『ホドロフスキーのDUNE』と合わせて観たい『la constellation』

というわけで、ニコ生終わりました。

いつも通り、ニコ動とYoutubeにもアップされましたので、会員でなくても視聴できます。


毎回毎回、「今回は内容薄いから一時間持たないかもなあ」などと思いながらレジュメを作っているのですが、実際やってみると延長に次ぐ延長を繰り返しており、ちと反省しております。
一方で、このニコ生をやり始めた時、紹介したい映画監督が三人いたのですが、そのうち二人がバーホーベンとホドロフスキーでした。無事やりきれてそれなりに満足しております。ちなみにもう一人はジョニー・トーです。



さて、自分のニコ生が面白いか面白くないかに関係なく、公開中の『ホドロフスキーのDUNE』はちょう面白いわけですが、一つ欠点があります。メビウス本人が出てこないのです。メビウスホドロフスキー版『DUNE』において膨大な衣装デザインを描き、ストーリーボードを描きと重要人物なわけですが、『ホドロフスキーのDUNE』に本人は登場しません。
が、それも仕方ありません。メビウスは2012年に亡くなりましたが、『ホドロフスキーのDUNE』撮影中は癌と闘病中で、フランク・パヴィッチ監督はコンタクトをとったものの、出演したがらなかったそうです。


アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX
B004AM6Q9I

しかし、生前のメビウスホドロフスキーについて生き生きと語る映像が残っています。ホドロフスキーのDVD-BOXにはホドロフスキーにとって初の劇場用映画である『ファンドとリス』が含まれているのですが、このDVDにおまけとして『La Constellation Jodorowsky』なるドキュメンタリーが収められてます。

1994年――約20年前に作られたこのドキュメンタリーでは、現在よりちょっとふくよかなホドロフスキーに取材しているのですが、生前のメビウスホドロフスキーとの共同作業について「ショックを受けた」と語るシーンがあるのです。


メビウスに「ハルコネン男爵の衣装はどんな感じにしようか?」と問われたホドロフスキー。おもむろに本棚に向かうと、目を手で覆ってランダムに画集を引き抜きます。パラパラと適当に画集をめくり、あてずっぽうに指を差し込んだページを開き、「こんな感じにしよう」……そんな具合だったそうです。



「最初は変になりそうだった」というメビウスですが、後にホドロフスキーのやり方が正しいと痛感したそうです。「どんなことからも始められる」というメビウスの台詞は重要です。最初の一語、最初の一点、最初のインスピレーションがあれば、あとはなんとかなる。メビウスほどの天才ならば、スタート地点さえあれば良いのです。


更に、メビウスは続けます。

ホドロフスキーの中には信念というか一種の信仰がある。
知らないままで何も見ずに進めばチャンスは与えられる。
自分の全知の人格が教えてくれると

これは『ホーリーマウンテン』や『リアリティのダンス』なによりも『アンカル』における「神は自分の心の中にいる」という思想と重なってきます。

ホドロフスキーのDUNE』で印象的なのは、クリス・フォスがまるで教祖について語るようにホドロフスキーについて語るシーンですが、多分メビウスも同じように心酔していたのでしょう。『La Constellation Jodorowsky』にはメビウスホドロフスキーの講演会――サイコセラピーなるワークショップに参加するシーンまであります。



もう一つ。
『La Constellation Jodorowsky』には、ホドロフスキーにとって演劇やマイムの師匠であるマルセル・マルソーやフェルナンド・アラバールも出演しています。が、ドキュメンタリー作品としては平凡……というかつまらない作りで、「魂の戦士」をキーワードに作品を構成した『ホドロフスキーのDUNE』の方が何百倍も面白いです。ですが、『ホドロフスキーのDUNE』と合わせて観ると、ぐんと面白さが増します。

最も印象が変わるのは、『DUNE』のプロデューサーであるミシェル・セドゥーでしょう。なにしろ、『La Constellation』のホドロフスキーは、ミシェル・セドゥーについて悪口ばかり言っているのです。


(『DUNE』)は素晴らしい失敗だった
失敗で味方ができた
問題はプロデューサーが金持ちだったということだ*1
稼ぐ必要はない
教訓は稼ぐ必要のない人と仕事はするな
芸術ではな
なぜなら彼らは簡単に企画を放棄してしまう
彼らには虫刺されのようなもの


しかし、『ホドロフスキーのDUNE』を観た人ならお分かりでしょうが、この二人――ホドロフスキーとミシェル・セドゥーは『ホドロフスキーのDUNE』をきっかけに和解します。
ホドロフスキーのDUNE』のパンフレットには「ホドロフスキーはミシェル・セドゥーと会う直前、もの凄く機嫌が悪かった」「あの二人はお互いがお互いを嫌いだと思い込んでいた」なんてことが書かれています*2。綺麗ごとだけでは済まないものづくりの暗黒面を感じると同時に、仲直りした二人が『リアリティのダンス』を作り上げることを考えると、『ホドロフスキーのDUNE』は本当に良い映画だなあと思わずにはいられません。
リアリティのダンス
アレハンドロ・ホドロフスキー 青木健史
4892570761

*1:ミシェル・セドゥーは自分のサッカークラブを持ってるくらいの金持ちです

*2:是非とも本編に活かしてほしかった