追記

芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2 (角川ホラー文庫)
江戸川 乱歩
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 原作を読み直したのだけれど、先に挙げたキャラデザインその他について、恐るべきことに原作にある要素を残らず拾っていた。


砲弾の破片のために、顔全体が見る影もなくそこなわれていた。左の耳たぶはまるでとれてしまって、小さな黒い穴が、わずかにその痕跡を残しているにすぎず、同じく左の口辺から頬の上を斜めに眼の下のところまで、縫い合わせたような大きなひっつりができている。右のこめかみから頭部にかけて、醜い傷痕が這い上がっている。喉のところがグイと抉ったように窪んで、鼻も口も元の形をとどめてはいない。


 それはまるで、大きな黄色の芋虫であった。或いは時子がいつも心の中で形容していたように、いとも奇怪な、畸形の肉ゴマであった。それは、ある場合には、手足の名残の四つの肉のかたまりを(それらの尖端には、ちょうど手提袋のように、四方から表皮が引き締められて、深いを作り、その中心にぽっつりと、不気味な小さい窪みができているのだが)その肉の突起物を、まるで芋虫の足のように、異様に震わせて、臀部を中心にして、頭と肩とで、ほんとうにコマと同じに、畳の上をクルクルと廻るのであったから。


 凄いのは、ここまで原作通りでありながら、最終結果としての漫画は、どこからどうみても丸尾末広の「作品」であるということだよな。