ブルマンガ家200X

ブルマー200X―日本語版 (Wani magazine comics special)
SABE
4898294944


 唯一無二のブルマンガ家、SABE先生が1月に亡くなっていたらしい。


http://www.wani.com/newsrelease.php


SABEの逝去が発表される。享年41歳 - コミックナタリー


 「COMIC快楽天」という雑誌がコンビニのエロ本コーナーに存在することを知っている方は多いだろう。あの雑誌が単なるエロマンガ誌でない時代が、確かにあった。だいたい5、6年ほど前までだ。村田蓮爾が表紙を担当していた時代、と言い換えても良い。


 表現というものがオリジナルな視点や価値観や世界観を提示するものである、と定義しよう。「COMIC快楽天」には確かに「表現」が満ち溢れていた。エロを名目に好き放題やっていて、その好き放題さが魅力だったと言い換えても良い。それは一、二世代前に山本直樹などがやっていた好き放題さとはまた趣が違っていて、若干グラフィカルでフェティッシュ寄りなものだったのだが、それもまた時代を反映していたのだ。「COMIC快楽天」はOKAMA道満晴明朔ユキ蔵を生んだ、と書けば分かって貰えるだろうか*1


 さて、「COMIC快楽天」はかように特殊な雑誌であった*2のだが、SABEはその中でもまた特殊な存在であった。
 エロマンガにおけるオリジナリティとは何か?著者の「エロ」や「暴力」が既存の価値観と異なるものであれば、それをそのまま描けば良い。もしくは、「エロ」や「暴力」を描きつつ、「エロ」と「暴力」以外のものを入れ込むとか、エクストリームでアウト・オブ・オーダーな「エロ」や「暴力」を描ききる、なんて方法もある。
 もう一つ、エロマンガには一つの定型とでもいうべきものがある。男と女が出会って、セックスして、「ひぎぃ!イクっ!!」みたいなコマがクライマックスに来るようなやつだ。実用に足る、というタイプなのだが、一時期の「COMIC快楽天」はほぼ全てのマンガがこの定型を外していた。


 しかしながら、SABEの唯一無二な点は、「エロ」や「暴力」が基本通年として存在する世界で、ギャグマンガをやるということだった。SABEのマンガにはブルマー大好きとかフード女萌えとか下痢の腹痛に耐える女子に興奮するとかペンギンを虐殺したいとかいった「エロ」や「暴力」が満載であるのだが、それを読者にそのまま提示して興奮させるのではなく、あくまでギャグのネタとして処理していたところが特徴だった。だから、SABEのマンガに登場するキャラは全員非常識で変態で投げやりで煮詰まった行動を繰り返すのだが、アブノーマルな行為が繰り返されてもどこかほのぼのとしていた点が最大の魅力だった。


 いうなれば、SABEのマンガは「COMIC快楽天」における「しあわせのかたち」だったんじゃないかと思う。そうだ、SABEエロマンガ界の桜玉吉だったのだ。


 そして、桜玉吉が現在作品を発表していないことと、SABEがこのような形で作品を発表できなくなったことに、奇妙な相似形を見出してしまうのだ。
 作品が読めないというのは、辛い。

*1:勿論、グラフィカルでもフェティッシュでもない単なるエロマンガがくだらないなんて言うつもりはない。

*2:ここ数年購入していないので、現在は分からない。もしかするとまた別の意味で特殊なエロマンガ誌になっているかもしれない