これぞスーパー童貞大戦:『童貞。をプロデュース』公開2周年記念オールナイト

数ヶ月前に観た「あんにょん由美香」が自分にとっての松江哲明初体験だったのだが、松江哲明の代表作といえば「童貞。をプロデュース」ということになるらしい。DVD化を今か今かと待っていたのだが、上映後にロビーで挨拶していた本人に直接聞いたところ、「DVD化は絶対にしません、というかできません!」とのこと。
そんな中、公開2周年記念オールナイトを池袋はシネマ・ロサでやるという。その筋では名作との誉れ高い同作をどうしても観たかったので行ってみた。オールナイト上映を観るなんて学生の時分以来だ。

童貞。をプロデュース

劇映画がとる基本的な物語構造として「主人公の成長を描く」というものがある。映画の序盤では子供だったり若者だったり未熟だったりする主人公が、長い旅に出たり軍隊に入ったり人を殺したり救ったりといった経験や選択や通過儀礼を通し、映画の終盤では見違えるほどに成長する、といったものだ。
で、「童貞。をプロデュース」第一部は童貞1号くんが「童貞喪失」を通して成長する話であった。勿論、これはドキュメンタリーなのであるが、こういう題材を選び、彼のような男を取材対象を選び、このように編集したのは松江哲明監督なので、このような物語として受け取って間違いないだろう。その意味では、まぁ、予想通りの映画であった。事前に「童貞の教室」を読んでいたからかもしれないな。
童貞の教室 (よりみちパン!セ)
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だが、第二部はもっと複雑だ。主人公である童貞2号くんは、居候先の叔母さん宅にデリヘルを呼び大目玉をくらったというエピソードの持ち主で、いわゆる素人童貞であるという。
童貞2号が本当に非童貞であるかどうか、真偽のほどは分からない。だが、1号と異なるタイプの、単に通過儀礼を先延ばしにしてきたというタイプの童貞でないのは確かだ。根元敬の直筆イラストをお宝として嬉しそうに紹介し、資源ゴミの日はアイドルグラビアを求めてゴミ漁り。部屋を古本やアイドル雑誌で埋め、休日はブックオフ巡り。クリスマスや正月休みもスクラップ用に黙々とグラビアページを切り取りつつ「グラビアページの綺麗な切り取り方」について陶等と説明し、ヤフオクで手に入れるグラビアページには愛を感じないと語る。そんな彼の姿に、趣味の対象や方向性は違えど、現在や過去の自分の姿を重ねる人も多いのではなかろうか。なんというか、第一部は肉体的な童貞を題材としているのに対し、第二部は精神的に童貞であるかどうかを主題としているような気がした。


童貞にとって女性というのは崇拝の対象であると同時に異者であり他者だ。だから童貞1号は「まさみさん」と仮名で呼び続けるし、童貞2号は「島田奈美」と「島田奈央子」を使いわける。それは現実ではなく脳内レベルで自らの欲望に折り合いをつけているからだ。だから、現実との対決を迫られる場面は、そのギャップに笑えると同時に、サスペンスフルでもある。二人でボートに乗って「○○?」と返されるシーンや、車内での○○シーンなんかはその最たるものだ。
他者を知るということは自らを知るということと同じであるわけで、そして全ての観客は童貞であり処女だったわけで、大笑いさせつつ観客を巻き込む力に満ちた映画だと思った。
特に第二部の、妄想の中のアイドルでもなく、現実における女子でもなく、第三の道を象徴する人物に着地するオチはなるほどなーと思った。童貞2号くんも表現者の端くれであるわけで、まさに童貞力いやさD.T.力こそがクリエイターとしての力の源だ。


そうそう、一部と二部の合間に、童貞1号が作詞作曲した渾身の名曲「穴奴隷」を銀杏BOYZ峯田和伸が情感タップリにカバーする映像が流れるのだが、これが実に象徴的だった。
峯田和伸が童貞であると考える人間はいないだろう。しかし、童貞臭いことは確かだ。そして、童貞マインドに溢れる表現者*1であることに万人が納得するだろう。峯田和伸が「穴奴隷」を歌う理由は、童貞を賛歌しつつ、童貞が童貞を捨て去ることを肯定しつつ、最早童貞でなくなった自分に涙する為だ。それはつまり、我々観客の心情と同じだと思うのだ。


DVD化できない理由というのもなんとなく分かった。
つまりさ、「精神」で宗田監督が取材対象にモザイクをかけないことで責任をとっているように、松江監督はDVD化しないことで責任をとってるんだよな。ただ、それとは別に、未DVD化という事実が、自宅では絶対に観ることができない映像を映画館で観るという、いわゆる「映画体験」に一役かっている気もした。ああいう結末を用意した映画をシネマ・ロサで観させるという監督の意図がイヤらしいというかニクい。丁度そこいら辺に○○○が座っていたんですよ!などと言われ、ドキリとしない観客がいるだろうか。いや、いまい。


今回のオールナイトはなんと4本立て。以下、その他の作品について簡単に感想を書く。

「ライク・ア・ローリング・ストーン」

先の映画の主人公である童貞2号くん監督による小編。
自分を客観視できなことが童貞の特徴であるのならば、彼は最早童貞でないのだろう。それでも童貞マインドすなわちD.T.マインドは失っていないことを確かに示す一本。そして、「童貞を。……」の後に鑑賞して、嗚呼良かったねとあの映画のあのオチは間違っていなかったねと胸を撫で下ろす一本。
上映の合間に童貞2号監督は松江哲明と共に登壇していたのだが、こういう場に慣れていないのか超緊張。カラテカの矢部みたいに時折股間に触れつつ挨拶する姿に、横に座っていた女性客は超爆笑していたのが面白かった。

「とにかく金がないTVとYOU」

やりすぎコージー」でお馴染み、童貞放送作家寺坂直毅が夏目ナナに閉じた心を解きほぐされる感動大作。


以下のURLでその存在は知っていたのだが、観るのは初めてだ。
2008-07-10


実際に観てみると、テロップにてツッコミが入る映像を観て更にYOUがツッコむという形式を含めて、まさにテレビ版「童貞を。プロデュース」といった感じ。特に、夏目ナナが最後にとる行動は「童貞を。……」第一部に激似。
ディレクターである岡宗秀吾も松江哲明と共に登壇したのだが、二人とも映画とテレビというメディアは違えども同じような題材を選び同じような結末に至ったことに驚いたそう。


岡宗秀吾のトークの中では「童貞を。……」第一部のラストが非常に映画的であること、夏目ナナはディレクターの指示でもなんでもなく自ら率先してあのような行動をとったらしく、AVに関わる人達というのは性の問題に対して相当な覚悟があるんだなと驚いたということ、二点が印象的だった。


そして、寺坂直毅も登壇。童貞1号2号が童貞を捨て去ったのに対し、イマヒガチルドレンでもある寺坂という男は未だに童貞であるそう。30を迎えて見事魔法使いにジョブチェンジした暁には、是非とも彼を主演に迎えて「童貞。をプロデュース3 リメンバー・マイ・ラブ」を撮るべきじゃなかろうか。


オマケというか、童貞編に続いて上映されたDVD特典は、普通に見れば流してしまって笑いのポイントに気づかないであろう沖縄の成人式に取材した映像を、「ダイナマイト関西二位の放送作家せきしろ*2との大喜利対決!」と銘打ち、一介の素人がお笑いのプロの発想をことごとく凌駕する(してるように見える)編集に仕立て上げていたのに心底驚いた。今後、シルベスター・スタローンの顔を見るたびにこの番組を思い出すに違いない。ていうか、DVD買おう。
とにかく金がないTVとYOU [DVD]
B001BLSERS

「ダンプねえちゃんとホルモン大王」

「ラッパー慕情」では主人公に「マンコってかわいいのかよ!」という名言を吐かせた藤原章の新作。……なのだが、睡魔に負けて途中で寝てしまった。もう私も若くないな。



以上、来年開催されるであろう公開3周年記念オールナイトにも、併映作次第では行ってみたくなる内容だった。

*1:みうらじゅん伊集院光が提唱するところのD.T.

*2:最近ではハリセンボン箕輪はるかの彼氏として有名