神と人間とウルトラマン:『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』

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『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』観に行ったのだが、それなりに良かった。
事前にウルトラマンキングの声を小泉純一郎がアてることがアナウンスされ、それは単に有名人が声優を務める以上の問題があるんじゃないかというエントリを書いたりしたのだが、私が考える問題は依然として存在するものの、それはそれとして良かった。


小泉ウルトラマンキング問題について - 冒険野郎マクガイヤー@はてな

拝啓、内山まもる

本作の一番の特徴は、内山まもるの「ザ・ウルトラマン」世界をきちんと映像化した、その世界観だと思うんだよね。
ザ・ウルトラマン 1 (アクションコミックス)
内山 まもる
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初期ウルトラシリーズにおいて、ウルトラ一族はある種の神であった。ウルトラ一族は人間のように思い悩まない。ウルトラ一族は人間が抱えているような政治的・社会的問題を持たない。勿論、人間体においてはそれなりに思い悩んだりもするが、一旦変身すればその心中を容易に伺い知ることはできない。滅多に人間の言葉で喋ることもない。何故なら、人間に神の心を伺い知ることはできないし、神は滅多に人間の言葉で喋らないから。つまり、「巨人」や「超能力」といったフィジカル面での神性に加えて、メンタル面にも神性があった。


決戦!ウルトラ兄弟
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ところが、内山まもる居村眞二が漫画で描くウルトラ一族は違った。ウルトラマンは大いに思い悩む。迫り来る脅威に怖れおののき、仇敵を倒した勝利に喜ぶ。ゾフィーや父はは頼れるリーダー、エースは陽気、レオやタロウは若者といった性格づけもなされた。


そのような人間的描写は、人間が全く登場しない漫画であるという必然的理由があったのだが、当時コロコロやてれびくんや学年氏の現役読者であった我々は、単純に面白かった。テレビで観られないウルトラマンの一面に触れたような気がしたのだ。


特撮と怪獣―わが造形美術
滝沢 一穂
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かつて成田亨は「(ウルトラマンが)金儲けをたくらむ地球人の為に 角をつけたり 髭をつけたり 乳房を出したりしてはいけない スーツを着たり 和服を着たり 星空に向かってラーメンをかゝげてはいけない」という詩を書いた。しかし、成田亨の深い想いなど理解できないクソ餓鬼にとっては、星空に向かってラーメンをかかげるようなウルトラマンに漫画の中で触れられることが喜びだったのだ。


で、時代は下り、テレビのウルトラマンにも人間臭さがにじみ出るようになる。それも、タロウを胴上げしたりエースをビンタしたりというような分かりやすい人間臭さではなく、人間の言葉で思い悩むといった点においてだ。
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最初の明確なターニングポイントは『ウルトラマンティガ』第28話『うたかたの・・・』であると思う。あの回では人間社会の理想と現実について、人間の言葉で思い悩むウルトラマンの姿が描かれていた。
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次のターニングポイントはやはり『ウルトラマンメビウス』、それも『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』だ。冒頭から人間の言葉で喋りまくるウルトラ4兄弟。しっかり性格づけされたジャックとエース。これでもかと思い悩むメビウス。とどめに「ウルトラマンは神ではない」の台詞。これぞ『ティガ』で生まれた「人間ウルトラマン」の文脈が、内山まもるの「ザ・ウルトラマン」というフォーマットに出会い、幸福に映像化された瞬間なのではなかろうか。その後、テレビの『メビウス』に客演したウルトラ兄弟も話が進むに連れて同様の描写をされていた。


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そしていよいよ本作『ウルトラ銀河伝説』だ。最早人間は脇役に過ぎない。ウルトラマンの社会が、政治が、生活が、ウルトラマンの視点で語られるのだ。神の国にも神の国なりの論理があり、問題があり、衝突があり、テロリズムがある。神の国の物語が、劇場を出た観客の世界を照射する。これを、内山まもるウルトラ世界の映像化、それも現在的な意味においての幸福な映像化と呼ばずになんと呼ぼう。
著作権は持ってないけど内山まもるにちっとは金を払った方が良いんじゃないか、などと思っていたら、光の国の住人役としてしっかり出演していたという事実に驚いた。こういうレスペクト精神は素直に良し。そういや、本作のプレエピソードたる『ゴーストリバース』に登場するメカザムというゲストキャラクターにはアンドロメロスの匂いが濃厚にすするのだが、意図的だったのかもしれん。
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ウルトラ怪獣シリーズ2009MOVIE ウルトラマンベリアル
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ただ、やはり残念なのはベリアルのキャラクターだ。なんか、ベリアルが他のウルトラ一族を憎む理由が全然分からないんだよな。
いや、良いよ。単なる勧善懲悪でも。でも、ウルトラシリーズって単なる勧善懲悪じゃなかったところが、何十年も生き残ってる理由なんじゃないのか。
つまり、文芸的に問題があるということなのだけれど、ウルトラマンを人間として描くのならば、ベリアルが悪役である理由をちっとは描くべきなんじゃなかろうか。これは、子供向けだから疎かにして良いという話ではない。ピクサーはちゃんとそうしてるし、この前のプリキュア映画版もちゃんとやっていたし*1、初期ウルトラマンも(回によっては)ちゃんとやっていた。
そうしないと、単なる薄っぺらい夢物語になってしまうんだよね。たとえば今回、主人公の一人であるレイやゼロにもベリアルと同じ要素があるのだけれども、仲間や家族によって救われるという描写がある。じゃ、ベリアルがこうなってしまった理由は、単にベリアルに仲間や家族がいなかった運の悪さってことになってしまわないかね?


背景、ティー・ワイ・オー

一方、文芸面ではなく映画技術的な面からみてみると、これまでのウルトラシリーズでは観ることのできなかった映像世界を創り上げたというのが、素直に素晴らしいと思うんだよね。

日本人ってインハウスで作るものではミラクルを成し遂げるんですよ。たとえば漫画にしろ、アニメにしろ、ゲームにしろ海外で評価されるものってだいたいインハウス系ですよね。特にビジュアル的なものは。では実写はどうかと言うと、どうしても日常的な、悪く言うと安い絵になってしまいがちなところがある。限られた予算の中で密度の高い作品を作るためには、そして日本人の特性を生かして世界水準を目指すには、やはりフルCGがいいという結論に至ったわけです。

http://moonlinx.jp/interview/plus_art/028/

上記などは、なるほどと思った。確かに、質感ゼロの安物CGアニメ風のカットに拭いきれない違和感を感じたりもしたけれども、これまで日本特撮は「手作り感」とか「人の手で作った温もり」みたいな言葉でイノベーションを否定してきた部分もあるわけで、それを鑑みると、本作の映像手法は一つの新しいステップとして評価すべきだと思う。
アクションシーンも画期的だ。見栄やタメを大事にした伝統的特撮アクションから、細かくカットを割ってテンポで魅せるMTV世代の編集技術アクションに大きく舵を切っており、これが正解だとは全く思わないものの、結果としてこれまで観たことがないほどスピーディーに蹴りやパンチや光線技を繰り出すウルトラ戦士たちの姿は革命的だ。監督の坂本浩一はスタントマン出身で、アクションに一家言ある人物らしい。


ハリウッド・アクション!―ジャッキー・チェンへの挑戦
薮中 博章
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今回、監督がパワーレンジャーで名を成したせいか、世界市場を見据えているせいか、様々な部分でハリウッド映画っぽさを観じるのだけれど、一番ハリウッドの匂いを感じるのが脚本だ。メビウス→レイ→ゼロと視点は変わるものの、そこで分ければ実に綺麗な三幕構成。どのシーンでも登場人物の目的・動機・ゴールがハッキリしているので、ポンポン視点や場所が変わってもそれほど混乱しない。おまけに、メタファーとか映像で別の文脈を語るとか、そういう小難しいものはあんまりない*2
おそらく、本作を作るにあたって製作陣が参考にしたのはハリウッドの群像劇、それも『X-メン』や『ファンタスティック・フォー』のようなアメコミ・スーパーヒーローものだろう。歴史に埋もれていた設定を引っ張り出し、時代にあわせて世界観や物語を再創造するという手法も、近年のハリウッドにおけるアメコミ・スーパーヒーローの映画化に対応する。
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で、ここで言いたいのは、そういう意味でもベリアルがテロを起こす理由が弱いんだよね。最近のアメコミ・スーパーヒーローの成功例、たとえば『ダークナイト』や『アイアンマン』はきちんと時代を反映した悪役を用意しているではないか。子供向けだから勧善懲悪で構わないわけじゃないし、勧善懲悪だから分かりやすいという話でもない。


でも、どうも続編を作る気マンマンらしいので、そこいら辺のことはこれからに期待したい。アンドロメロスとかウリンガとか出てきても驚かないぞ!

*1:東映はヤクザものとか時代劇とか含めて、実写もアニメも魅力的な悪役キャラ造形が上手い

*2:でも、ゼロが周囲の幸せそうなウルトラ一般市民を観て、「おれにはああいう家族がいないんだ……」とうつむくシーンはちょっと良かった