聖なる童貞伝説第終章-童貞王の帰還-:『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』

トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン [DVD]
B002WYJRPG
TF者にとって今世紀最大にして最後の祭り、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』を観てきたぜ!
いつもながらの童貞話に狂ったギャグキャラ、そして年齢指定が信じられない暴力ロボ描写……と、信頼のマイケル・ベイ先生の堅実な仕事ぶりが光っていた。いやー、お腹一杯で吐きそうなのだが、まだまだ喰い足りないという飢餓感も同時に感じる、ジャンクフードてんこ盛り映画だったよ。



実写映画版『トランスフォーマー』シリーズについて、脚本がなってないとか物語がないとかいう批判の声があるが、何をいってるんだと声を大にして言いたい。これはな、「親がそれなりに金持ち(=トランスフォーマーの玩具が買える)」という点以外には何の力も持っていないアメリカのボンクラ男子が、「主人公」という理由だけで宇宙からやってきた超強いロボットとマブダチになり、押しかけビッチ彼女とネンゴロになり、彼ら彼女らをちょっと助けることでヒーローになってしまうという、全ての童貞男子が一度は妄想したであろう黄金ストーリーなんだよ!
何故なら童貞にとって世界の主人公は「おれ」だから! おれが世界を救わなくてどうする? なんの才能も無いし、努力もしてないけど、おれには秘められた凄い力があるんだ! まだまだ本気だしてないだけ!……そういうわけで、最終作となる『ダークサイド・ムーン』もそんなイデオロギーじゃなかった願望が先走る、最高の映画だった。



以下、いつものようにネタバレだが、ネタバレしても楽しめるように書く。



一作目で童貞高校生、二作目で童貞大学生だったサムも遂に社会人。しかし、持ち前のボンクラさ故に卒業してもまだ就職先の決まってないプー太郎だ。でも、良いんだもんねー。だっておれは世界を二度も救ったから! オバマからメダルも貰ったから! オートボットからも特別扱いだし。だから、前のビッチ彼女にフラれてもすぐに新しい彼女できたし。本気出せばすぐ就職もできちゃうもんねー、と余裕こきまくり。「傍若無人なふるまい」を理由にミーガン・フォックスを降板させたクセに物語上は「フラれた」と処理する作り手のセンスが光る。「あの彼女は最悪だったよ」と言わせる『ベストキッド』と比較すれば、如何に作り手の童貞センスが高いかが良く分かる。悪者にみえるくらいだったら恥かくほうがマシと考えるこのセンス、まさに童貞! この童貞センスでサムは世界を救うのだ!!


そのような就職活動+下積み社会人シーンと平行して描かれるのが「俺達は、とんでもない勘違いをしていたようだ」「な、なんだってー!」「本当なのか、キバヤシじゃなかったプライム?」という、「ムー」ばりのトンデモ史観。
アポロ計画の真の目的は、月の裏側に落ちた宇宙人の船の調査だったんだよ!」というものなのだが、ケネディ大統領のそっくりさんやバズ・オルドリン本人を出演させてるクセに、『X-MENファーストクラス』に比べるとベイ先生の良い意味での薄っぺらさが光る。「我々の宇宙船ならすぐだ」といった次のシーンではもう月というフットワークの軽さもいい。こういうテンポの良さ、原作も同様だったよなぁ。


さて、今回のサムの敵はメガトロンでも、ショック・ウェーブ*1でも、驚きの○○○○○でも、狂ったCIAのエージェントを演じるジョン・タトゥーロでも無い。ビッチ彼女を誘惑する会計事務所の二代目社長――リア充がシリーズ通して初めて敵として登場するのだ! いや、これは良いね。童貞の敵は悪い宇宙人でもCIAでも無くリア充! これこそ真実。これまで登場しなかったのが不思議なくらいだ*2
しかも今回のサムは過去に二度も世界を救い、ただの童貞から魔法使いを通り越して童貞王子にクラスチェンジしているので、特別なスキルを身に付けている。そう、邪気眼というスキルだ。

中学の頃カッコいいと思って
怪我もして無いのに腕に包帯巻いて、突然腕を押さえて
「っぐわ!・・・くそ!・・・また暴れだしやがった・・・」とか言いながら息を荒げて
「奴等がまた近づいて来たみたいだな・・・」なんて言ってた
クラスメイトに「何してんの?」と聞かれると
「っふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・」
と言いながら人気の無いところに消えていく
テスト中、静まり返った教室の中で「うっ・・・こんな時にまで・・・しつこい奴等だ」
と言って教室飛び出した時のこと思い返すと死にたくなる

邪気眼とは - はてなキーワード


そんなわけで、劇中でサムがみせる「お、おれの腕がまた暴れだしやがった! 皆、離れろー! 大事なこと言っちゃダメー!」的ギャグ・シークエンスは最高に楽しかった。さすが童貞王子。


その他、前半ではジョン・マルコビッチ演じる副社長、ケン・チョン演じるハイテンションなアジア人二重スパイ、オールドミスな女教師キャラそのまんまの女長官、ロシアン・バーで飲んだくれる亡命宇宙飛行士、お馴染み元祖キチガイ・エージェント役ジョン・タトゥーロとその意外に頼れる部下とか、ベイ先生それランチタイムにギャハギャハ言いながら三秒で決めたんですよね級のキチガイキャラが盛りだくさん! 主人公の両親が霞んじゃうよ!!


だが、演じている役者はライバルのリア充パトリック・デンプシーを含めて皆一流で、なおかつベイ先生は前作前々作に引き続いて下ネタ・童貞・邪気眼コメディ演出に変な上手さをみせつけており、真っ当に面白かった。ベイ先生はアクション・シーンのパートだと伏線や必要なカットを入れ忘れるクセに、コメディ・パートだとそれがテンポの良さに見えるんだよね。執念深く細かい笑いの伏線や不謹慎ギャグも入れてくるのし。町山智浩が褒めているのも分かる。


で、後半は普通の映画4コ分くらいのアクション・シーンが続く。皆、長い長いと文句を言ってるのだが、これ見せ方の問題なんじゃないかと思うねぇ。
たとえば三池崇史の『十三人の刺客』なんか、アクション・シーンの長さは本作と同じくらいだと思うのだけど、全然長さを感じなかったじゃん。あれは、「吾郎を殺す」という最終目的を達成すべく皆が奮闘するという行動の流れの集約があったと思うのだけれども、『ダークサイド・ムーン』は「スペースブリッジのコントローラーを破壊する」という目的に対して誰がどのように貢献しようとしてるのか良く分からないんだよな。多分、劇中の人物たちも良く分かってないんだと思う。作戦とか無さそうだし。途中でSEALSと合流って、せっかく空から降下しても、河潜っていった方が犠牲少なかったってことじゃん!
なんかさー、「高層ビルが横倒れて隣のビルの乗っかっちゃう!」とか「3Dでビルの谷間を人間とロボットがエアチェイス!」とか「WWIIのドイツ軍が捕虜殺すみたいなところから危機一髪の脱出!」とか、観たいシーンをそのまま並べましたーって感じなんだよね。いや、観たいシーン繋げるのは良いと思うよ、それこそが映画だし。でも、もうちょっと上手く繋げて騙してくれよと。童貞なりの賢さをみせてくれよと。少なくとも、1:ディセプティコンの艦隊が月からシカゴに降下するシーン、2:プライムがコンテナを回収するシーン、3:バンブルビー達が捕虜として捉えられるシーンの3つだけは絶対画としてみせる必要あっただろうと思う。本当は3時間越えのディレクターズ・カット版とかあるんだろうなぁ。ビルの中で延々シェィクされるシーンとかもっと短くて良いよ!


ただ、個別のアクション・シーンに関しては満足だ。まず、全年齢対象なクセにディセプティコンに撃たれた人体が爆発四散するシーンをしっかり入れているのが良い。殺されたロボットは人間以上の残酷さで死に至り、ラストなぞ命乞いする敵を正義の味方が射殺するという非情さ。おまけに、あまりに早すぎて何がどうなってるんだか分からないと評判の悪かったアクション・シーンは、必ずスローモーションを入れることで動体視力の衰えたおっさん・おばさんにも分かり易く! さすがベイはできる子やで!


トランスフォーマーリベンジ トランスフォーマームービー RA-09 オートボットウィーリー
B001ULCIE4
前作にも増してトランスフォーマー達のキャラクター描写が濃くなったのも良い。亡国の王みたいにカッコ良く登場したメガトロンはビッチ女の一言に騙されるし、ホィーリーとブレインズに加えてレッカーズ達はまさかの下品さだ。やっぱり、まるで人間のようなロボット達が軽口を叩いたり下品なジョークを飛ばしたりするところが「トランスフォーマー」の魅力なんだよな。レッカーズとかブレインズとか玩具売れそうだなぁ……と思ったら、まだ売ってないでやんの。



そんなわけで、最終作となる三作目も面白かった。噂によると監督・主演を変えて四作目も計画中らしいが、現用兵器とトランスフォーマーの独特な入り混じり具合と、ベイ印の下ネタ&残酷描写がみられるのはこれが最後なのだろう。こんな頭の悪そうな映画を(見た目と雰囲気だけは)一流に仕立て上げたベイ先生の健闘を称えたい。先生の演出でダイノボットやアニマトロンの大暴れが観れなかったことだけが残念だ。

*1:噛ませ犬だった……

*2:一作目のジョックス達は早々に退場してしまったし