今こそ樋口真嗣は「太陽を盗んだ男」をリメイクすべき

 この前の邦画オールタイムベストテンであるが、よくよく考えてみたら「バトルロワイアル」と「下妻物語」と「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」を入れておくのをすっかり忘れていた。老いた。老いたね、私も。でも、オレベストテンってのはこんなもので、今日と明日でラインナップがガラリと違うものかもしれないな。9位と10位の差は何だ?と問われても答えられないしね。

 ただ、他人のベストテンを眺めていたら、ちょっと複雑な気分にもなったりもした。
……いや、私も「七人の侍」や「用心棒」は時代を超えた名作だと思うよ。「県警対組織暴力」や「狂い咲きサンダーロード」は傑作だと思うよ。でもなんか、これは完全に個人的な思いなのだけれど、「オレの映画」と問われれば、違うと感じてしまうのだよね。
つまり、「映画は誰のものか?」という話において、それは作り手と観客のものだと思うのだけれど、私は本当の意味で「七人の侍」や「用心棒」や「県警対組織暴力」や「狂い咲きサンダーロード」の観客では無かったということだ。金を払って劇場で観ておらず、多感な10〜20代にテレビやビデオやDVDで観ようともせず、おっさんになってから余った金でDVDを借り、鼻くそホジりながら観たら、出来の良い映画だとは思ったけれど、観た前と後とで人格の一部が変わるような感動を受けた、というような経験をしなかった。多分、私があと30年、もしく10年か20年ほど昔に生まれたら、これらの作品をベストテンに入れていただろう。まぁ、まったく個人的なことなのだけれどね。

太陽を盗んだ男 [DVD]
沢田研二, 菅原文太, 池上季実子, 北村和夫, 長谷川和彦
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 だが、その中でも「太陽を盗んだ男」にはちょっと違った思いがある。
 この作品も30を越えてから観たのだけれど、もの凄く面白かった。ただ、この映画で描かれる、主人公が原爆作って政府を脅迫してやろうという動機は、世の中に対する虚無感や茫洋とした反骨心は、この時代の若者達のものだよね。70〜80年代に若者だった者達が同世代に向けて贈ったものだ。今の時代のものじゃない。

 主人公である城戸が原爆を作った動機というものはくどくどと説明されない。だが、この時代の若者なら彼の動機がすぐにわかる、といった描き方をされている。例えば、政府に電話を掛けたは良いものの、これといった要求がすぐには思いつかず、ナイター中継の延長やローリング・ストーンズの日本公演を口にするシーンは印象的だ。
 冒頭、「天皇陛下と話をしたい」という理由でバスジャックする老人には確固した目的があった(これを冒頭に持ってきて人物説明やつかみのアクションとしてしまう構成も上手い)。戦争を直に体験した世代には、確固とした怒りとその矛先があった。自分たちより一回り上の、学生運動華やかりし世代にもそれはあった。
 だが、主人公である城戸には、それが無い。しかし彼はもやもやとした怒りや不満を持っていて、爆発させたいと願っている。こういう気持ちはこの頃の若者に特有のものだろう。団塊世代とバブル世代の狭間のシラケ世代と呼んでしまえばそれまでだけれど、ゆとり世代酒鬼薔薇世代や就職氷河期世代と呼ばれる今の時代の若者も一部分は共感するかもしれない。ひょっとすると、団塊世代やバブル世代以上の共感を示す者もいるかもしれない。

 だが、主人公が中学教師で、衣食住もきっちり保障されているという部分に、今の若者達は疑問を抱くと思うんだよね。自らをおっさん、おっさんと呼称しながらも、ここでは都合よく「今の若者達」の代弁者になるのだけれど、多分、我々が原爆を作って、政府を脅迫してやりたいと願う動機は、若干違うものだと思う。
 より具体的にいうのならば、それはもっと加藤智大的で小泉毅的なものなんじゃないかと。
 つまり、我々は記者会見でブッシュ大統領に靴を投げつけるイラク人記者には賞賛を惜しまないけれども、未だに世界革命を叫ぶ重信房子は思いっきり馬鹿にしてるわけだ。で、本作の主人公である城戸は、その中間地点にいるんじゃないかと思う。

 つまり、時代を越えて普遍的に共感できる部分と、時代的なものが原因でどうしても共感できない部分とが混在してるわけだな。

 樋口真嗣がマイベスト3として「日本沈没」、「新幹線大爆破」と共にこの映画を挙げていて、「日本沈没」をリメイクしたことから他の二作品もリメイクするんじゃないかと噂が立ったのだが、誰が監督するにせよ、是非とも時代に合わせた形でリメイクして欲しいなぁと思う。
 例えば、プルトニウムの入手なんかは核拡散が進んだ今ならもっとリアリティのある形で描けるだろう。中学教師風情が原爆なんて作れるのか?という問題に関してはポスドクがダーティボムを作る、ってことにしとけば良いと思う。高級ニートに過ぎないんじゃないか?というポスドク問題とかあるしね。
ただその場合、山下警部のキャラクターとキャステイングをどうするかが最大の問題かもしれない。
 城戸はそれなりの若手イケメン俳優を使えば観客が勝手に想像を膨らませてくれるから、それで良い。でも山下警部は難しいよな。ルパンに対する銭形警部とも、夜神月に対するLとも、夜神総一郎とも違う。
 菅原文太が演じた山下満州男というキャラクターは、明らかに一つ上の世代を映画史的な文脈で象徴したものだった。つまり、公開年である1979年からみて一昔前に流行ったヤクザ映画からそのまま出て来たキャラクターだったわけだ。若者がやろうとしてることを邪魔するのは、一つ上の、一足早く先に社会に出たアニキであろう、と。
でも今、菅原文太菅原文太的なキャラクターを持つ俳優を山下役に起用しても、それはちょっと違うと思うんだよね。そういうキャラクターはもっと老人的なものになってしまったというか、「ノーカントリー」のトミー・リー・ジョーンズ的なものになってしまうんじゃないかと思う。

 思い切って書いてしまうと織田裕二とか良いんじゃないかと妄想するのだが、駄目ですか、そうですか。