「岡田斗司夫のひとり夜話」その1

23日にロフトプラスワンで行なわれた「岡田斗司夫のひとり夜話」に行ってきた。
以前、ロフトプラスワンで行なわれた「遺言」や一回のみ行なわれた「寝言」イベントは大変面白くて、続きを楽しみにしていたのだ。
ただ、今回の「岡田斗司夫のひとり夜話」は若干印象の異なるイベントだった。以前はトークに熱くなりすぎて事前に用意したレジュメを消化できないことなんて当たり前だったのだが、今回は時間が押しているとみるやすぐに軌道修正。休憩時間に流す音楽の選曲に凝ったり、皆で替え歌を合唱する時間をとったりと、DVD化や後述する東京ドームでのイベント開催も視野に入れたかのような内容だった。


以下、いつものように印象に残ったことを中心にメモとしてまとめるが、いつも通り岡田斗司夫が言った内容そのままというよりは、自分なりにこう理解した、というまとめ方なのでご注意を。括弧内は私の感想だ。

事前に配布・回収した質問票を使用しての質疑応答

  • Q:プロデューサーにとって大事なことは何ですか?
  • A:自分より才能のある奴と口論することを恐れない。嫉妬しない。自分でものづくりしたいならディレクターになるべき。
  • Q:今年最もつまらなかった映画は何ですか?
  • A:「トランスフォーマー/リベンジ」
  • Q:「しんぼる」観ましたか?
  • A:観ていない。多分、映画館で観ない。
  • Q:テレビの観方を教えてください。
  • A:結構オヤジっぽい。やらせとそうでないものの境目を想像して楽しんだりする。

(会場で答えられなかった分については後日ブログにて回答)
岡田斗司夫のゼネラル・プロダクツ:「ひとり夜話」質問と回答
岡田斗司夫のゼネラル・プロダクツ:質問と回答2

本日の構成

  • 今までGYAOでやってきた流れを受け継いだ「ロジカルエンターテインメントショー」とでもいうべきものを目指している。僕の論理の流れを楽しんでもらえるようなイベントにしたい。
  • 全体的な構成としては
    1. つかみとして、先ほどの質疑応答
    2. ためになる話
    3. せつない話
    4. 盛り上がる話

……というふうに考えている

  • DVD化も考えているので、写り込みたくない方はカメラが首を振った時に顔を隠すなりなんなりして下さい(笑)。

ためになる話その1 キングオブコント2009について

  • キングオブコントの審査方法の決定には松本人志がかなりの割合で関与しているといわれている。真偽のほどは分からないが、現在のお笑い界の現状や、M-1やR-1といった他の賞レースへの問題意識からあのような審査方法になっていることは確かだろう。
  • たとえば、M-1グランプリはある意味お祭りである。予選で誰を決勝に上げるかが最も重要で、あとは当日の運とか順番とかが重要になってくる。評価軸にグラつきがある。また、審査員はお笑い界の大御所であるが、会場には若い観覧客が集められ、大御所にも若者にもウケの良い笑いが求められる。
  • たとえば、R-1グランプリ。R-1の審査員は芸人でない芸能人が多い。純粋なお笑いというよりも、大衆芸能としての面白さが審査の観点に入ってくる。お笑いマニアのためでないお笑いが評価される。
  • これらに比べて、キングオブコントの審査員は準決勝で敗退した芸人100人のみと、ある意味エリート主義といえる。普通、テレビ局がやる賞レースで、このような審査方式はとらない。現役芸人の審査員が1000点持っていたら、お茶の間審査委員に1000点、大御所芸能人審査員に1000点と振る。
  • というのは、テレビ局は視聴者にそっぽを向かれることを最も怖れるからである。視聴者に「私に関係ない」と言われたくない。
  • キングオブコントの審査方式は「○○が好き」とか「○○頑張ったね」といった観点からの評価、すなわち言い訳を排している。これは、ネガティブに捉えれば「テレビの前の視聴者には分からない」、ポジティブに捉えれば「やってる当事者が一番分かっている」という主張である。
  • 絵描きの世界にも同様の価値観がある。「オネアミスの翼」を製作していた時、まだ若手で動画の経験しかなかった貞本義行キャラクターデザイナーに起用することに異論が出たりした。だが、同じ絵描きであるアニメーター連中は問題ないだろうと言っていた。実際、問題なくて、かなり年配のアニメーターでも、貞本の絵をみせたら黙って年下のデザイナーに従った。大塚康生も、自分より上手な奴として、かなり年上である宮崎駿月岡貞夫と並び称していた。山賀くんも「絵描きは自分より上手い奴をみると尻尾が股の間に入るんですよ!」と言っていた。これは仲間うちで有能と評される者が上に立つべきだという、お笑いエリート主義と同様である。
  • しかし、一方でこれは危ういことでもある。お笑いブームが続き、芸人が芸人を評価する方式が大衆に受け入れられ、番組の視聴率がとれている間は良い。ここ五、六年というもの、日本のテレビ界は空前のお笑いブームが続き、司会者やアーティストといった他分野の芸能人までお笑い要素を持つようになった。
  • しかし、数字がとれなくなると、第二次大戦中の日本軍みたいになる。軍事のことは一般大衆には分からないと軍閥の間だけで物事を決め、自分たちの価値観を守るのに精一杯になる。
  • そういうわけで、キングオブコントの「テレビの前にいる君達ができることは、優勝者におめでとう!と言うことだけです」という価値観はかなり危うい。おそらくここがお笑いブームの頂点であろう。滅びの音を聞いたような気がする。

ためになる話その1 唐沢なをきマンガノゲンバ」取材拒否事件について

  • マンガノゲンバ」という番組はかなり丁寧に作られている。どうして漫画家になったのか?どういう遣り甲斐があるのか?どういうコンプレックスがあるのか?どのように漫画を書くのか?等々をテーマとして番組を作っている。普通、民放の番組じゃ「マンガの作り方」なんてやってくれない。取材期間も比較的長いだろう。
  • この番組に出演するということは唐沢なをきにとってもメリットがある。また、事前取材も済んでいるのに収録の途中で取材を拒否するというのはギリギリの話だ。漫画家としてのアイデンティティを脅かされるような事態だったと想像される。
  • この問題については三つの視点が考えられる
    1. 野次馬的視点:マズゴミ最低!取材対象を誘導尋問して思い通りの番組を作るなんてけしからん!
    2. 唐沢なをきを批判する視点:一旦OKした取材を途中で拒否するなんてルール違反!取材を受けるということも自己責任なのだから。それに、唐沢なをきだって漫画の為に取材して、実在の人物をカリカチュアライズしているじゃないか。
    3. ディレクターという名のクリエーター視点:毎週毎週番組をオンエアしているおれの身にもなってくれ。予備取材をベースにして収録してるのだから、それを拒否されたら番組制作が成り立たない。
  • 自分もテレビ絡みで不快な思いをした経験がある。「人生が変わる1分間の深イイ話」出演時の予備取材にていくつかプランを提示したのだが「痩せてから女にモテる」という話がディレクターに一番ウケが良かった。僕としては他の話をしたかったので食い下がると、持ち帰って会議にかけますという。でも、それは今考えてみると作戦で、本当に会議にかけたかどうかは分からないんだよね。で、結局女にモテる話をすることになった。
  • 収録当日、理由が分かった。同じゲストとして森光子が出演していた。森光子の話は全員「深イイ」としなくてはいけないという場の空気があった。つまりバランス的に、森光子以外で「う〜ん」と評価されるゲストがいなくてはならない。ディレクターは「皆さんの自由に、『深イイ』と『う〜ん』で評価してください、ただし場の空気を読んで」と収録前に指示する。そういう役割に気づくのは当日。
  • 唐沢なをきならここで帰るだろう。本物の作家だったら帰る。でも僕は中途半端なので、メリット・デメリットを秤にかけて、「それでもテレビに出たら良いことあるかも?」と考える(笑)。この番組の視聴率は10%。1500万人は観る。その中の約600万人は「なんだコイツ?」と思うだろう。でも、残りの何割かは「岡田さん、有名になったなぁ」と思うかもしれない。
  • 「シナリオがあるのならば、事前にシナリオをみせて貰えば良かったのに」という意見もある。でも、それが可能なのはスタジオジブリ鈴木敏夫だけなんだよ!(笑)唐沢なをきにそこまでの力があるか。NHKのディレクターも作家なので、そこまでいくと作家VS作家の争いになる。本人からはみえない魅力を紹介したいという欲望もあるだろう。でも「マンガノゲンバ」ではその為に信頼関係を築く言葉も時間も足りないだろう。

(「プロフェッショナル 仕事の流儀」を思い出した)
プロフェッショナル 仕事の流儀スペシャル 宮崎 駿の仕事 [DVD]
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  • テレビの視聴者というのは一定・一様じゃない。この場(ロフトプラスワン)にいるお客さんもそう。そこが難しい。
  • 余談になるが、キングオブコントで優勝した東京03は持ち時間のうち最初の30秒を、客の水準を一定にするのに使っていた。あれは「これからこういう笑いをしますよ」という説明だった。そこが上手かった。
  • テレビはそういうのが出来ない。お母さんが洗い物しながら聞いているかもしれない。理解力の乏しい子供や高齢者もいるかもしれない。しかし、そういう人達を含めた視聴者の8割に分かる番組を作らなければならない。
  • 唐沢なをきの魅力を8割に伝えるという行為は、本来難しい。しかし、様々な題材を主題にして、数々の名作ドキュメンタリーを生み出したおれ達NHKならできる!という奢りがあったのかも。
  • これは視聴者を見下す視点を内包してもいて、それはテレビ最大の禁忌でもある。テレビ業界最大の禁忌は天皇でも部落差別でもなく、視聴者批判なのだ。
  • だから、近日中にサイトにアップするという謝罪文は相当歯切れの悪いものになるだろう。

(アップされていた↓)
http://www.nhk.or.jp/genba/ex2/index.html

  • 色々な視点があうけれども、この件に関して当事者でない僕達は結論を出せない。ただ考えるだけ。それで良いと思う。
  • たとえば明治維新。現在の目から見て、あの時開国して果たして正解だったのかどうか、判断することは難しい。しかし、当時の若者は開国派と攘夷派、どちらかに立場を決めなければならなかった。その時、そういう歴史のうねりの中にいるという違いがある。部外者である我々にできるのはただ考えることだけだ。それで良いと思う。


(続きます)