おれの映画ゼロ年代ベストテン
id:washburn1975さんが毎年やられている映画ベストテン企画に今年も参加することにした。
ちなみに、昨年参加した「邦画オールタイムベストテン」は以下の通り。
邦画オールタイムベストテン - 冒険野郎マクガイヤー@はてな
今年のお題は「映画ゼロ年代ベストテン」だという。
正直、悩む。この10年というのは自分にとって、やっと自分なりの映画の見方ができるようになってきた10年だからだ。しかも、お題は「ゼロ年代」。ポストセカイ系で、決断主義で、バトルロワイアルで、ゲーム的リアリズムなゼロ年代だ!
「好きな映画じゃないけどゼロ年代を語る上でこれは外せない」など、不純なことは考えない方が楽しく選べます。
映画ゼロ年代ベストテン - 男の魂に火をつけろ!
とwashさんは書いているけれども、どうしてもオールタイムベストテンとは違う選び方をしてしまう。
このマンガがすごい! 2010
このマンガがすごい!編集部
もう一つ。先日「このマンガがすごい2010」の結果が発表されたのだけれど、今更『ONE PIECE』が二位ってどうなん?今更『鋼の錬金術師』ってどうなん?とか思うんだよね。
http://news4vip.livedoor.biz/archives/51424813.html
確かに今年の『ONE PIECE』は盛り上がったし、遂に完結しそうな『ハガレン』にも要注目だけれども、わざわざ「このマンガがすごい」で採り上げなくても売れるだろ、なんて思ってしまうのだ。
そんな観点に基づいて、私が選んだ映画ゼロ年代ベストテンは下記の通り。
- 遭難フリーター(2009年、監督:岩淵弘樹)
- それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ(2006年、監督:矢野博之)
- スピード・レーサー(2008年、監督:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー)
- ミリオンダラー・ベイビー(2004年、監督:クリント・イーストウッド)
- イントゥ・ザ・ワイルド(2008年、監督:ショーン・ペン)
- 大日本人(2007年、監督:松本人志)
- アポカリプト(2006年、監督:メル・ギブソン)
- Mr.インクレディブル(2004年、監督、ブラッド・バード)
- チェイサー(2009年、監督、ナ・ホンジン)
- 犬と猫と人間と(2009年、監督:飯田基晴監督)
以下、選んだ理由について10位から簡単にコメントしたい。
10位、『犬と猫と人間と』
感想を書き忘れていたので、ちと長めに。
ゼロ年代、映画にとって何が良かったかというとシネコンがあちこちに建って、日本の映画産業が成長したことだ。その結果、つまんない邦画が興行ランキングの上位を賑わすようになったけれども、確実に裾野は広がって、80〜90年代だったら製作すらされなかったような地味だけど興味深い低予算劇映画やドキュメンタリーが、単館ながらも、公開されるようになった。
『犬と猫と人間と』もそんな作品の一本だ。
この映画は、それまで禁忌だった保健所や行政施設に入り込み、明日にも殺処分されるであろう犬猫をスクリーンに映し出す。動物愛護団体による猫の避妊手術の現場に入り込む。その手術の最中、運悪く妊娠していた牝猫の胎から胎児を引っ張り出す姿をカメラに収める。
興味深いのは、そういったショッキングなシーンばかりではない。「崖っぷち犬」を引き取ろうと押しかける人々。外人に「日本の犬だけには生まれ変わりたくない」と言わせる「犬捨て山」新しい飼い主を得る名目で、多種多様な躾を受ける白犬「しろえもん」。それら犬猫の姿に、様々な想いを抱いてしまう。
そうした犬猫の姿を通して間接的に描かれるのは、やはり我々人間だ。そう、彼ら犬猫は、人間の、日本の、現在の、社会の鏡なのだ。単に犬猫を簡単に捨てるな!というだけでなく、特に様々な躾を受けて変質していく「しろえもん」の姿には、躾とかパノプティコンとか規律訓練型権力とか、ゼロ年代的な問題意識を感じてしまう。
その一方、皆で捨て犬の面倒をみる小学生や、「犬捨て山」の雑務を引き受ける大学生サークルなども描かれる。彼らは次世代の希望なのか。それとも、単に大人たちの尻拭いをしている子供たちなのか。
ただ、この映画、ドキュメンタリーとしての語り口に面白みが欠けるんだよね。比較でいうと、想田和弘ほどストイックでなく、松江哲明ほど情感を入れ込まない、という感じか。そこが不満だったので10位にしてみた。
9位、『チェイサー』
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どうしても一本は韓国映画を入れたかったのだが、「グエムル」や「母なる証明」よりも、自分が受けた衝撃の大きさからこれを選んでしまった。
「変態人殺しも一般市民なおれ達も、実はあんまり変わらないんだぜ」という永遠不滅なテーマを、息詰まるテンポと完璧な編集と新しい表現手法で描いた一本。娼婦も、その元締めも、警察も、殺人者に嘲笑される。最初の惨殺シーンでひでーと感じたら、その後の警察のグダグダさに数倍ひでーと感じる。本作や「母なる証明」が大ヒットする韓国のリテラシーは高いと言わざるをえない。このような映画が日本で作られる日が、果たして来るのだろうか?
詳細な感想:喰って生きるということ:「チェイサー」 - 冒険野郎マクガイヤー@はてな
8位、『Mr.インクレディブル』
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ジョン・ラセター
『ウォッチメン』的問題意識に対し、『ダークナイト』的解決策を、『ダークナイト』の4年前に提示していた映画。また、我々の好きな、屈折したキャラクターが大活躍するダークなピクサーが帰ってきたという意味でも嬉しい一本。
7位、『アポカリプト』
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メル・ギブソンがマヤ文明にかこつけて自身のマゾ意識を満足させる時、一大傑作アクション映画が誕生し、ついでに妄想の前近代文明がゼロ年代の格差社会を照射する。そんな一本。死体とか病人とかレイプとか非道な要素の使い方が、実に気が利いている。
本作の映画的魅力は、劣化コピーである『紀元前一万年』と比較して貰えれば一目瞭然だろう。やっぱり映画には身を切るような、観客に痛みを体感させるような、残酷アクションが必要なのだ。
詳細な感想:冒険野郎マクガイヤーの人生思うが侭ブログ版:アポカリプト・ナウ
6位、『大日本人』
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その昔、松本人志は「オリジナルなものを作らなきゃ、生きていても意味無いやん!」とラジオで叫んでいた。この映画にあるのは、松本人志という男からみた世界、まさしくオリジナルである。しかもその世界が、誰もが出た杭を打ち、脚を引っ張り合い、本音を隠しあうという意味で、まさにゼロ年代的。
詳細な感想:冒険野郎マクガイヤーの人生思うが侭ブログ版:ウルトラ・スーパー・デラックス大日本人
5位、『イントゥ・ザ・ワイルド』
イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]
金持ちの坊ちゃんが通過儀礼と自分探しの中間みたいなアメリカ放浪の旅に出て死んじゃう、というお話を、アメリカの雄大な大自然と共に描いた映画。だが、我々のほとんどはある意味金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんなので、どうしても抵抗できない一本。現実とは何か?世界とは何か?都市生活者は都市という名の妄想世界に生きているとすれば、大自然こそが現実ではないのか?そういうことを真剣に考えてしまう若者ならば、至極の一本となろう。
詳細な感想:冒険野郎マクガイヤーの人生思うが侭ブログ版:イントゥ・ザ・ワイルド・ワイルド・ウエスト
4位、『ミリオンダラー・ベイビー』
ミリオンダラー・ベイビー [DVD]
F・X・トゥール
確かに『グラン・トリノ』は傑作だ。『チェンジリング』も『硫黄島二部作』もただならぬ映画だよ。でも、私は老人じゃない。母でもなければ、従軍経験があるわけでもない。
そんな自分にとっては、三十路の人間が「私にはもうこれしかない」と言いながら何かに打ち込む姿が、実に切実に映るのだな。老人や母や軍人の問題は他人事に思えるのだが、これは他人事と思えない。主人公の焦りが、痛みが、絶望が、本当に自分のもののように感じられた。イーストウッドのマゾ的演出や光と影を上手く生かしたカメラの上手さも相まって、三十路の心にクリティカルヒットする一本。
若干詳細な感想:冒険野郎マクガイヤーの人生思うが侭ブログ版:今年の夏映画は面白い
3位、『スピード・レーサー』
スピード・レーサー [DVD]
ウォシャウスキー兄弟
本作において、主人公のスピードの本当の敵はロイヤルトン社長ではない。ロイヤルトン社長は単なるシンボルに過ぎない。スピードが対峙する敵、それはシステムであり、社会全体だ。家族を捨て、恋人を捨て、チームを捨て、あらゆる中間共同体を捨てて、剥き出しの個人が世界に対峙する時、青年は大人になる。
そういう、実にゼロ年代的、21世紀的、村上春樹的問題意識+成長物語を、「ひみつ兵器を内蔵したチキチキマシン同士の猛レース」という最高に幼稚な手法で映像化した映画。だが、その幼稚さ故に、自分はこの映画を愛する。
2位、『それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ』
それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ [DVD]
やなせたかし
生きるとは何か。かつて人は国や会社や家族や地域社会の為に生きていた。しかしゼロ年代、国や会社や家族や地域社会は崩壊した。我々は何の為に生きればいいのか?生きるとはどういうことだろうか?
フィリップ・K・ディック手塚治虫や石森章太郎が、アンドロイドやロボットといったメタファーを使って語ってきた普遍的テーマが、「アンパンマン」というフィールドにおいて、大人にも幼児にも理解できる形で語り直される、しかも50分という驚くべき短かさで。深すぎるテーマに感動した後は、一片の無駄も無い構成や演出に感動する。絶対に観るべき一本。
詳細な感想:冒険野郎マクガイヤーの人生思うが侭ブログ版:我々はアンパンマンを侮っていた
1位、『遭難フリーター』
ゼロ年代とは、剥き出しの個人が世界と向き合わねばならない時代だった。国や会社や家族や地域社会といった中間共同体が崩壊し、「自己責任」「努力不足」「負け組」等々のタームが流行した。
そんな時代を、社会を、我々はどうやって生きていけば良いのか。派遣社員として働く工場の休憩室にカメラを持ち込み、正社員となった友人に取材し、名も無き派遣労働者としての自分を取材するNHKのディレクターに逆取材する主人公の姿は、一つの回答であると思う。なによりも、この映画製作と発表を通じて自らの境遇を変えた監督の姿こそがその証拠ではなかろうか。
未だにDVD化の目処が立ってないらしいのが残念。
詳細な感想:奴隷の青春:「遭難フリーター」 - 冒険野郎マクガイヤー@はてな
書籍も出している↓
遭難フリーター
真鍋 昌平
というわけで、なるべく他のはてなダイアラーが選ばなさそうな映画、という観点で選んでみたら、id:tsumiyamaさんがしっかり「いのちの星のドーリィ」選出していて驚いたりもした。流石一流ブロガー。
「俺の邪悪なメモ」跡地