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ×
  • 売春△
  • 人体破壊◎
  • 殺人◎
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト△

9、1990年『トータル・リコール

トータル・リコール スペシャル・エディション [DVD]
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ロボコップ』の大ヒットにより、ハリウッドの中でもドラマとSFXを共にコントロールできる稀有な監督と見做されたヴァーホーベンが、次に任されたSFアクション大作です。
その実態は、フィリップ・K・ディックの短編を原作に、シュワルツェネッガーが非道いことしまくり、されまくる、バイオレンス・ギャグ強化作なのですが、これまたヒットしました。
鼻からりんご飴、銃撃戦で盾にされる無辜の市民、分割されるおばさん頭、エレベーターの腕切断、本当の身体障害者が混じる火星のミュータントたち……とエログロ暴力はヴァーホーベンのフィルモグラフィー中一二を争う凄まじさ。更にシュワルツェネッガーの非道すぎる捨て台詞も加わります。しかし、それこそが本作最大の魅力であることは、リメイク版と比較して頂ければ分かってもらえるでしょう。
当時劇場で販売されていたパンフレットにヴァーホーベンのインタビューが載っていたのですが、「暴力は好きですか?」という問いに「好きだねぇ、ウッヒャッヒャッ!」みたいに答えていたのがとても印象深いです。
ヴァーホーベンはイイ顔をした俳優をキャスティングすることに定評があり、本作では前作に続いてロニー・コックスを悪役として起用しています。また、マイケル・アイアンサイドは『スターシップ・トゥルーパーズ』にも重要な役どころで出演することになります。

  • レイプ×
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい◎
  • ちんこ×
  • 売春△
  • 人体破壊◎
  • 殺人◎
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト△

10、1992年『氷の微笑

氷の微笑 スペシャル・エディション [DVD]
ジョー・エスターハス
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欲望の街ハリウッドで闘い抜き、二作連続でヒットさせた我らがヴァーホーベン先生。遂に運命の男と出会います。
その名はジョー・エスターハス、全て登場人物の行動原理が性欲と金銭欲と名誉欲というお話を書く脚本家です。
この二人が組み、世に送り出したエロティック・サイコ・サスペンスの傑作が本作なのですが、またまた大ヒットしました。公開当時、まるで風俗に行くような気分で映画館に行ったことも記憶に新しいですね。
これまでヴァーホーベンが描いてきたファム・ファタールが可愛くみえるようなファム・ファタール――シャロン・ストーン(『トータル・リコール』ではシュワルツェネッガーに気絶させられたが)が遂に登場します。主人公が全く感情移入できないクズなのもヴァーホーベンらしいところです。
映画史に残るシャロン・ストーンの脚組み換えシーンはヴァーホーベンのアイディアで、童貞だった頃の経験を基にしたといいます。主演女優を抱くことで有名なヴァーホーベンですが、シャロン・ストーンだけは邪悪すぎたので抱かなかったというイイ話は本当なのでしょうか。ジーン・トリプルホーンは抱いたと思いますね。
スペシャル・エディション版のDVDには本作でも撮影監督を務めたヤン・デ・ボンとのコメンタリーが収められていますが、エスターハスとの解説が聞きたかったところ。

  • レイプ○
  • ゲロ×
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  • 同性愛○
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11、1995年『ショーガール

ショー・ガール プレミアム・エディション [DVD]
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ハリウッドには『スタア誕生』『バンド・ワゴン』『雨に唄えば』といった、ショービジネスの裏側を描く「バックステージもの」というジャンルがあるのですが、エスターハスと再び組んだヴァーホーベンは考えました。
「芸達者なおっさんじゃなくて、エロい半裸の姉ちゃんがでバックステージものをやれば最高なんじゃないの?」
それまでヒット続きのエスターハスとヴァーホーベンが組んだ新企画と聞き、スタジオは大金を出します。
結果、出来上がったのは、一人の女性ダンサーが男社会を相手に底辺から成り上がっていく、とんでもなく下品で異形な成長物語でした。
勿論、超名作です。氷で乳首を立たせる描写が最高なら、セクシーというよりセックスを連想させるダンスも最高。女どうしのえげつないトップ争いも最高です。そして、その裏には女同士を争わせることで男が利益を得る構造があることがきちんと描かれます。そこら辺のキャバクラからAKBまで共通する構造ですね。
実は良い人だったストリップ小屋の主人や主人公のルームメイト等、ところどころで泣かせる描写が入るのも最高です。「過去数十年の中でメジャー・スタジオが製作した、わずか2本のエクスプロイテーション・ムービー」とタランティーノが絶賛したのも頷けます*3
だが、本作を境にヴァーホーベン作品の興行は失敗続きとなります。どうもこの辺りから「文明批評のふりをして単にアメリカを馬鹿にしてるだけなんじゃ?」とアメリカ人観客も気付き出したようです。「暴力とセックスでアメリカを汚しに来た男」という素晴らしい異名もつくようになります。
ラジー賞受賞や、授賞式にヴァーホーベン本人が現れたエピソードも有名で、世間では失敗作ということになっているらしいのですが、自分はヴァーホーベン史上最高傑作だと信じて疑いません。何よりも、『デス・プルーフ』のような、ぬけぬけとしたハッピーエンドが素晴らしい!
観客も批評家もさんざん嫌ったくせに、この後ハリウッドは『コヨーテ・アグリー』や『シカゴ』や『バーレスク』や『ドリームガールズ』といった類似作や劣化コピーをどんどん製作することになります。

  • レイプ○
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12、1997年『スターシップ・トゥルーパーズ

スターシップ・トゥルーパーズ コレクターズ・エディション スペシャル・ツインパック [DVD]
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ハインラインによる名作SF『宇宙の戦士』映画化を打診された我らがヴァーホーベン先生。原作を読んだところ「これ、右翼のドリーム小説だろ?」と感じた先生は、オランダ海軍時代の経験や自分の趣味嗜好を活かしまくり、「プロパガンダのパロディ」という最高に意地の悪い映像化を思いつきます。『ロボコップ』もバイオレンス・ギャグとしての側面がありましたが、遂に映画の構造自体がギャグになったのです。
ナチスそっくりな士官にレッドネック丸出しの兵隊たち、戦意昂揚ニュースフィルムの多用、どう考えても泥縄としか思えない軍上層部の作戦描写、どこか笑える残酷シーンと、ヴァーホーベンの意図は明白です。明白なのですが、フィル・ティペット渾身のCGによるバグズ軍団の出来のよさと、巨大な昆虫と等身大の人間が戦うド迫力の戦闘シーン、突発的に発生する暴力&残酷シーンの小気味良さとで、阿呆が本気で激怒する性質の悪い映画になりました。つまり最高の映画ということですね!
ビバリーヒルズ青春白書』に出てくるようなリア充たちが地獄のような戦場で慌てふためくさまが痛快なのですが、その後、国家やイデオロギーといったものにより自然と変質――洗脳されていくさまが最高です。かつて本作が終戦記念日にテレビ放映されたことがあるのですが、編成局員は慧眼といっていいでしょう。
恐ろしいのは、本作が911前に作られたという事実です。ヴァーホーベンはSFに全く興味が無く、『ロボコップ』にしろ本作にしろ現実に対する誇張や皮肉として演出しているのですが、それらが未来予測となってしまうこと自体が皮肉としか言いようがありません。「私の予測が的中したのは嬉しいが、ちっとも喜ぶべき事態ではない」という言葉には重みがあります。
興行的に失敗した本作ですが、大迫力のアクションシーンが後の映像作品に与えた影響は大きなものがあります。キムタクヤマトはアクションシーンのみならず刺青を見せ合うシーンまでパクっています*4。また、いわゆる無双系ゲームは本作なくして誕生しなかったのではないでしょうか。

  • レイプ△
  • ゲロ○
  • ウンコ×
  • おっぱい○
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  • 人体破壊◎
  • 殺人◎
  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト×

13、2000年『インビジブル

インビジブル コレクターズ・エディション [DVD]
B0026R9HOA

そろそろロクな企画が回ってこなくなったヴァーホーベン先生。透明人間の翻案企画に光るものを感じ、監督することになります。
透明人間といってもただの透明人間ではありません。透明になった途端、同僚の女性研究員のスカートをめくり、トイレを覗きます。隣家で寝ている女の乳を揉み、レイプします。窃盗も不法侵入も自由自在。SODの企画モノAVの如く、全ての欲望を叶える主人公。おまけに演じるのはケヴィン・ベーコンです。『ノーカントリー』でブレイクする前のジョシュ・ブローリンも出ています。
それまで主人公だったケヴィン・ベーコンが、「透明人間はモラルも透明化する」との言葉通り、殺人鬼に変わっていくさまが本作の白眉です。これこそが人間の本性である……という結論しか導き出せない構造がまさにヴァーホーベン。匿名で心無いコメントを投げ合うネット社会に住む我々は、ケヴィン・ベーコンを単なるモンスターと看做せない筈ですね。
ヴァーホーベン作品はどれもオーディオ・コメンタリーが面白いのですが、ケヴィン・ベーコンとヴァーホーベンが語り合う本作のコメンタリーは必聴。「俺は毎日筋トレしなきゃいけないのに、ジョシュは何もせずこの身体なんだぜ?」というケビン・ベーコンのボヤキが笑えます。
インビジブル ディレクターズ・カット版 [Blu-ray]
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ブルーレイ版ではケヴィン・ベーコンのベーコンがはっきりとみえるらしいのですが未確認です。そういえば『ワイルドシングス』でもみえてましたね。
本作を最後にヴァーホーベンはハリウッドを去ることになります。

  • レイプ△
  • ゲロ○
  • ウンコ△
  • おっぱい○
  • ちんこ?
  • 売春×
  • 人体破壊◎
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  • 差別△
  • 同性愛×
  • 反キリスト×

14、2006年『ブラックブック』

スマイルBEST ブラックブック [DVD]
B0019R3MBW

オランダに戻ったヴァーホーベンが監督した、第二次大戦中のオランダを舞台にしたレジスタンス映画。
『女王陛下の戦士』はルトガー・ハウアー演じるオランダ人が主人公でしたが、こちらはユダヤ人女性が主人公なのが最大の特徴です。『女王陛下の戦士』の時に調査したものの、使わなかったエピソードや資料を基に製作したそうです。
ハリウッド時代に培ったテンポの良さと、初期作品にみられたヨーロッパ的教養――という名のヨーロッパ社会や歴史の恥部への批判精神が、堂々としたストーリーテリングで語られる傑作です。『娼婦ケティ』や『ショーガール』におけるマイノリティ女性のビルドゥングスロマンや、『ロボコップ』や『トータルリコール』のアクション演出、『氷の微笑』のサスペンス演出と、これまでの監督人生が全て活かされています。多くの人がヴァーホーベンの最高傑作と評するのも頷けます。
おまけに、ハリウッド時代は封印していたうんこ描写をも解禁です。フィルモグラフィー最大のうんこ描写と「オランダ人の偽善」がシンクロするクライマックスには皆唖然とするはず。

  • レイプ×
  • ゲロ○
  • ウンコ◎
  • おっぱい○
  • ちんこ○
  • 売春○
  • 人体破壊○
  • 殺人○
  • 差別◎
  • 同性愛△
  • 反キリスト△

15、2012年『ポール・ヴァーホーベン/トリック』

母国オランダで渾身作を実現し、すっかり創作意欲も衰えたかと思われたヴァーホーベン先生。ですが、「クラウドソーシング」という集合知を得た先生は再び動き出します。
まず冒頭5分の脚本を用意して公開し、次の5分分の脚本を一般公募する。監督やプロデューサーが選んだ5分を公開し、また次の5分を公募する……こういった作業を何度も繰り返し、出来上がった脚本を元に映画を撮ったのです。
さぞかし観客の趣味嗜好に合致した作品が生まれるかと思いきや、いきなりおっぱいを曝け出すヒロイン、性欲と金銭欲で動く登場人物、ゲロや不倫描写でぐいぐいと引き付けられるストーリーテリング等々……、出来上がったのはどこからどうみてもヴァーホーベン印の映画でした。
人間を信用しない映画ばかりかけるヒューマントラストシネマとシネリーブル梅田で行なわれたプチ映画祭「未体験ゾーンの映画たち」のみで公開されましたが、早晩DVD化されると思います。

  • レイプ×
  • ゲロ×
  • ウンコ×
  • おっぱい○
  • ちんこ×
  • 売春○
  • 人体破壊×
  • 殺人×
  • 差別×
  • 同性愛△
  • 反キリスト×


……というわけで、ヴァーホーベン作品はどれも最高です。ニール・ブロムカンプに入れ込んでいるような若人は今すぐTSUTAYAAmazonへGOだ!
ただ、回転率が悪いのか、小規模なTSUTAYAだと『ショーガール』や『トータルリコール』といった作品はどんどん無くなっています。レンタルで済まそうと考えている人は急いだ方が良いよ!


DVDを購入してしまう場合は、他の有名監督と同じく、ヴァーホーベンは作品よりも本人が100倍面白いので、画質よりもコメンタリーがついているかどうかを重視した方が楽しめます。『ショーガール』のコメンタリー付ブルーレイ発売されないかなあ。あ、勿論地方のブックオフのワゴンなんかで未DVD化作品のVHSソフトをみかけた場合は即保護して下さい。


また、ヴァーホーベンに関する書籍は以下の二冊が有名です。
Paul Verhoeven
Rob Van Scheers Aletta Stevens
0571174795

こちらは最も初期に書かれた研究書。ペーパーバック版なので英語が母国語じゃないと厳しい*5のですが、
Paul Verhoeven
Douglas Keesey
3822830984

こちらはムック形式で写真も多く、英語が不得意でも楽しめます。

*1:ルトガー・ハウアーがまったく大学生にみえないところが笑えます

*2:ゲイにレイプされた奴は死んだわけではないけど

*3:ちなみにもう1本は『マンディンゴ』です

*4:しかも部隊のワッペン!

*5:自分も全部は読んでいません