スーパーレイプ大戦と『プロメテウス』

「ゲロとレイプがある映画はいい映画」をテーマにしたニコ動番組もおかげさまで好調だ。皆様、有難うございます。次回もよろしくお願いします。


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そんな中、とある映画とレイプとの関係性について、友人から面白い話を聞いた。
『プロメテウス』の大きな主題の一つは「レイプ」だというのだ。内田樹の『エイリアン』評は全て正しく、『プロメテウス』も『エイリアン』のそれを受け継いでいるのだそうだ。


映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想 (文春文庫)
内田 樹
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内田樹の『エイリアン』評はどういうものかというと、「フェミニストとしてのヒロインと、これを屈服させようとする家父長制的な男性性とのデスマッチ」というストーリーの裏に「妊娠して母になることへの恐怖・不安・嫌悪」という「体内の蛇」の現代版語り直し的ストーリーが隠されており、そのために「ヒロインは繰り返し陵辱され、傷つき、損なわれ、自立への空しい努力は暴力的に押しつぶされ」、映画は性的な記号で溢れている……というものだった。

  • 男根状の頭部を持ち、攻撃の前に口元から半透明の液体を滴らせ、純粋な攻撃性と自己複製への欲望で生きるエイリアンは男性の象徴である。
  • アッシュは男性=エイリアン側のキャラクターであり、リプリーと対峙するシーンでは、リプリーが真っ赤な鼻血を流すのに対し、アッシュは額から精液のような体液を流す。これはその後に続くシーンが「レイプ」であり性機能の無いアンドロイドであるアッシュが「射精」することを象徴している。
  • アッシュがエロいグラビアだらけの娯楽室でリプリーの髪を引きむしって失神させた後、口につっこむのは平凡パンチ。擬似的な男性器でリプリーを屈服させることを意味している。
  • その後、金属棒=金属バットの一振りにより、アッシュの首がもげ、白い体液を辺りにまき散らかす。斬首は去勢の暗喩であり、レイプ未遂の罰として男根を切り落とされたことを意味している。
  • 脱出するシャトルに乗り込む間際、リプリーが探す猫は女性器の象徴である。
  • 自爆装置に針状の鍵を挿入すると四本の金属棒がぬるぬると「勃起」してくる。「勃起」してから五分経つと沈静することが不可能となり、後は「爆発」するしかない。
  • シャトルに乗り込むまで、映画の音声はせきたてるようなサイレンと「爆発まであと○○秒」というアナウンスとリプリーのあえぎ声だけで占められる。母船が爆発する時にリプリーがみせる表情はオルガスムスに達した女性のそれである。


友人によれば、こういったレイプや妊娠に関する隠喩は『プロメテウス』にも溢れているのだという。『プロメテウス』はSF映画というよりもレイプや妊娠に関する映画、それも、男が女を犯すレイプだけではなく、男が男を犯す同性間でのレイプや妊娠までをも描いているのだと。いや、一応書いておくと、「吹き替え版がゴーリキーにレイプされた!」なんて意味じゃないよ。

  • 冒頭、後にエンジニアと呼ばれることになる異星人が黒い液体を飲む。DNAまでもが黒い液体に侵され、身体が崩壊し、原始の地球に自らの遺伝物質をまき散らかす。これは黒い液体に自らの体をわざと「レイプ」させ、更に自らが地球を「レイプ」することで、地球人という新たな知的生命体を妊娠させたことを意味している。

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  • デヴィッドが観ている『アラビアのロレンス』の主人公はゲイであり、マッチの火を指で消すシーンは彼がマゾヒストであることを示している。
  • デヴィッドが遺跡から採取したイカタコエイリアンの幼生をホロウェイ博士に飲ませるシーンは「レイプ」の代替行動であり、男が男をレイプすることの隠喩である。性機能を持たないアンドロイドであるデヴィッドはどんな方法を使っても「レイプ」→「妊娠」→「出産」というサイクルに関与したいのだ。
  • ホロウェイ博士とセックスしたショウ博士は不妊であるにも関わらずイカタコエイリアンを「妊娠」する。しかし新しい「体内の蛇」説話の主人公たるショウ博士は自動手術マシーンをフル活用してエイリアンを体内から追い出す。これは、「レイプ」により望まぬ妊娠をしてしまった女性が「中絶」や「堕胎」によって自由を得ることの直接的な隠喩となっている。
  • メレディスはおそらくアンドロイドもしくはショウ博士と同じく不妊女性である。彼女は子孫を残せない=「レイプ」されても「妊娠」しない身体故に父であるピーター・ウェイランドから愛されない。
  • メレディスとデヴィッドは同じように性的不能であるものの、ピーターは自分の命令を聞いて「レイプ」→「妊娠」→「出産」というサイクルに関与したデヴィッドの方を愛している。

  • デヴィッドという名前は『2001年宇宙の旅』というよりもダビデ王に由来している。バイラル動画で明らかになる「8世代目のアンドロイド」という設定も「エッサイの第八子」であるダビデ王から。
  • この世は強者が弱者をレイプするスーパーレイプ大戦な世界である。エンジニアが求めているのはレイプ大戦を勝ち残ってきた強き意志と力を持つ子供である。
  • しかし、エンジニアの目の前に現れたのは老いた老人(とその召使)と生殖能力のないアンドロイドと女であった。だからエンジニアは激怒し、「去勢」した。
  • イカタコエイリアン=プロトエイリアンがエンジニアを「レイプ」するのは、またしても男が男をレイプすることの隠喩である。そして誕生するエイリアン――我々がよく知る姿かたちのエイリアンは、男が男を犯すことで誕生したHIVのようなキャラクターである。


後輩の感想には頷ける部分も頷けない部分もあるが、こうやって考えてみると、リドスコ先生のやりたいことはSFじゃなくてエログロファンタジーなのだなぁ、なんて思ったよ。
なんにせよ、また続編が楽しみになってきた。
ちなみに公開時に書いた自分の感想はこちら。
こまけぇこたぁいいんだよ!:『プロメテウス』 - 冒険野郎マクガイヤー@はてな