童貞女優 芳賀優里亜:『赤×ピンク』

『赤×ピンク』観賞。特撮監督による女同士のアクション映画と思って映画館に行ったら、なんと童貞LGBTの恋愛を『格闘(たたかい)=セックス』として描く、異形の成長物語だった。
……何を言っているのかわからねーと思うので、順を追って説明したい。


2009年にスタントマン出身の坂本浩一監督が帰国して以来、日本特撮のアクションが充実したことは本ブログをお読みの皆さんなら既にご存知のことと思う。まるで香港映画のように格闘シーンをこなすウルトラ兄弟、変身前に素面でハイキックをこなし、ダンボールの山につっこむ戦隊やライダー俳優、そしててらてらと艶かしく輝く女優の太もも……毎週愛聴している『仮面ラジレンジャー』にて「ふともも浩一」という仇名をつけられたのには爆笑したが、彼が日本特撮の格闘アクションを底上げしたことは間違いない。
更に、坂本浩一は本編監督も兼任するに連れて、「健全なエロさ」みたいなものも確実に底上げした。巨大化したフジ隊員や、神戸港の水でてらてらと輝くウルトラセブンや、『ライブマン』のロボ娘コロンに性の目覚めを感じた人がいるという話は有名だが、おそらく坂本浩一のおかげで性に目覚めた幼児がいるであろうことは間違いない。正しい仕事だ。ちなみに自分の目覚めは磔刑になったデンジピンクだった。


そんな稀代のアクション監督に、ライダーも戦隊も登場しない――既存の狭いジャンルに収まらないアクション映画を撮って欲しい、もしくは撮らせたい……と考えるオタクやプロデューサーは沢山いるわけで、多分そういう意図で撮られたのが『トラベラーズ 次元警察』であり『009ノ1 THE END OF THE BEGINNING』である。
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だが、正直なところを書くと、こういった作品は映画として完成度の高いものでは無かったんだよね。最近の日本映画はテレビ局が数億円かけて全国シネコンにかける大作映画と、数百万から数千万円かけて作る単館系映画に二極化してるというけれど、坂本監督が作る映画はどちらかといえば後者の部類に入る。そういった映画で異世界を舞台にしたSFなりファンタジーなりをやると、どうしても画作りのチープさが目だってしまう。ライダーや戦隊の場合は歴史――という名前の様式美と見立ての文化*1が共有されているので気にならなかったものが、一般作では気になってしまうのだな。一時期の雨宮慶太作品と同じ問題だ。
坂本監督入魂のアクションシーンは見ごたえがあったし、どの演者も格好良かったしエロかった。でも全体的にみると、特撮やグラビアでみかけた俳優が、特撮っぽいアクションをこなす、チープなB級映画という評価しかできないものになってしまう。配給会社もそのことを理解していて、それなりの規模での公開だった*2


で、ようやっと『赤×ピンク』の話になるのだが、上記した問題が気にならないものだった。それぞれの境遇を吐露しあうシーンの長さが面倒くさいと思うものの、最後には満足した気分で映画館を出られる映画だったよ。
六本木のとある場所にある廃校を舞台に、夜な夜な少女たちによるキャットファイトが繰り広げられているという設定なのだが、坂本監督にとって、非特撮でSFでもファンタジーでもない作品って、帰国後はこれが初めてなのではなかろうか。
勿論、廃校を舞台にしたロケーションが豪華というわけでは決してない。地下闘技場も、意外に観客の人数が少ないし、準備期間や撮影日数の問題からか、格闘シーンで説得力のある身体が出来上がっているわけでもない*3
でも、この映画に関しては、チープさが魅力になっていると思う。
何故なら本作は青春映画だからだ。


それまで狭い世界しか知らなかったボンクラが、恋を知り、己を知り、世界の広さを知り、ちょこっとだけ成長する映画――青春映画というのが存在する。
主人公が「少年」や「青年」や「子供」であるそれはハリウッド創世記から伝統的に存在した。ここでいいたいのは、主人公が「ボンクラ」である、新しいタイプの青春映画だ。アメリカなら『40男のバージンロード』や『スーパーバッド 童貞ウォーズ』といったいわゆるブロマンス映画、日本なら『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『箱入り息子の恋』といった、新しいタイプの青春映画がそれに該当するだろう*4
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ブロマンス映画にある種のスタンダードが存在するように、日本の新しいタイプの青春映画にも幾つかの定型というか共通項が存在する。例えば、主人公はこれまで女性と付き合った経験が(ほとんど)ない童貞である。たとえば、ヒロインは聾唖だったり盲目だったりと、何がしかのマイノリティである。たとえば、ボンクラ童貞というマイノリティである主人公とヒロインはマイノリティ故に惹かれあう。たとえば、クライマックスは肉体と肉体とがぶつかり合うアクションになる……


『赤×ピンク』は、女優が主人公を演じて、女優どうしの濡れ場もありながら、実質的にはこの「新しいタイプの青春映画」だ。
もっというと、「性同一性障害」なんてあらすじには書いてあるけれども、実質的に芳賀優里亜は童貞なのだ。
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もうね、この芳賀優里亜の童貞演技がすごいんだよ。女の裸をみると童貞のようにドギマギする。下着は可愛らしいランジェリーではなく灰色のボクサーブリーフ。中二病ど真ん中のような白ランで格闘アクションをこなす。
それだけではない。童貞といえばオナニーだが、『ブラック・スワン』のようないかにも処女というこすりつけオナニーではなく、ブリーフの中に手をつっこんでのオナニーだ。巻き込まれる形でヒロインのピンチを助け、さっきまで強気だった震えるヒロインの手を握り、恥ずかしがりながらも「やりたかったこと全部やっちゃうからな!」強がりつつ童貞を捨てる。
しかもヒロインはDVを受けている人妻*5で、クライマックスは夫にマインドコントロールされたヒロインとの対決となる。さっきセックスしたヒロインとキャットファイト団体や自身の未来の存亡をかけて試合するのだ。
ここでさきほどのオナニーシーンやセックスシーンが存分に活きることとなる。二人で世界を作るという意味で、セックスと格闘は同じなのだ。これまで様々な物語で使われた「おれの女になれ!」という台詞が、女優同士の間で交わされるだけで、こんなにゾクゾクくるとは思わなかった。まさかこんな『刃牙』みたいな『格闘(たたかい)=セックス』を真顔でやりぬく展開になるとは。愛情表現の手段として、男と女の間にガチのセックスはあっても、ガチの格闘はありえない。これは『ボーイズ・オン・ザ・ラン』でも『箱入り息子の恋』でもあり得なかったゾクゾクだ。
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もっといえば、原作は少女を主人公とした物語であったのが、映画は少年というか童貞が主人公の物語となっているんだよね。童貞アクション監督である坂本浩一が監督する限り、実に正しいやり方だ。
更に、坂本監督は乳首も陰毛もがっちりみえるヌードシーンかつ濡れ場シーンに馴れていないせいか、セックスシーンがそんなにエロくない。むしろアクションシーンの方が全然エロい。せっかくの芳賀優里亜多田あさみなので勿体ないけれど、これも正しい。
坂本監督はいつも正しい仕事をする――そんなことを思い知った映画だった。

*1:ピアノ線はみえないことになっている、というあれだ

*2:ちなみにちなみにライダーや戦隊系映画は単館系の予算で作って全国のシネコンにかけるので、東映は笑いがとまらないらしい

*3:水崎綾女を除く

*4:ボーイズ・オン・ザ・ラン』は原作の方が完成度高かったが

*5:演じる多田あさみの人妻感がまたすごい