アメリカ人が最も恐怖する事態:『世界侵略: ロサンゼルス決戦』

『世界侵略: ロサンゼルス決戦』鑑賞。
傑作だった『スカイライン』や『モンスターズ』に比べると、薄っぺらいシネコン大作映画感に溢れていたもので、それほど期待していなかったのだが、意外にも面白かった。あんまり評判よくないらしいが、自分はこの映画のやりたいこと、訴えたいことがよく分かる。アメリカは米英戦争以来、異国の兵士に自国領土を侵略された経験の無い国なのだけれども、「宇宙人の侵略」という名目でそれをやろうとした映画なのだと思った。
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正確に書くと、米英戦争以来、アメリカ本土が他国から攻撃を受けた例は幾度かある。日本海軍の潜水艦によって行なわれたアメリカ西海岸の陸上施設への砲撃、艦船搭載機による空襲、それと風船爆弾だ。
風船爆弾は死者こそ出したものの、当時は報道管制が敷かれていたこともあり、ほとんどのアメリカ人にとっての印象はトンデモ兵器扱いだ。真珠湾攻撃は現在でも多くのアメリカ人にとって国民的トラウマであるものの、ハワイとアラスカは「アメリカ本土」に含まれないという理由で、「アメリカ本土攻撃」と認められない。しかし、1942年に行なわれた日本海軍の潜水艦による砲撃と搭載機による空襲は紛うこと無き「アメリカ本土攻撃」だった。実質的には、1隻の潜水艦による砲撃が2回(+カナダに1回)、爆弾を抱えた水上偵察機僅か1機が森を焼く空襲が1回あっただけなのだが、日本軍の上陸作戦を本気で警戒していたアメリカ政府と市民を恐怖のどん底に陥れたのだという。
参考:アメリカ本土砲撃 - Wikipedia
この攻撃後、西海岸の様々な都市で日本軍上陸の誤報が何度も当局に報告され、防空体制が見直された。また、日系人の強制収容にも繋がったという。


その誤報が生んだ最も大きな事件が「ロサンゼルスの戦い」だ。
参考:ロサンゼルスの戦い - Wikipedia
単なる気球か、偵察機か、はたまたUFOだったのか、何を誤認したかは今もって不明だが、ともかく今もって日本軍に攻撃記録が見つからないにも関わらず、日本軍上陸の誤報が報告され、西海岸の陸軍海軍に不必要な迎撃体制をとらせ、実際に対空砲火まで行われた事件があった。その模様はラジオで実況中継され、アメリカ西海岸をパニック状態に陥れた。海の向こうからやってくる異国の兵士に自国の領土を侵略されることへの恐怖が、幻の戦闘を生み出したのである。これは後に「ロサンゼルスの戦い」と自嘲を込めて呼ばれることになった。


実際に日本軍が計画していたのは、最大でも潜水艦10隻による西海岸沿岸の複数都市同時攻撃程度だった。しかも、クリスマス前後に砲撃を行って民間人に死者を出し、アメリカ市民の戦意を過度に高揚してしまう可能性まで懸念していた。日本側が狙っていたのはあくまで短期決戦であり、有利な条件で講和に持ち込むことだったからである。
しかし、当時の大統領であったルーズベルトアメリカ陸軍上層部は、日本軍の砲撃や空襲どころか歩兵による上陸作戦の可能性を本気で怖れ、警戒し、もし大規模な日本軍の上陸があった場合はロッキー山脈やシカゴまで後退して阻止することまで検討していたのだという。
これは、アメリカ市民とアメリカ軍部がもっとも怖れることはなにかということを如実に表している。アメリカ人にとって、戦争とは他国への侵略そのものだ。自国の兵士や兵器を船に乗せ、海の向こうの異国の地に送り込み、土地や資源を略奪すること。ノルマンディー上陸からピッグス湾事件、ダナン上陸、湾岸戦争まで、アメリカが拘ってきたのは、海を渡った異国の地へ歩兵と兵器を上陸させることだ。


何故なら、いまアメリカ人が住んでいる当の北米大陸こそ、ヨーロッパからやってきた祖先が上陸し、銃という兵器でインディアンから奪った土地だからだ。自分達がやったことは、必ず誰かもやる。全てのアメリカ人はその歴史と繰り返される可能性を認識している*1



で、本作『世界侵略: ロサンゼルス決戦』は、この「ロサンゼルスの戦い」が誤認が元で起こった幻の戦闘ではなく、UFOに乗った宇宙人による事前調査への応戦だったとする設定に基づいた話なのだという。原題は”Battle: Los Angeles”、”Battle of Los Angeles”を第三種接近遭遇まえたタイトルであることは一目瞭然だ。


はっきりいって、ストーリーはベタ中のベタだ。主人公はたたき上げの下士官、上司は士官学校出立ての士官、部下には結婚を控える者、戦死した兄の敵と主人公を逆恨みする者……最初は皆から信用されなかった指揮官が、英雄的な行動で部下の信頼を勝ち得て、彼らが属するチームは最後は戦局に影響を与える大活躍をする……という、何十年も前から戦争映画というジャンルで繰り返されてきた黄金ストーリーだ。男だてらに銃を撃ちまくるミシェル姐さんなんて、もう何度目の光景だろうか。


だが、やはり本作はスゴい。
まず、スゴいところを一つあげると、徹頭徹尾一般兵士の目線での市街戦が描かれることだ。
最初は市民の避難を手伝う非戦闘地域での活動かと思ったら、現場に向かかうまでに状況が変化し、前線基地に行ったらアイツ等の小隊はそこオマエ等の小隊はここと配置を割り振られ、あれよあれよという間に命がけの戦闘行為に参加させられる。
ゴジラモスラキングギドラ大怪獣総攻撃』のDVD特典で、樋口真嗣神谷誠が「究極の怪獣映画」と妄想していたのが「怪獣映画としての『ブラックホーク・ダウン』」だった。本作は「宇宙人侵略版『ブラックホーク・ダウン』」といえよう。
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次に、戦場がスゴい。彼らが戦う土地はサラエボでもソマリアでもファルージャでもカンダハールでもない。首都であるニューヨークに並ぶ大都市ロサンゼルスだ。サンタモニカビーチには海水浴客の死体が魚のように打ち上げられ、壊れたオフィスの下には金髪碧眼の死体が並ぶ。911を体験したアメリカが意識下で最も怖れる戦場がここにある。『HOMEFRONT』の北朝鮮のように実在の国が侵略行為として本土に上陸してくる話はお笑いスレスレと受け止めるが、宇宙人ならリアリティを感じてしまうのだ。
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そしてそして、敵がスゴい。彼らが戦う宇宙人は宇宙人であって宇宙人でない。人類史上初の第三種接近遭遇である筈なのに、隕石が宇宙船であったこと、目的は侵略であったこと等々が、劇中内のニュース映像で淡々と説明される。


地球人と対話せず、宣戦布告すらせず、資源略奪を目的に地球人を殺戮しまくる宇宙人は、アメリカという国土を手に入れる為にインディアンを殺戮しまくったヨーロッパ人――現アメリカ市民の先祖とも繋がる。宇宙人が制空権を確保し生き残った人間を虐殺する為に使う無人兵器は、アメリカがイラクアフガニスタンで使っているリーパーやプレデターといった無人航空機のようだ。


つまり、これはアメリカVSアメリカという話なのだな。約70年前の「ロサンゼルスの戦い」が自らの怯えが作り出した幻影との戦いであったように、現在の映画の中の海兵隊は自らの妄想が作り出した影法師と戦うのだ。命令を無視して英雄的な活躍をした主人公が上官から「ジョン・ウェインになろうと思うな」と注意されるシーンなぞ、脚本家がどこまで狙って書いた台詞なのか分からないが、自分には秀逸に感じられた。



ただ、残念なところが二つばかしある。
一つは、せっかく舞台をロサンゼルスに設定しているのに、ロサンゼルスにみえないところ。あんな警察署やオフィスなんて、世界中のどこにもあるよなぁ。廃墟と化したディズニーランドで戦えとまでは言わないけれど、ロサンゼルス空港とか、ビバリー・センターとか、ウェスティン・ボナベンチャー・ホテルなんかが破壊されるさまを観たいんだよね*2
もう一つは、やっぱりハッピーエンドなところ。もうちょっと苦い終わり方をしてくれれば、『宇宙戦争』や『モンスターズ』を超えられたのになと思う。


何故、苦いエンディングの方がいいかって? そりゃ、現実が苦いからに決まってるじゃないか!!

*1:このことを念頭におくと、一発の銃弾も発射されず一発の爆弾も爆発することなく、単にビルに民間の飛行機がつっこんだだけといえる911を、テロではなく戦争行為と認識したアメリカ人の心情がよく分かる。あれは、多くのアメリカ人にとってテロリストの上陸作戦が秘密裏に進行してることの象徴と映ったのだ

*2:ここいら辺、『インディペンデンス・デイ』や『ボルケーノ』は上手かった