スーパープリキュア大戦オリジナル・ジェネレーションへの道:『プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』
『プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』鑑賞。
前シリーズであるところの『プリキュアオールスターズDX』は典型的なスパロボ映画+新世代プリキュアへの継承話、すなわちプリキュア大戦映画であった。
プリキュア大戦映画とはなにか。
- 各作品のプリキュアが集まり、映画オリジナルの敵と戦う。
- 物語や文芸的ドラマツルギーよりも、商業面や工学的ドラマツルギーが優先される。
- すなわち、いかに各キャラに満遍なく見せ場を割り振るかとか、いかに忘れ去られた昔のキャラや、馴染みの無いこの春からの新しいキャラを売り込むかといった点が優先される
映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花【DVD】 通常版
結果、全体的にみると、少女達がドデカイ敵をばったばったと格闘やビームや超必殺技で薙ぎ倒すシーンが連続するドラッギーな映像作品となる。そこが特徴であり、魅力であった。
だが、『NewStage』と銘打つだけあって、今回は新しかった。ちゃんと物語があるのだ!
まず冒頭。「影ながら世界を守る戦士、その名はプリキュア!」みたいな仰々しいナレーションの下、台詞無しで前作までの敵フュージョンと戦うプリキュア・オールスターズのシーンに驚く。こういう場面でヒーローやヒロインが台詞無しということは、伝説の中の存在ということを意味する。完全に東映ヒーロー、それも仮面ライダーの世界だ。テレビに出てないライダーが人知れずヨーロッパやアフリカで戦っていたように、テレビに出てないプリキュアも、人知れずこの世界を守っているのだ!
仮面ライダーSPIRITS 全16巻 完結セット (マガジンZコミックス)
村枝 賢一
つまり、この世界はテレビとも劇場版とも違う、新しい舞台での話なのだな。や、もちろんパラレルワールドがどうこうとか、設定がどうこうとか、野暮なことは言わないよ。映画一作一作ごとの雰囲気の話だよ。
で、一転して能登麻美子演じる映画オリジナルプリキュアの話になる。
転校初日、昨日活躍をしていたプリキュアの話をしてる同級生にまざれず、孤独を感じるちょっと内気な主人公――坂上あゆみ。そう、この映画は、普段テレビで放送されているプリキュアの外の世界の話なのだな。この部分が本当に本当によーくできていた。
代々のプリキュアは妖精が相棒になるのだが、彼女の相棒になるのはフュージョンの一部から生まれた不思議生物「フーちゃん」だ。このフーちゃんが主人公の願いをなんでもかなえると思いきや、藤子・F・不二雄の『ヒョンヒョロ』みたいな話になる*1。
藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 (1) (SF短編PERFECT版 1)
藤子・F・不二雄
この話自体は一つの定型であるし、「普通の人間がヒーローに!」みたいなヒーロー誕生物語もよくある話なのだが、これを『プリキュア』の、それもクロスオーバーものでやるとは思わなかった。
多分、これは『スーパープリキュア大戦』じゃなかった『プリキュアオールスターズ』というシリーズにおける「オリジナルジェネレーション」の萌芽なのだろうな。
スーパーロボット大戦OG外伝(通常版)
いや、正確にいえば、『スパロボ』というシリーズは、オリジナルキャラやロボットを出した『第2次スーパーロボット大戦』、主人公を自分で作れる『第4次』や『F』、オリジナルキャラやロボットに物語があり、人間的に成長する(単にロボットがパワーアップするという意味で無く)『α』や『COMPACT/IMPACT』……と、クロスオーバー作品における「オリジナル要素」というものの扱いに関して年々独自の進化を遂げてきたわけだが、『プリキュアオールスターズ』も一段階進化したのだと思う。それも、良い方向に。少なくとも自分は本作におけるキュアエコーの誕生シーンにちょっと感動してしまった。
一方で、商業的に要請されたであろう要素であるところの「新世代プリキュアの顔見せ」「先輩キュアから後輩キュアへの継承」もきっちりと描きこまれつつも、主人公が一般人からスーパーヒーローじゃなかったスーパーヒロインになるさまをあくまで手助けするに留まる、一本の映画としてのバランスの良さが光る作品だった。
だけど、お祭り映画として観た場合、決して合格点とは言えないのが難しいところだ。
まずさ、無印や『Splash star』や『5』の連中が一言も発さないって何なの?
いや、分かるよ。東映はコスト意識に厳しい会社だよ。合計28+1人のプリキュアが登場するも、実質的にはオリジナル主人公と『スイート』『スマイル』組しか活躍しないことに割り切った本作((その割り切り具合が素晴らしいのだが))。しかも低年齢向けなので70分という時間制限がある本作。たった一言か二言しか喋らないであろう連中に声優を起用するよりも、コストカットに務めたい。それならプロデューサーが違うところで区切りをつけちゃえ!……なんて判断が働いたであろうことは想像に難くない。でも、『ディケイド』やその他オールライダー映画での、非オリジナルキャストで喋るレジェンドライダー達を例に出すまでも無く、そういうことされると興ざめしちゃうんだよな。
あと、主人公坂上あゆみが寝る際に結んだ髪をほどかず、そのまま寝ちゃうのは致命的にマズいと思う。だってテレビのプリキュアはそういうところをしっかり描いてたじゃん! 多分、髪をほどいた設定画を用意していないからだと思うのだが、誰か注意するスタッフはいなかったのかね? こんなんじゃ子供も大人も騙せないよ!
最後にあんまり映画の内容とは関係無い話。
自分は例年、騙くらかした息子と一緒にプリキュア映画を観に行ってたのだが、とうとう今年「女向けのアニメなんかみたくない」と拒否された。そこで男一人でレイトショーを観に行った。当然おっさんばっかりだ。やっぱおっさんがプリキュア観るのならこういう劇場でだよな! てなもんだ。
でも、見終わった後、ちょっと後悔した。だってヒネたオタクが終了後に「作画がよくなかった」とか「声優リストラされた!」みたいなことを口走る声が聞こえてきて……いや、後半には同意だけれどもさ。
やっぱり、こういう映画は女児がたっぷりいる劇場で観るべきだよなー。ジャッキー映画は小学生の沢山いる劇場で観ると3倍楽しい、みたいなもんだよ。