「岡田斗司夫のひとり夜話3」その2

(前回の続きです)

明日の広告

  • 前回、ここでの自分のトークは卸売りのようなもので、ブログに書く皆さんというのは小売店のようなものだ、という話をした。

  • つまり、単に「岡田斗司夫→観客」という情報伝達モデルを頭に浮かべていた。だが、あれからよく考えた結果、これは違うと反省した。
  • 「明日の広告」という新書を読んだのだが、消費者はターゲットでなくパートナーであるということが書かれていた。

明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)
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  • たとえば、スーパーボウルのCM。アメリカ国民全員が観るような試合なので、広告料が世界一高い。これまでは大手企業が大金をかけて作ったCMを流すのが普通だった。そんなスーパーボウルのCM枠で、素人が作ったCMが、それもYoutubeで公開されるようなCMが流れ、スーパーボールの全てのコマーシャルの中から選ばれる最優秀CMに選ばれたりする。

全員パートナー

  • 最早世の中にカスタマーはいない、全員パートナーだ!というのが「明日の広告」主旨であった。

  • これを読んで考えを変えたのだが、「岡田斗司夫」というのは情報のノード、結節点の一つに過ぎない。「本や昔の経験→岡田→個人」というのが新モデル。

  • もっといえば、本当は卸問屋もメーカーや工場に発注をかけて買い取った商品を、個人やショップや小売問屋に売るノードの一つに過ぎない。個人もオークションで別の個人に者を売ったりするので、最終消費者とは限らない。
  • だから僕も今後皆さんを客と考えません。パートナーと考えます。
  • 岡田斗司夫」は、ある意味会社。本やブログやテレビやこのようなトークイベントを通じての情報伝達、これ全て「岡田斗司夫」。

  • 岡田斗司夫」という会社にとって人間岡田斗司夫は社長に過ぎない。社長としてかなりの権力があるけれど、全体を支配しているわけではない。
  • 今や全員が社員であり、社長である時代。僕も、「岡田斗司夫」という会社の社長であると同時に、何かの社員でもある。
  • たとえば小飼弾の本を読んで「面白い」という感想をTwitterで書く時、僕も「小飼弾」という会社の社員になっている。
  • 「社員」という表現が分かりにくかったら、「雑誌のライター」でも良い。僕は「岡田斗司夫」という雑誌の編集長。でも、雑誌を実際に作るのはライターやデザイナー。グラビアの女の子に誰を起用するかで、雑誌のイメージがかなり変わったりもする。
  • たとえばレコーディングダイエット。自分は「レコーディングダイエット」の管理人に過ぎない*1。チンピラじみた義理の息子が「美空ひばり」の管理人をしているのと同じ(笑)。
  • レコーディングダイエットのコメント欄がとても面白い*2。これから出す本に反映させたいのだが、コメントくれた人の名前をどうにかしてクレジットしたい。今後はそういう正しくてフェアなやり方しか生き残らないだろう。

人間とはメディアである

  • 皆もブログを書いた方が良い。情報を入力するだけでなく、適度に出力してバランスとるべき。
  • でも、Twitterは適度なところで辞めなくては。電車の中で独り言つぶやいてるオヤジと一緒になる(笑)。
  • そういうわけで、今日皆さんに提供したいのは以下の三つ。
    1. 中身と動機(ブログを書くモチベーション)
    2. 実利(アクセス増えるとか)
    3. 遊び
  • ここで今日の話の結論を先に話す。「人間とはメディアである」、「人間とは、情報/状態/関係のみで生きているヒト意識という名のウイルスである」

人生の意味-1

  • 動物は孤独を怖がらない。しかし、人間は孤独や意味の無い死を怖がる。国の為に死んだり、子供に臓器を提供したりする。子供を守る為とか、抽象的なものの為に死ぬことができる。
  • 動物はスタンドアローンで動物である、最近の学説では違うけど、とりあえずそういうことにしてほしい。しかし、人間は違う。
  • それは、本能が壊れているからという説がある。「人間は本能の壊れた動物である」といっていた。「ものぐさ精神分析」という本で、第一次性徴期にセックスできないから、本能が壊れてヘンタイになるのだと書いていた。その上で、「ヒト」+文明=人間である、という。
  • だが、本当にそうなのか?本能を備えているのが生物。本能の壊れた生物などいない。文明は本能の代わりにならないのでは?
  • 人間をソフトウェアにたとえるのはよくある話。これを発展させて、「人間=ヒトとヒトの間」、関係が人間の本質ではないか?という仮説について話したい。

人生の意味-2

  • バックミンスター・フラーという人が考案したテンセグリティー構造というのがある。棒と棒とが繋がっておらず、糸のみで繋がっている。張力と圧縮力が釣り合っており、上から押すと潰れるが、すぐ元に戻る。つまり、力とベクトルで繋がっており、中心が無い。
  • もう一例。どんな物質も分子、原子、素粒子……と細分化していくと、最後は質量とスピンになる。つまり、質量と周囲の空間との関係のみになる。
  • 人間の意識というのもこれらと同じで、周囲との関係の中で生きているだけなのではないか?
  • この場合、「無意識」は下部構造になる。無意識から意識が発生するのではない。
  • デカルトのいう「我思うゆえに我あり」は間違い。
  • 睡眠欲、食欲といった生存に関する以外の欲望は、模倣や影響でしかない。
  • 生存に関する欲望は非常事態のみでしか出てこない。日常では表に出ない。日常での意識は中心が無い。

人生の意味-3

  • 「人間とは、情報/状態/関係のみで生きているヒト意識という名のウイルスである」として、このウイルスの集合体が「文明」ではないか?
  • 文明には「生きたい」、「増えたい」といった本能と呼べるものがある。ブログでちょっとiPhoneのことを書いたら、一文の得にもならないのに「iPhone良いですよ!」というお薦めや擁護がガーとっくる(笑)。これは「iPhone文明」の繁殖行動といえる。
  • iPhone文明」「大和魂文明」……それぞれの価値観ごとに文明が存在する。文明が自らを維持するためなら、構成要素であるヒト意識が一部消失するのも厭わない。たとえば戦争。
  • ヒトは「文明」を伝える為のメディアでしかない。僕らに本能があるのではなく、上位構造である「文明」に本能があるのだ。
  • ただし、生存と繁殖のことしかことしか考えない、かなり下等な生命体。

人生の意味-4

  • 20世紀型の「文明」は、他の「文明」の構成要素を殺して減らすことしか考えていなかった。
  • しかし、21世紀型の「文明」は一つのヒト意識の中に複数の文明が共存するようになった。iPhone文明:20%、大和魂文明:50%、アニメージュ文明:30%とか(笑)。
  • このように変化した理由は「文明」の発達。メディアとかインターネットとか、世界レベルで情報伝達が発達したから。
  • だから「文明」は戦略を変更し、ヒト意識を殺すのではなく、一つのヒト意識の中でシェア争いするようになった。最早、100%大和魂とか100%キリスト教とか、100%なにかを信じる時代では無くなったのだ。

人生の意味-5

  • 「文明」はヒト意識に生き甲斐や生きる意味を与えてくれる。でも、幸せを保証してくれるわけではない。個人個人としてはそれなりに喜びもあり、悲しみもある。寄生生命体は寄生生命体なりに幸せに生きたい。
  • でも、それぞれの「文明」はヒト意識を100%幸せにしてくれなくなった。「アンパンマン」の主題歌「アンパンマンのマーチ」に、「何のために生まれて何をして生きるのか答えられないなんて そんなのはいやだ」という一節があるが、まさにそれ。アンパンマン凄い!(笑)
  • じゃ、何をすれば幸せを感じるのか?「伝えること」ではなかろうか?
  • ヒト意識にとっての本能とは「うけとる」→「中心を見つける」→「アレンジする」→「広める」の四つなのではないか。丁度、生物のDNAがグアニン、アデニン、シトシン、チミンの4種の塩基を用いて情報伝達するように。
  • 「人生の取り扱い説明書」にて、人間の性格を「軍人」「王様」「職人」「学者」の四種に分類して説明した。これはそれぞれ「勝て」「目立て」「純化させろ」「守れ」に対応する。これも4種の塩基やヒト意識にとっての本能に対応する

*3
人生テスト―人を動かす4つの力
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人生の意味-6

  • ジーンとミームという考え方がある。遺伝子、すなわちジーン(gene)と、知伝子とか模倣子とか訳されるミーム(meme)。ジーンは塩基配列を媒介とするのに対し、ミームはヒトの脳を媒介とする。
  • 文明同士の戦いががヒト意識の中でのシェア争いに変化したように、生物における情報伝達もジーンとミームに細分化されるようになった。
  • ヒト意識は本能が充足されれば幸せを感じる。
  • つまり、「受け取って」「考えて」「真似して」「伝える」ことが人生の意味。色々考えたけど、僕にはこれ以上の人生の意味がみつからなかった。
  • だからこそ人間は孤独な死を何よりも怖れる。誰にも分かって貰えないことを苦痛だと感じる。
  • そういうわけで、我々の乗り物である「ヒト=肉体」を大切に!これで活動効率も決まる。車が快適に動くからドライバーになれる。車が動かなければ免許を持っていても何にもならない。だからダイエットの本も書いた。
  • おばあちゃんが家の前を掃いて掃除しているのが好き。ジーンとしての意味は無いが、他人に見られて模倣されるミームという意味はある。「家の前を掃く」というミームを伝えている。言葉でなく、行動こそが最も強いミーム
  • だから人間は無人島で一人で死ぬことを最も怖がる。
  • 時々無人島に行きたくなる(人間が現れる)のは、ミームの圧力があまりにも強くて脱したいと思うから(笑)。

ブログを書く意味

  • 皆もブログ書いた方が良いよ、というのはそういう意味。
  • 何か受け取った時は、出した方が健康に良い。このトークイベントですら、Twitterで実況する人がいるのも当たり前。この脳の生化学的状態が5年後、10年後に消えていくと考えたら、伝えずにはいられない。そういうのはブログが良い。
  • ここにいるのはヒトという生き物で、それにはあまり意味が無い。

岡田斗司夫2.0

  • 「文明」同士の覇権争いが潰し合いでなくシェア争いになった契機は、おそらくグーテンベルクの活字革命。印刷された文章を読んで「こういう考えもあるのか!」と気づくようになった。
  • 現代では、戦争に負ければ、文化が無くなる。たとえば、アメリカとの戦争に負ければマックだらけ、ハリウッド映画だらけになる。
  • しかし、ヒト意識に勝者も敗者もいない。もっと上のステージである「文明」で勝敗争いをしているだけ。その勝敗と個々のヒト意識の幸せ不幸せとは関係無い。
  • たとえば「岡田斗司夫文明」。「岡田斗司夫文明」に侵略されたらそれまでの自分は無くなるのか?そうじゃない。皆は小売り人だがセレクトショップでもある。棚の並べ方に個性がある。
  • 岡田斗司夫」はミッキーマウスみたいなもの。ディズニー社のスタッフが一緒に協力してミッキーという存在を作る。でも、宗教じゃない。
  • だから、今後皆さんに僕の方から「レジュメ」と「リンク」という二つのツールを提供します。このトークの内容を皆さんがブログに書く。でも、レジュメそのままじゃ駄目ですよ。それに対して、僕が自分のブログからリンクを張る。僕は「岡田斗司夫」が広がって嬉しい。皆は自分のブログのカウンターが廻って嬉しい。
  • つまり、「岡田斗司夫2.0」とは、オープンアーキテクチャー。

ぼくたちの洗脳社会2

  • 実は、これを思いついたのは14年も前。「ぼくたちの洗脳社会」の続編ではこういうことを書こうと思い、「Meaning of the life(a lifeだったかも。英語難しい)」という副題も考えた。準備として「人生の取扱説明書」を書いた。でも、レコーディングダイエットやその他の形でアウトプットしたので、もう書く必要が無いのかもしれない。

ぼくたちの洗脳社会 (朝日文庫)
4022612444

質疑応答

  • Q:ブログ書くと次の日に影響が出るので辞めちゃいました。
  • A:でも、それが「人生の意味」だから。
  • Q:何故「ノート術」の話を奈良でしかやらないのか?
  • A:何回かやらないとまとまらない。
  • Q:東浩紀が「民主主義2.0」ということを言っていて、それに近いと思うのだがどうか?
  • A:そんなこと言ってんの!?うーん、これはオープンソースなので、君が考えるんだ(笑)。東さんと話すのは君が担当ね(笑)。
  • Q:前回「新劇場版エヴァンゲリオン」についてしつこく質問したことを謝りたい。
  • A:いや、僕も悪かった(笑)。営業部員があんなに頑張っていたのに(笑)。
  • Q:家の前を掃除するというミームのように、文章よりも行動の方がミームとして強い理由は?
  • A:言語化されない分、抽象化されてないから。
  • Q:影響を受けた人物は?
  • A:色んな人に影響を受ける。岸田秀の他に、最近では勝間和代に弾小飼。昔からでいうと橋本治
  • Q:筋金入りのニートの彼女と同棲しているのだが、自分でも同棲してる理由が分からない。やっぱり愛ですかね?
  • A:うーん、「愛」以外の理由を10コ考えてみよう(笑)。いや、ものの考え方の基本はこれですよ。
  • A:「恋愛の経済学」でいうと不良債権(笑)なわけだけれど、女性の方は自分の市場価格が下がっているという現実を直視したくない筈。その上で君が同棲している理由はなんだろう?彼女が駄目になるさまをみて安心するとか(笑)。


(次回、感想に続く)