Dr.マクガイヤーの冒険式映画ゼミ第二回 アップ報告と補足
ニコニコ動画にて映画紹介番組『Dr.マクガイヤーの冒険式映画ゼミ』第二回が公開されました。
今回のお題は『ドリームキャッチャー』です。
Dr.マクガイヤーの冒険式映画ゼミ No2.「ドリームキャッチャー」の巻 - ニコニコ動画
ドリームキャッチャー 特別版 [DVD]
ローレンス・カスダン
第一回の公開から二ヶ月近い間が空いてしまいました。お待ちかねの人も、そうでない人もいるかもしれません。申し訳ありません。
本番組は映像のプロであるディレクターと、聞き役のプロである占い師と、ボンクラのプロである自分という、いい歳こいたオトナが本気で作っている番組なのですが、なにぶんにもいい年すぎて皆忙しくて時間がかかってしまうのです。
代わりといってはなんですが、近いうちに特別編として生放送を行う予定です。
Dr.マクガイヤーの冒険式映画ゼミ「生放送スペシャル」 - 2013/07/15 21:00開始 - ニコニコ生放送
こちらも宜しくお願いします。
電波状況が悪かったら収録になるかもしれませんが、その時は御免なさい。
さて、第二回のお題である『ドリームキャッチャー』については思うところが沢山あり、収録では三時間近く喋ってしまいました。映画本編より長いですね。オタクは話が長くて困りますね……反省しきりです。
本番組は当初より30分前後の視聴し易いものを目標としており、今回もディレクターの鬼気迫る編集テクニックによって達成されたのですが、自分としては事前に用意したネタが活かされなかったという寂しさもあります。
そこで、カットされた部分を補足として以下に書いておきます。番組と合わせて楽しんで貰えれば幸いです。
紹介編
人物紹介
- 冒頭、仲良し4人組の会話でキーファー・サザーランドの名前が言及されるのは、本作が『スタンド・バイ・ミー』の続編(的な作品)であることを観客に示唆する役目を果たしている。『プロミスト・ランド/ 青春の絆』は『スタンド・バイ・ミー』の翌年の出演作。
モダンホラーとはなにか
- 初期のスティーブン・キングは50年代までのB級SFやB級ホラーを現代的にアレンジした話を書いていた
- キング自身はホラーではなくヒューマンドラマを書いているつもり、とあちこちで表明している。
知っておいた方が良い知識
- 元々”Same old stuff different day”という言い回しが存在した。この”stuff”がより下品な”shit”に変化し、”Same old shit different day”という言い回しが主に黒人文化圏で使われるようになった。
- ”Same old shit different day”は『バッドボーイズ2バッド』でも出てくる。ここから”old”が抜け、”Same Shit Different Day”略称SSDDが完成した。
- 本作で有名になったSSDDはあちこちで使われており、ゲーム『コール オブ デューティ』のステージ名になったりもしている
解説編
スティーブン・キングとアメリカ人にとっての故郷
- スティーブン・キングの生まれ故郷であるメイン州はアメリカ北西部にある。
- しかし、アメリカ人にとって心の故郷は南部だ。日本人にとって心の故郷が東北の農村地帯であるように、アメリカ人は南部の小麦畑やトウモロコシ畑に教習を誘われる。映画『スタンド・バイ・ミー』の撮影場所もオレゴン州であった。
- キングは現代アメリカにとって国民的作家である。そして映画とは大衆に向けて作られるものだ。キング作品を映画化する際、キングの故郷とアメリカ人の故郷が結びついてしまうのだ。本作の舞台はメイン州であるが、南部を舞台にした歌「ブルー・バイユー」が採用されたのはそういった理由からではなかろうか。
現代アメリカ人にとっての恐怖
- モーガン・フリーマン演じるカーティス大佐の原作での名前はカーツ大佐。これは当然『地獄の黙示録』のカーツ大佐と『闇の奥』のクルツの引用であり、「近代」と「戦争」で狂気に陥った軍人の役回りである。近代で最も多くの戦争に参戦しているアメリカの国民は、戦争の狂気で自国の軍人たちが暴走してしまうことを恐れている
- 現代アメリカ人の6割が天使や悪魔の存在を信じているという。時に「悪魔」は「宇宙人」として現れる。
- ジョン・ウェインから貰った銃:政府が国民を監視しているかもしれないという恐怖
他のキング作品との関連
- 原作はいわばキングにとっての『ブラックジャック』であり、様々なキング作品とモチーフや舞台を同じくする。
- 『イット』は舞台がデリーであることや、子供時代と現在を行き来する構成や、マジック・ニグロ的な中心人物がデリーに残る等、最も相同性が高く、同テーマの変奏といえる。原作でも子供失踪事件や貯水池やペニーワイズなどが言及される。
- ただ、『イット』の主人公7人がオトナになったら社会的・金銭的に成功者であったのに対し、『ドリームキャッチャー』の4人はオトナになってもパっとしないばかりか、全員オトナ特有の問題――ミドルエイジ・クライシスを抱えている。『イット』が子供時代の遺恨をオトナになって解決する話であるのに対し、『ドリームキャッチャー』はオトナになって抱えた問題を子供時代の幸福な体験がなんとかしてくれるという点で大きく異なる。
- これにはキングの自動車事故体験が関係しているのかもしれない。事故前のキングは子供の頃の恐怖が大人になっても重要な役割を果たすと考えていた。しかし事故後、大人になってからの方がよりシリアスな恐怖に巻き込まれる可能性があると考えるようになったのではなかろうか。
- 映画化にあたり、監督ローレンス・カスダンは様々なキング映画からの引用を行い、映画的記憶を利用した。
- 子供時代は『スタンド・バイ・ミー』そのまま。4人で「冒険」する回想シーンでは常に機関車(電車)が走っている。
- 宇宙人に体を乗っ取られたダミアン・ルイスは『シャイニング』で狂ったジャック・ニコルソンと全く同じ笑い顔をする。
- 『ショーシャンクの空』で印象的な役を演じたモーガン・フリーマンの起用は映画的記憶の逆利用である。
他の映画との関連
ラスト改変
- 本作はラスト改変により怪獣映画としての性格を持つ。
- 男は心の中に怪物を持つ。たとえば『帰ってきたウルトラマン』の『怪獣少年の復讐』『ふるさと地球を去る』『怪獣使いと少年』といったエピソードでは、少年が心の中に抱える孤独や怒りや寂しさや不満が怪獣として表現されていた。近年の『ガメラ3』も同じ。
- ハリウッド映画でも『ET』や『スーパー8』では同様のことが行われていた。ETや宇宙人は怪獣そのものである。
- しかもこの4人は怪獣を共有している。通過儀礼を越えたおっさんが窮地に立たされた時、自分を救ってくれるのは金でも地位でも名誉でもなく、心の中の怪物であり、少年の日の思い出や友情、幼稚な部分なのだ。
- 『桐島、部活やめるってよ』のゾンビも実は同様の怪獣である。それでもぼく達はこの世界で生きていかなければならない……