やりすぎ格闘王を待ちながら

 やりにげた頃からの「やりすぎコージー」ファンなのだけれど、今年に入ってからの「やりすぎコージー」がちょっと変だ。
 以前ならば一回の放送で頭からケツまで放送していたであろう内容を細切れにし、毎週毎週少しずつ放送している。数年前の「ロンドンハーツ」もこんな形式になった時期があった。そんなに予算が無いのか。或いは、一回の放送で多様な芸人を出すことでそれぞれの芸人についている固定ファンをとりこみ、少しでも視聴率を上げようとしているのか。


 正直な話、この番組が続いてくれるのならば放送形式はどうでも良いのだが、それにしても「第3回やりすぎ格闘王決定戦」の決勝戦はいつ放映してくれるのだろうか。
 2月2日に1回戦、2月9日にエキシビジョンマッチという名のプロレスと準決勝戦を放映したっきり、決勝戦の放映が無い。先週の予告では「いよいよ来週決勝戦を放映!」なんてアナウンスしながら、今週も遂に放送せず仕舞いだった。なんか問題でもあったのかねぇ?


 なんでこんなにも「やりすぎ格闘王」が気になるのかというと、勿論大好きな「やりすぎコージー」の中でもとりわけこの企画が好きだからだ。
 ただ、私は普段全く格闘技を観ないし、野球やサッカーといった他のスポーツも観ない。それなのに何故「やりすぎ格闘王」が好きかについて、若干の説明が必要かもしれない。


 お笑い業界ってのは、能力の低いものや弱者が即敗者とならないところに面白さや魅力があると思う。
 例えば山崎邦正。もし山崎のような(正確に表現するのならば山崎がバラエティーで演じているような)人間が自分の学校や職場や家庭にいるとしたらどうだろう?見えざるクラス内カースト制度や職場内の人間関係において低い位置にいて、時に蔑まれたり、時に嫌われたりするであろうことは間違いない。
 しかし、現実の山崎邦正は番組内で嫌われることがありさえすれ、業界内では嫌われているどころか売れっ子だ。スベリ芸やリアクション芸のオーソリティーとして若手芸人のレスペクトを集めつつ、きちんと結婚をして二児を儲け、そこいら辺のサラリーマンの何倍もの年収を稼いでいる。
 他に、出川哲朗松村邦洋、といった、「ヘタレ」「ヨゴレ」「いろもん」等に分類される芸人が代表例だろう。アメトークにおけるワッキーや木村明浩や小島よしお、昨年のM-1決勝におけるザ・パンチなんかにも同じことが言えるだろう。


 しかし、どんな業界にも勝ち組と負け組、上流と下流、強者と弱者がいるものだ。お笑い業界にも、どんなに頑張ってもそこそこの評価しか貰えない人や、いつの間にか全くテレビに出なくなった人が数え切れないほどいる。「ヘタレ」や「ヨゴレ」や「いろもん」に分類される芸人でも、それは同様だ。

 そういう人達は実社会で負け、お笑い業界で負け、二重に負けていることになるのだろうか。多分、そうだろう。しかし、そういう人達も数年に一回輝ける時がある。その一つが「やりすぎ格闘王」だと思うのだ。


 たとえば今回決勝に進んだずんのやす。内Pでも「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」でも、正直イマ二つみたいな感じだった彼が、こんなにも魅力的にみえるさまを、私は初めて観たよ!バイキングのアキを多彩な技で攻め続け、レイザーラモンHGに辛勝した後に満面の笑みで「強い!」と叫んだ彼は、他の誰よりも輝いていたよ!
 同様のことはバイキングのアキやバッドボーイズの佐田といった、イマイチ売れていないし注目もされてないけれど「やりすぎ格闘王」では大活躍する芸人にもいえるのだが、特にずんのやすに顕著だ。ビデオで柔道の練習風景が写しだされていたのだけれども、「寝技といえばずんのやす!」と笑顔で語りつつ、もう本当に楽しそうに寝技の練習をしていた。実際に楽しいのだろうな。


 彼らが額に汗してリングの上で戦っているさまが笑えるかというと、全くもって笑えない。しかし、面白いことは確かだ。普段は二重にサエない彼らが、輝いてみえるさまは面白い。「面白い」というのは価値観の転換や裏切りなのだな。そして「やりすぎコージー」という番組はこれまでになかった価値観や視点を提示してくれる、良質な番組だと思う(同じことは「アメトーークにもいえる」)。東京で野生爆弾をレギュラーに起用しようなんて番組、なかなかないよな。



 さて、これは私の勝手な想像なのだけれど、もし今後ずんというコンビがこれ以上売れなくて、年収も芸能界の地位も今止まりであったとしても、柔道の練習ができる環境にあって、試合ができる状況にある限り、ずんのやすは幸せだと思うんだよね。


 しかも柔道ってのは、いや格闘技ってのは、一人きりで楽しむものではないよね。自らの肉体と技術を鍛え上げ、それを対戦相手にぶつけることで、一つのコミュニケーションをとる、相手と肉体と技で語り合う競技だよね。そして、同レベルの肉体と技を持った相手である限り、それは楽しくて楽しくて仕方が無いようにみえる。


 で、100年に一度の不況と言われる現在、我々凡人が幸せに生きるヒントはこういう所に隠されているのではないかと本気思うのだが、どうか?や、私も貴方も明日から格闘技始めよう!って意味じゃないですよ。
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