太田光と田中裕二の出会い:『モンスターズ・ユニバーシティ』その2

昨日の続きのような続きでないような日記。
そういうわけで『モンスターズ・ユニバーシティ』はピクサー久しぶりの傑作なわけだけれども、自分が泣けて泣けて仕方がなかった理由は単に出来が良かったという理由だけではない。


モンスターズ・ユニバーシティ』は普通のシネコンだと吹替版しか上映しておらず、自分のように中途半端な郊外都市に住んでいる人間はどうしたって田中裕二の声を聴いてしまうこととなる。そうすると、どうしても脳内で「太田光田中裕二モンスターズ・ユニバーシティならぬ日大藝術学部で出会った!」みたいな見立てをしてしまう。この見立てに、なんだかぐっと来てしまうんだよね。
JUNK 爆笑問題カーボーイ [DVD]
B003XGW7IG


つまり、以下のような感じだ。

子供の頃から友達のいなかったマイク太田。高校生になっても友達ゼロだった彼は、文化祭で一人芝居を開催しても、担任と顧問の二人しか客がこない。だがマイク太田は挫けない。マイク太田には夢があるのだ。
マイク太田の夢とはなにか。必死でお笑いの勉強をし、数々のお笑いエリートを輩出しているモンスターズ日大に入学する、そして、世界一の芸能プロであるモンスターズ太田プロに入社し、世界一の笑わせ屋になることだ。
ところが、努力の人 マイク太田は、首尾よくモンスターズ日大に入学するも、とんでもない天然の笑わせ屋と出会う。お笑いをやるために生まれてきたとしか思えない巨人じゃなかった小人 サリー田中だ。
野球のユニフォームのまま入学試験を受け、そのまま合格したサリー田中。自分のことをウーチャカと呼ぶよう周囲に強要し、「ウーチャカは皆のアイドルでいたい」と意中の女性からの告白を断るサリー田中。兄や姉は有名ブランドのデザイナー、父は「人類生き残り研究会」会長と、家柄も良いサリー田中。自らをテトロポリキョン星人と名乗り、「テトロポリキョン星人はオナニーしない」と豪語するサリー田中。野良ネコとネコ語で延々と話続け、ネコとお菓子に関することでは本気で怒るサリー田中……
マイク太田がどんなに漫才やコントや文学の勉強をしようとも、サリー田中の繰り出す注意のようなツッコミが生み出す笑いにかなわないのだ。
「あいつはおれみたいな努力の変人じゃない。化物だ。天然の笑わせ屋の化物だ!」ショックを受けるマイク太田。
そんなマイク太田は、ひょんなことからジョニー三谷先輩率いる学内のエリート劇団グループ「サンシャイン・オメガ・ロアー」とコント対決をすることになる。だが、コント大会に出るにはメンバーが一人足りない。「誰か! 誰か僕のコント劇団に参加してくれませんか?」
そんな太田の横にすっと現れるサリー田中。
「何故? 何故おまえが……」
動揺するマイク太田にサリー田中が一言。
「新幹線で隣同士の席になるなら、知らないおっさんより知ってるおっさんの方が良いだろう?」
いまここに、日本芸能史に残る笑わせ屋の名コンビ「爆笑問題」が誕生したのだ……

田中裕二(爆笑問題)の「ザ・ガール」
田中 裕二
4796671811

この見立てをするにあたって混乱するのは、田中裕二が吹き替えているマイク・ワゾウスキーが爆笑問題の太田にあたることだ。
でも、実話の映像化ってそういうことじゃないかと思うのだ。たとえば、『ブスの瞳に恋してる』がドラマ化された時、主演は森三中の大島ではなく村上であった。そういうのと同じ理由なんだよ!
ブスの瞳に恋してるDVD-BOX (初回限定生産)
B000FDK9P8


そういうわけで、『モンスターズ・ユニバーシティ』は、一人だけでは怖がらせ屋になれなかったマイクがサリーとコンビを組むことで一流の怖がらせ屋への道を歩き出す話なのだけれど、一人だけでは全然面白くないかった太田光が田中と組むことで一流の芸人になれた話だと思ったよ。泣けるなぁ。


しかも、この見立てに則れば、『モンスターズ・インク』における価値観の変化が『モンスターズ・ユニバーシティ』では無視されているという問題も、すんなりと受け入れられることができる。


以下、どうしても二作のネタバレになるので、注意して読んで欲しい。


モンスターズ・インク ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
B00BS6G2SE
モンスターズ・インク』のラストでは、それまで「子供を怖がらせること」が当たり前だったモンスター社会の価値観が、マイクとサリーの活躍によって「子供を喜ばせること」を推奨する社会になっていくことが描かれる。これは「クリエイターとして子供をきちんと喜ばせよう」「子供を怖がらせることより喜ばせることの方が尊い」と考えるピクサー社の志の顕れなわけだ。全然関係ないけど、子供の時分にサスペンスやホラー映画を観て心底怖がることも重要だと考える自分にとっては、ちょっと居心地悪いラストでもあった。
で、『モンスターズ・ユニバーシティ』では、「子供を怖がらせることよりも喜ばせることの方が尊い」という価値観が、無視されてるんだよね。しかも、それまで「怖がらせ屋」としてのエネルギー収集役はコンビのうちサリーだったけれど、「喜ばせ屋」はマイクになっている。
いや、『モンスターズ・ユニバーシティ』で最後にマイクとサリーが怖がらせることになるのは大人なので、上手く回避しているわけなのだけれども、「子供を喜ばせること」が全く出てこない。果たして、後日作られた前日譚として良いのだろうか。や、サスペンスやホラー映画が大好きな自分は嬉しいけれども。


だが、マイク&サリー=爆笑問題説に則れば、これもすんなりと受け入れることができるのではないかと思う。

モンスターズ太田プロ独立問題が原因で、モンスターズ芸能界から干されてしまったマイク太田とサリー田中。バイトやパチスロや草野球に精を出す中で、二人は今まで自分たちがとってきた笑わせ屋としての姿勢が間違っていたことに気づく。二人はそれまで、周囲を恐れさせるほど、時には引かせてしまうほどに、毒が効きエッジの立った笑いを追求していたが、もうちょっと肩の力の抜けた、お客さんの顔が自然にほころぶような笑いこそが本当の笑いではないかと考えるようになったのだ。
そんな二人に久しぶりの仕事のオファーが舞い込む。それはこれまで二人が馬鹿にしていたダジャレを中心としたテレビ番組『ラセターのSuperボキャブラ天国』への出演依頼だった……


なーんつってな!!