オタク大賞R3:その1 浅井真紀とは何者か
もう先先々週のことなのだが、オタク大賞Rに行ってきた。本編である日本オタク大賞の方は何年か前から毎年観覧しているものの、スピンオフ企画であるRの方は良いかな〜なんて思っていたのだが、年始のオタク大賞から察するに結構楽しそうだと思ったのだな。
ここで私のオタク的立ち位置を説明すると、現在に至るまでホビージャパンとモデグラと電撃ホビーマガジンを買い続け、大学時代は模型サークルとダイビングサークルのどちらに入ろうか真剣に迷い、子供が出来た*1のと時間が無いのとでここ数年まともな模型作りはしていないものの、現在も気になるキットは購入して押入れの肥やしにしているような人間だ。まぁ、半可通ってヤツですな。
で、そんな男にとって浅井真紀というのは気になる名前だ。しかも、東海村原八のブログを覗くと、会場でスカルピーをこね、原型を作る実演までするという。
http://mokei.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/r-30-5e33.html
これは行かねば!……ということで、行ってきたのだが、や、夢のような時間でしたよ。
以下、いつも通り自分にとって面白かったポイントのみをメモとしてまとめる。色んな人の発言が混ざっているのでご注意を。他に、文章にする時点で私のバイアスがかかっており、一部ニュアンスが異なるところもあるのでご注意を。。括弧内は私の感想や注釈です。
浅井真紀流造形術
- 浅井さんのことを知ってるお客さんが多いので、自己紹介は後回しにして、とりあえず手を動かして貰いましょう(笑)。
- 東海村原八さんは常に低姿勢だけど、何気にひどいことを言う(笑)。
- 唐沢なをきが、漫画家と自己紹介するとすぐ「ドラえもん書いて!」なんて頼まれるが、歯医者と自己紹介した人に「ここで歯を診て!」なんて頼む人はいない、というような漫画を描いていたのだが、それを考えると俺達はなんて失礼なことをしているのか(笑)。
- 現在話題沸騰中のコレを作りましょう(と言って出した資料はあしゅら男爵)。これなら男も女も作れる!
- スカルピーは非常に便利。タッパーに入れて持ち運び、打ち合わせのその場でも作れる。しかも、打ち合わせの場所で作って、見せて、確認して貰うことで、言質もとれる。その後の話が早い。
- タッパーのフタの裏に金属板を張り、そこで顔などを作る。この状態でフタを閉めれば移動の時にせっかく作った原型が潰れない。ドライヤーなどである程度硬化させることもできる*2。
- 他に、持ち手ができる*3、顔の細さや幅などを調整し易いといった利点がある。才能が無い僕でも歪まない!この方法はヘビーゲイジで習った。ただ、胴体などの前後をだす必要のあるものは板の上じゃなくて、普通に作る。
- あしゅら男爵というモチーフは歪んでもそれが味になるので助かる(笑)
- 目は似せやすいポイントなので一番最初に作る人もいるが、それは間違い。骨格→皮膚ときて、最終的に目蓋が目の形を決めるので、頭蓋骨から先に作っていくフィギュアの場合、後のほうのレベルで作った方が良い。
- 眉毛は立体物として造形せず、塗装のみで表現するフィギュアもあるが、今回は入れる。眉毛は一番盛り上がってる所を保護する為にあり、頭蓋骨の頂点にある。だから目をきちんと作れば眉毛の位置はおのずと決まる。
- 使っている道具は普通に売っているスパチュラや真鍮線を尖らせてグリップをつけたものなど。普通だと思う。グリップが太い方が使いやすいので、メインに使っているスパチュラのグリップを太くしなきゃ太くしなきゃと思い立ってから、もう十数年経ってしまった(笑)
- 一時期、練習で顔100個作るということをしていた。朝起きてテレビ点けて初めて見た顔を作る。ドラゴンボールの修行的練習。
- 本日は折角なので、左側から手渡しで回して、会場の皆さんに手に取って見てもらいます!(拍手)
- ただ、こういう場や打ち合わせ作ると上手く出来ているように見えるが、実はこれが始まり。この段階がキャンバスのようなもの*4。
- 昼飯一食でこのキャラ作ってくれ!みたいな友人知人からリクエストにも応える。で、コンビニ弁当とゼリー1個くらいで引き受ける。ゼリー付けるとだいたい嫌がられる(笑)。だからこのあしゅら男爵の単価は800円くらいです(笑)。
- モデラーというのはフィジカルな商売。もの書きと違って、心を病んでも大丈夫、もしくは痛みにくい傾向があるのでは?もの書きは心が病んだ状態で書いたものがウケたりするので始末が悪い(悪)。
浅井真紀来歴
- 大阪府出身。現在36歳。16歳でモデラーとしてデビュー。定時制高校に通いながらVOLKSに通っていた。
- 模型の道を志したのは、小学生の頃に何回目かのガンプラブームがあったのが大きい。小学生の作り方というのはヒドイもの。色を全部塗ったから偉いとか、全部真っ黒に塗って夜間戦闘用とか。お前ら何回卍解するんだ?といった感じ
- 小学生の頃通っていた模型店に高校生くらいのコーチがいた。色々と製作技術を学ぶ。ある時、そのコーチに海洋堂の轟天号のバキュームフォーム・キット*5を2000円で売りつけられた。
- 当然、小学生には組めない(オトナでも難しい)。庭の土に押し付けて、へこんだ穴に石膏を流して、それを土台にしたりしたのだが(笑)、無理だった。
- これは老師に会いに行かなくては!と思い立ち、海洋堂に行った。当時、実家から海洋堂のある守口市まで自転車で二〜三時間。帰宅は真夜中で、親に怒られた。
- 店員の「兄ちゃん」に色々と教えて貰った。それが今の「センム」。社長になった今も「センム」と呼ばないと怒られるらしい。
- その後、VOLKS入社。最初は研修で商品の梱包作業をやらされたが、その時一緒に箱詰めをやっていた後輩が今「ガンダム00」でメカデザインをやっている柳瀬敬之くん。凄い成り上がってる(笑)。
- 元VOLKSという人間は意外と多い。VOLKSが育てた人間が多いというよりも、VOLKSを辞めた人間がどれだけ多いか(笑)。
- 色々あって、VOLKSを退社(高校卒業を機に?メモし忘れた)。海洋堂に行ってそのことを伝えると、センムがヘビーゲイジを紹介してくれた。ウチやVOLKSを辞めた連中が吹き溜まっているところらしいから、オマエも行ったら、と(笑)
- 知らない方の為に説明すると、ヘビーゲイジは超実力派モデラー集団。実力派すぎて、海洋堂ですら手に余るような集団(笑)。
- 入ってみると、男塾か少年院みたいなノリだった(笑)。ヘビーゲイジというには単なる看板で、会社組織ではない。お金を出し合って場所を確保し、個人個人が自分で仕事をとってくる。下手だと発売させて貰えない……どころか、目の前で原型を「ボキッ!」と折られる。心も折れる。だから絶対に上手くなる(笑)。(実際にヘビーゲイジのホームページには以下のような記載が
http://www.big.or.jp/~h-gauge/WORKS/BOTSU/index.html
http://www.big.or.jp/~h-gauge/GK/PRO/FILE/INTRO.html
こうやって日本の造形技術やフィギュア文化は継承されていくんですね)
これまでの浅井作品をスライドで鑑賞しながらトーク
- 原型師は、大きく三種類に分けられる。
- 自分の欲しいキャラを作る人:あげたゆきおとか
- 自分がなりたいキャラを作る人
- 作ったものが自分に似る人
- 浅井真紀は二番目の「自分がなりたいキャラを作る」原型師なのでは?女の子が好きというのも分かる。
- 女子人気?いや、そんなことは無い。僕のところに来るファンは大分面倒臭い子が多いですよ(笑)。
- 大阪に住んでいた頃はワンダーフェスティバルの度に上京する必要があったが、間に合わないので新幹線の中で原型の完成見本を作っていた。席で真鍮打って、瞬間接着剤で組み立てて、トイレで墨だけ流して、エアータオルで乾かしていた(笑)。
- 僕、フィギュアのこと全然知らないんですけど、ちゃんと服の下にある肉体を意識して作っているんですね→お、それは「フィギュアを言葉で語る」ってヤツですね?鶴岡さんのこと全然キライじゃないんですけど、正直いってムカつきます(笑)!
- とにかくサンプル品が場所をとるので、埼玉県郊外に一軒家を借りて、そこで生活している。馴れてしまったのでベッドではなく椅子で寝ているのだが、勿論起きている時はその椅子に座って作業しているので、24時間中23時間は同じ所で過ごしている計算になる。肩の合間(?)という特殊な場所がヘルニアになった。
可動フィギュアへのこだわり
- 完成品フィギュアをどうやって消費するのか?という問題意識がかなり前からあった。お金払って、飾って、埃かぶって、それで終わりで良いのか?
- 可動フィギュアなら、それで遊べる。これできちんと「消費」できる!楽しめるじゃん!!
- 可動はどうしても単価が高くなるが、異素材を使わなかったり、関節パーツに隙間があっても大丈夫なように設計することで、なんとかコストを下げた。
- そういうコンセプトで、最初にレイキャシールを作った。http://www.plastica.jp/gallery/rei-reference1/6-28.htm
- その後、コナミから「武装神姫」の企画がきた。「アムドライバーの女性版がやりたい」とのこと。レイキャシールのアップバージョンとして可動素体としてのMMSフィギュアの原型を制作した。
- 可動フィギュアなら素体を使いまわせる。そこでコストを下げられる。しかも、版権ものではない。原型制作にタッチする代わりに、この素体を使って色々やらせて欲しいと頼み込んだ。
- マックスファクトリーとやっているfigmaでも、そういう目論見があった。当初はプラレス3四郎の原型制作を依頼されたのだが、プラレス3四郎というネタは断れないという理由以外に、この企画で作った素体や関節パーツを使って色々やらせて欲しい、と。
Figma プラレス3四郎 柔王丸(原作版) JPWAタッグトーナメントver. figmaサイクル(レッドver)付き
その他
- 同じく「ガンダム00」でメカデザインやっている福地仁さんともかなり昔から、「ワースブレイド」の頃からつきあいがある。お互い、なかなか芽が出なかった。去年、ユニオンフラッグのプラモデルが発売されたが、福地さんのデザインが最初にプラモ化された例だったので、喜びが凄かった(エエ話です)。
- プロップデザインとして参加した「ガンダム00」では、「グラハムが着用する」ということで仮面をデザインした。シャアのように正体を隠す目的ではなく、一つの様式美として装着し、正体が周囲にバレているものという前提でデザインした。だから表面積が小さい。グラハムが装着する場面が描かれることも想定していた。
- それが、いきなりファースト・シーズンの打ち上げで黒田洋介から「やっぱり名前はグラハムじゃなくて、”ミスター・ブシドー”にしました。四年間で彼は武士の道へ。陣羽織も着ます。日系の友人もいることだし」えー!
- 直後、高河ゆん先生のところに挨拶に行って「”ミスター・ブシドー”になったらしいっすよ」と言ったら、「ふーん。浅井くんがあんな仮面デザインするから、”ミスター・ブシドー”になったんだー……」人はあんなにも目だけ笑わずに笑えるものなのだと思った。
質疑応答1:「ガレキの翔」に登場する浅井果盛(あさいぱてもり)は浅井さんがモデルなんですか?
- そうです(笑)。当時は髪が長かった。
- 島本先生から取材したいという依頼があって、当時のガレージキット・シーンを紹介した。こんな悪いことをしてるメーカーがあるんですよ、という話もした。当時、裁判とかあったので。
- そしたら、その「悪いこと」は全部俺がやってることに!ヒドイよ、島本先生!
- どういうことですか?と文句を言ったら、「浅井くん、男はね、敢えて悪いことを演じなきゃいけない時もあるんですよ!」と、例の調子で言われた(笑)。
- でも、それを言ってる時の島本先生の目は完全に泳いでいた(笑)。