芋虫プレイ

コミックビーム 2009年 06月号 [雑誌]
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 森薫入江亜季岩原裕二といった比較的おサレな作家がFellows!に移籍して泥臭さの増した感のあるコミックビームであるが、今月号の新連載には度肝を抜かれた。



 なんと江戸川乱歩の「芋虫」を丸尾末広が漫画化。丸尾末広は以前もビームで乱歩の「パノラマ島綺譚」を漫画化していて、その時は鼻くそほじりながら「あー、この組み合わせはピッタリDAYONE〜!」なんて偉そうに講釈垂れていたのだが、この「芋虫」は連載一回目にしてスゴい。スゴすぎる。


芋虫 (BEAM COMIX)
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 こんなコマが掲載されている雑誌を、市中の本屋で堂々と買えることが事件でなくて、何を事件というのか。
 まず、なによりも、キャラクターデザインが考え抜かれている。口の端の歪み具合とか、頭頂部まで達した創傷とか、顔のみならず体に書き込まれる戦傷の痕とか、一見して理性を保っているのかどうか判断しかねる須永中尉のキャラデザインが本当に秀逸だ(確か、原作)。
 他にも、ボロい日本家屋の六畳の部屋にゴロリと寝かされる肉塊の哀しさとか、現実と妄想、現在と過去が、蛙の鳴き声や戦勝パレードと共に錯綜するコマ割りとか、文章で長々と書いても伝わりづらいこと(小説というメディアでは乱歩がやれなかったこと)を、一枚の絵でみせる表現力が壮絶だ。


パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)
江戸川 乱歩
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 「パノラマ島」は手塚治虫文化賞を受賞したのだが、こちらも話題を呼びそうな感じがする。や、たとえ誰の評価を受けなくても、私だけは傑作であると評価したいねぇ。いちブロガーの評価などいらんか。


乱歩地獄 デラックス版 [DVD]
江戸川乱歩
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 「芋虫」は映画「乱歩地獄」の一篇として映像化されたことがあるのだが、あの時の大森南朋のつやつやな肉体や、理由無く無国籍な舞台設定と比べて、丸尾末広の仕事の如何に素晴らしいことか。


芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2 (角川ホラー文庫)
江戸川 乱歩
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なお、乱歩は本作を妻に見せたところ、「いやらしい」と言われたという。また、本作を読んだ芸妓のうち何人もが「ごはんがいただけない」とこぼしたともいう。

芋虫 (小説) - Wikipedia

 上記の「いやらしい」とか「ごはんがいただけない」とかは、江戸川乱歩にとって褒め言葉だと思うのだが、おそらく同様の言葉を丸尾末広も受けるのだろうな。


 それにしても、同じく新連載のいましろたかしとか、杉浦茂の短編を特別掲載だとか、マーケティングで漫画作れるなんてウソだろ?という雑誌作りを十年以上続けているのが凄いよな。や、来月号が待ち遠しいよ。読もう、コミックビーム