このマミさんなら結婚できる:『巴マミ1○年後』と『巴マミの平凡な日常』

皆さんもよくご存知のことと思うのだが、『月刊ガンダムエース』という雑誌がある。ガンダム関連マンガ誌というか、オフィシャル化した二次創作マンガを載せる雑誌だ。
これまでも『ケロケロエース』とか『マクロスエース』みたいな雑誌が出版されてきたわけだが、昨年の6月から『魔法少女まどか☆マギカ』版の『ガンダムエース』とも呼べる『まんがタイムきらら☆マギカ』が出版されてるわけですよ。
まんがタイムきらら☆マギカ vol.10 2013年 12月号 [雑誌]
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で、この『きらら☆マギカ』で一番面白いといわれている『巴マミの平凡な日常』が先日単行本として発売されたので、ご紹介したい。


巴マミの平凡な日常 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
あらたまい Magica Quartet
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巴マミの平凡な日常』は、本編から十数年が経ち、アラサー独身派遣社員になったマミさんの生活を描くマンガだ。まどかやほむらといった魔法少女仲間は次々と結婚していく。杏子やさやかに至っては既に子供がいる。そんな中、我らがマミさんは未だ独身。魔法少女仲間と女子会をする時は肩身が狭いので彼氏がいるとウソまでつく始末だ。
で、そんなマミさんを主役に、「部屋が散らかってる」とか「帰宅後の楽しみは缶ビール飲みながらのテレビだけ」とか「冬は中学のジャージ、夏はキャミソールにパンツが室内着」とかいった、独身アラサー女子あるあるネタが展開されていくわけなのだが、はっきりいってアラサー女子の日常を描いたマンガとしては、ネタがヌルいし、画も微妙なんだよね。
でも、面白いかつまらないかでいったら、面白いんだよ。それも、抜群に。
そう感じているのは自分だけではないらしくて、Amazonでもhontoでも長い間入手困難状態が続いていたのだが、それも納得だ。


まず、二次創作としてよく出てきているのが良い。アラサー女子の日常を描くギャグマンガなので、一見すると『まどマギ』ネタが薄かったり、他の魔法少女が出てこなかったりして、『まどマギ』関係ないじゃん! みたいな回もある。だが、マミさんがアラサーになっても独身という時点で、すでに『まどマギ』の本質を掴んでいるのだ。
安達祐実えなりかずきが子役の時点で既にアラサーの雰囲気を醸し出していたのと同じように、『まどマギ』本編の時点でマミさんは実質的に一人暮らししている30代のようなキャラクターだった。「ひとりぼっちで戦うのは寂しい」というような台詞を吐くにも関わらず、ほむらにとってのまどかや、さやかにとっての杏子のようなキャラクターがいない、ひとりぼっちのキャラ――いわゆる「ぼっちキャラ」として認識されることが多かった。そんなマミさんが30代を越えても「ぼっち」であることに何の違和感があろうか。いや、ない。
ただ、そんなマミさんは、彼氏や夫がいないことへの寂しさや、将来に対する不安はあるものの、わりと一人暮らしを楽しんでいるんだよね。毎晩テレビのバラエティー番組を観ながら缶ビールとで晩酌を楽しみ、おかずには必ず惣菜コーナーの唐揚げを用意し、ダイエットの為にジョギングしたかと思えばひとり焼肉を楽しむ――そこに自虐の笑いはあれど、悲壮感や切迫感はそれほど感じないのだ。
ここ数年、アラサー女子の「あるある」をネタにしたマンガやエッセイが沢山発表されている。たとえば峰なゆかの『アラサーちゃん』や、犬山紙子の『負け美女』などだ。アラサー女子ネタの面白さとしては、峰なゆかや犬山紙子の方が、よりエッジに近づいているというか、極地で戦っているというか、「これまでに無かった視点」を重視していて、面白い。
ただそれだけに、アラサー女子でないおっさんの読み物としては、作者が背負っているものというか、カルマというか、世の中に叩きつけようとしている良い意味での悪意*1が重過ぎて、ちょっと疲れてしまう場合もあるんだよね。
私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな (一般書)
ジェーン・スー
4591136205

ジェーン・スーの『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』なんて、アラサー女子の「自虐」や「自嘲」が一周回った「他罰」が、更に一週回った「自罰」が凄すぎて、この人このマインドでこの先生きていって大丈夫なのかと心配になってしまうくらいだ。


その点、『巴マミの平凡な日常』は、アラサー女子マンガとしては適度にゆるくて、安心して楽しんでいられるんだよね。作者のカルマに侵食されない按配のゆるさ、と表現するのが適当か。
Twitterをみると、作者のあらたまいは現在「二児の母」らしいが、それも関係しているかもしれない。
たとえば、マミさんが美味しそうにチョコやらさくらんぼやらを食べるさまは『花のズボラ飯』を連想させられるのだけれど、『花のズボラ飯』の原作も作画も男性で、「男性の視点からみたこうあってほしいアラサー女子」のゆるさと楽しさ(とエロさ)を描いていた。それと同様に、『巴マミの平凡な日常』は「既婚女性の視点からみたこうあってほしい独身アラサー女子」を描いている、といえるのかもしれない。まぁ、あらたまい先生に旦那がいるのかシングルマザーなのかは定かではないのだけれど、本作を読んでいると「独身生活って時々寂しさも感じたけれどあれはあれで良かったよなー」などどニヤニヤしてしまう。
そう考えると、本作は『まどマギ』の二次創作であると同時に、「独身アラサー女子マンガ」の二次創作であるともいえるのかもしれない。カルマが重そう――なにかと面倒くさそうな峰なゆかや犬山紙子と結婚したいとは思わないが、アラサーマミさんとなら結婚したいね!



そんなわけで本当に面白いマンガなのだが、残念なこともある。本作は『巴マミ1○年後*2』というタイトルの同人誌が元になっており、「アラサーマミさん」シリーズなどと呼ばれていたのだが、同人誌版の方が面白いんだよね。
時系列に沿って語ると、元々同人業界で話題になっていた「アラサーマミさん」シリーズに『まどマギ』製作委員会にも参加している芳文社が目をつけ、商業誌に引っ張ってきたという流れなのだが、編集者が変なアドバイスをしたのか、作者が間違った方向にやる気を出してしまったのか、「アラサーマミさん」シリーズが持っていた面白さが一部スポイルされてしまった部分もあるんだよね。
顕著なのは『巴マミの平凡な日常』一話と二話で、同人誌版で面白かった「マミさんの視点で語る」「マミさんの自室内を中心に話が進む」という要素を放棄してしまってるんだよね。作者もそれに気づいたのか、三話目以降はこの二点を堅持しているのだけれど、無理して『まどマギ』本編ネタを入れなくてもいいのに〜などとどこかで感じながら単行本を読んでしまった。


ともあれ、まだ連載は続いているし、どんどん面白くなってるしで、二巻以降が楽しみでもあったりする。芳文社はいっぱい刷るように。「いきなりジョギングするとダメージをくらう」みたいな巨乳ネタもいっぱい増やしてくれると嬉しいぞ!

*1:絶対に必要なものだと思う

*2:○の中には数字が入り、7〜9の数字が入る