人生で大切なことはすべてレゴで学んだ:『LEGOムービー』

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LEGOムービー』鑑賞。大人になってもレゴを買い続け、子供に触るなと言い続けているおっさんである自分にとっては『トイストーリー2』や『3』以上に痛くて最高な映画だった。傑作や。


なにが凄いって、大きく分けて二つの凄さがある。
まずビジュアルが凄い。
これまでにもレゴを題材としたCGムービー作品は多数発表されていたのだが、必ずしも出来栄えが良いとは言い切れない作品ばかりだったわけですよ。

確かにレゴフィギュアみたいなキャラクターは出ているが、乗り物や建物が全てレゴでできている――と解釈されたCGでできているわけではない。
その乗り物や建物に使われているブロックも、手元にある玩具としてのレゴに使われていない「都合のいい」ブロックが使われている。
そもそもそのフィギュアみたいなキャラクターは演技をするためにありえない方向に関節が曲がり、手や脚や胴体はゴムのように歪む。
水や砂や火や煙といった自然物は、当然、それに類するCG表現である。
そんなものばかり――CG映像を安く作るために、都合のいい(使い回しできる)表現で作られた映像作品だったわけだ。当然、お話――脚本の質も褒められた出来ではないものばかりだった。悪い言い方をすれば、本当の意味で子供騙しな作品で、そして映像作品として評価を受けるわけでもなく、大ヒットすることもなく、その子供すら騙せなかったわけだ。
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これが『LEGOムービー』ではえらいことになっているわけだ。

トイストーリー』があくまでも現実に存在するおもちゃが自らの意思で動き話すさまをCGというツールで描いていたように、本作は現実に存在するレゴのミニフィグが動き話すさまをCGで描いている。
街も乗り物も自然物も、世界全部がレゴブロックで出来ている――勿論CGで描かれているわけだが、そういった心構えで描かれている。アップになればブロック表面の凹凸やパーティングラインやキズや破損*1や経年劣化*2がみてとれるし、CG映像内で被写界深度を浅くし、小さささえも表現している。ミニフィグの関節の曲がり方は必要最小限だし、架空のレゴブロックはどうしようもない時しか使われていないらしい。

そして、それらの動きはぎこちなく、まるで有志が作ったレゴのコマ撮り映像のようだ*3

更に、水や砂や火や煙(有名なソフトクリームパーツだ!)やレーザー光線(ライトセーバーの光刃パーツだ!)までもレゴブロックで表現している。大量のレゴブロックで表現された海が波打つさまは、思わず笑ってしまうほどだ。


たとえば
Victorian House made from Lego parts | Scene360
とか
These men built an epic Batman Batcave with 20,000 LEGO blocks | dotTech
とか
http://comicsalliance.com/xenomurphy-lego-arkham-asylum/
とかいったような、壮大で秀逸なレゴ作品を目にすると「まさかレゴでこんなもの作るなんて!」と興奮してしまうわけだが、同種の視覚的興奮が『LEGOムービー』にはある。CGアニメ映画で、CGで作られていること前提で観ているのに、だ。これは凄いことだ。



次に、お話が凄い。
本作の監督、フィル・ロードとクリス・ミラーの二人の監督作には幾つか特徴がある。「サブカルチャーへの言及を含めたギャグによって語られるコメディ」「クライマックスで回収される大量の伏線」などが挙げられるが、一番目を惹かれるのがテーマの設定だ。


彼らの監督作では常に「たいしたことのない人間としての自分が、どう生きていくか」というのが最大のテーマになっている。
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たとえば『くもりときどきミートボール』はギーク*4としての自分がどう生きるかがテーマだった。
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たとえば『21ジャンプストリート』は、高校の頃イケてなかった自分、あるいはイケていたけど全く幸せではなかった自分、そういったものにどう決着をつけるか、という話だった。


LEGOムービー』の主人公エメットは黄色いスマイルプリント(似)の頭部を持つ工事現場の作業員だ。

黄色いスマイルヘッド(あるいはニッコリ顔)はレゴ社が最も初期から生産している頭部パーツ*5であり、最も数が多い。また、工事現場の作業員は、細かいバリエーションを抜きにすれば、警察官やストームトルーパーと並んで、生産数が多いミニフィグの一種である。
本作には、レゴを接着して「作品」にしようとする「お仕事大王」に対して、自由に作ることこそ真のクリエイティビティと考える「マスタービルダー」達が立ち向かうという構図がある。マスタービルダーたちは「上におわす方」と交信してオリジナルのレゴ作品を作ることができる*6。お笑いキャラとして描かれるユニキャットや80年代宇宙飛行士ベニーでさえしっかり「作品」を作れるのに対し、主人公エメットはマニュアルが無いと何にも作れないんだよね。
つまり、どこにでもいるミニフィグで、何のクリエイティビティも無い――そんな男がどう生きていくのか、が本作のテーマなのだ。
重い。こういう重いアイデンティティ問題を実写でやったら、アレクサンダー・ペイン以上に重すぎる映画になるだろう。でも、レゴでならやれる――というのが監督のねらいなのではなかろうか。



以下ネタバレだけど、なるべくネタバレにならないように書くよ。


そんなわけで、マニュアル通りにしかレゴを作れないエメットが、それを逆手にとってお仕事大王のビルに侵入するミッションを指揮するというシニカルさには感動するし、その後覚醒して自分のレゴ作品を作れるようになる展開にはもっと感動するのだけれど、最後に明かされるこのLEGOムービー世界の真相には何百倍も感動してしまう。どおりでハンソロ船長とバットマンニンジャ・タートルズが共演したり、レゴの中に絆創膏やらカッターやらが混じっていたわけだ。


なんで何百倍も感動してしまうのかというと、ここには我々がレゴで遊ぶ理由、遊ばなければならない理由が描かれているからだと思うんだよね。
昔、日本には盆石遊びとか箱庭遊びとかいわれるものがあったわけだ。盆の上に石や草木、焼き物や木彫で出来た人形を置き、「世界を作る」遊びだ。これは現在でも心理療法の一種である箱庭療法に受け継がれている。
盆石遊びや箱庭遊びや箱庭療法には様々な流派や手法があるが、基本的には、自由に見守られながら表現することが重要であるといわれている。
その意味や効果は大きく三つに分けられると思う。
まず、言語を操ることが難しい者でも、箱庭で作り上げた風景やキャラクターを通して自己表現ができる。
次に、自分を相対化して知ることができる。自分で自分を知ることは難しいが、一度「箱庭」という形で外部化してしまえば、自分を知る手助けになる。
そして、箱庭を作りあげることで、より強固な「自分の世界」を作り上げることができる。ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士は幼い頃盆石遊びに親しんでおり、それが「自分の世界を作る」ことに役立ったという。


何故「自分の世界」を作り上げることが重要なのか。
現実世界は理不尽でアンフェアだ。一分一秒先に何が起こるのか分からない。これがグローバル化した結果とか資本主義社会の行き着く先とかいった問題ではなく、人間が人間として誕生した瞬間から存在した問題だ。
そんな現実世界に対抗するにはどうすれば良いのか。自分の中にもう一つの「世界」を作り上げるしかない。誰に何を言われても揺るがず、どんなことがあっても変質しないほど強固な「世界」だ。そんな「自分の世界」で現実世界に対抗していく――「自分の世界」と現実世界を絶えず比較し、すり合わせ、片方あるいは両方を自分の意思で少しずつ修正していく――それが人生というものではなかろうか。
そして、誰もが「自分の世界」を持っているのなら、各自の世界をぶつけ合ったり、共有したりすることもできる。それがコミュニケーションと呼ばれるものの本質だろう。
だからこそコミュニケーションというものは素晴らしいし、本作のラストも素晴らしい。レゴデュプロの世界が闖入してくるオチにも爆笑だ。


そういうわけで、子供にはおれの大事なレアものミニフィグを指一本触らせないぞ!

*1:宇宙シリーズのヘルメット割れは「あるある」ネタ

*2:通称「日焼け」

*3:カメラが引いて遠景になると簡素化されたレゴになる表現はコマ撮り映像作品で多用される一種のギャグ表現だ。

*4:ここでのギークは天才というよりも一芸に秀でた変人として意味合いが大きい

*5:正確にはマイナーチェンジしているが

*6:ブロックの管理番号が出てくるのが芸コマ