井口昇は改造人間である:「ロボゲイシャ」

映画監督、井口昇は改造人間である。彼を改造したイメージフォーラムや劇団大人計画平野勝之映画秘宝は業界征服を企む悪の秘密結社である。ある時井口昇は思う、狭い業界内での評価ばかり気にしていて良いのか、自分には、映像を通して本当に伝えたいことがあったんじゃないのか、と。井口昇はボンクラ男子の夢と希望の為、日夜戦っているのだ!


……と、思わず上記のようなうがった見方をしてしまう「ロボゲイシャ」。本当に本当に面白かった。最後の最後に冒頭のアクション・シーンが全くの異次元空間での出来事であったと判明する考えオチも良い。全作品を観た分けではないのだが、現時点で井口昇の最高傑作なのではないかと思ったよ。


前作「片腕マシンガール」もそうだったのだが、「ロボゲイシャ」はパロディや下品ギャグや安いお色気満載のB級アクションでありながらも、どこか一本筋の通った内容に感じられる。それはやはり、井口昇がどこまでも本気だからだろう。同様にパロディが一杯で、同様にB級映画にオマージュを捧げ、撮影現場はさぞかし楽しさで一杯だろうなと想像しつつも、観てるこちら側としてはそれほど楽しくなかった「山形スクリーム」や「ドゥームズデイ」とはその一点において異なる。


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たとえば前作「片腕マシンガール」では、片腕カンフーじゃなかった片腕女子高生アミが、サイコガンばりにマシンガンを装着して、弟を殺したいじめっ子に復讐するという、粗筋だけ書くとどこからどうみてもB級アクション映画であったが、そこには井口昇の本気さがあった。井口昇はいじめられっ子であったことを公言しているので、「いじめへの恨み」や「復讐」だけならまだ分かる。だが、アミが復讐としていじめっ子を殺すと、その親たちが「息子の恨み!」とスクラムを組んで立ち向かってくるに連れて、話は予定調和を逸脱する。そこで描かれるのは「復讐の連鎖」だ。
B級アクションプラス「復讐の連鎖」ならば、一昔前の香港映画でもやっていた。驚くべきは、その「復讐に対する復讐」が、「遺影を胸にプリントしつつ、アメフトのプロテクターを装着してバトルを挑んでくるモンスターペアレンツ」という姿で描かれることだ。ここに至って我々観客は、それまで通りバカ映画として笑うべきなのか、それとも「復讐は復讐を呼ぶ」という真摯なテーマに感じ入るべきなのか、本気で悩むこととなる。


この要素は「ロボゲイシャ」でも健在であった。以下ネタバレ。


とある芸者姉妹が世界征服を企むショッカーじゃなかった影野製鉄に拉致・誘拐され、殺人サイボーグとして改造されるも組織を裏切り、姉妹間の愛憎を越えて戦う!……というのが「ロボゲイシャ」の粗筋だ。ここまでは外人にウケの良い「ゲイシャ」プラス「仮面ライダー」や石森ヒーローのパロディとしてのB級アクションとして、通常の発想に思える。
ところが映画も中盤になると、裏切りの契機として「拉致被害者家族会」なんてものが出てくるのだ。今回は遺影ならぬ「この子を探しています!」Tシャツを着ている辺り、前作とカブる笑いかな?とも思う。しかし、「ロボゲイシャ」には主人公のライバルとして「天軍」なる天狗のお面を被った半裸の女戦闘員が登場するのだが、彼女達もまた拉致・誘拐された被害者であり、「拉致被害者の会」会長の家族であるという展開に及ぶに至り、背中にむず痒いものを感じる。そして、家族愛よりも組織の力学が優先され、家族が家族をそれと知らずその手にかけるというシリアスな事態が、生田悦子演じる巣鴨にいそうなおばあちゃんが二丁拳銃で天狗のお面を被った水着女を撃ち殺すという、笑うべきなのか感じ入るべきなのか本当に困ってしまうシーンへと続くのだ。


本作をお気楽B級アクションとして考えた場合、「拉致被害者家族会」のくだりは不適当だと感じる。変な生々しさや収まりの悪さを感じるのだ。しかし、この部分が主人公に姉妹間の愛憎を超越させる映画的転機として上手く機能していることも確かだ。つまり、そこに井口昇の単にパロディやオマージュで誤魔化すのを良しとしない、一種の本気さや表現者としての切実さを感じるのだ*1


これは完全に私の想像なのだけど、きっと井口昇は日本の金のかかってない特撮や、香港のB級カンフー映画なんかを爆笑しながら観ている最中、予想外にも作り手の真剣さが表出するシーンに出会い、不覚にも感動してしまうという経験があったんだろうな。で、自分が表現者として映画を作る際、そのことだけは絶対に忘れないように心掛けているのだと想像する。


ロボゲイシャ」は決してクオリティの高い作品ではないし、安っぽくて下品な笑いに満ちているけれど、それでも一種の格調高さみたいなものを感じる。今後何十年にも渡って、カルト作の一つとして愛されるだろうと断言できる。この映画を嫌いなんて言う輩と友達になんかなりたくないぜ!……と口にしようものなら、女子とは永遠に友達になれなさそうな気もするが。

*1:そこいら辺が「日本のタランティーノ」と呼ばれる所以であるとも思う