邦画オールタイムベストテン

 せっかくはてなダイアリーをやっているのだからということで、「邦画オールタイムベストテン」に参加してみることにした。

 「日本市場向けに、日本の資本で制作された映画」というレギュレーション以外に、「自分にウソをつかない」というオレ基準を大切にして選んでみた。なんというか、例えば中学生に自分史上でベストな映画を尋ねた時に、「市民ケーン」とか返されたら複雑な気持ちになってしまうわけで、知らず知らずのうちに自分がそういう事態に陥るのを可能な限り避けたいわけだ。具体的には、「公開後、数年以内に観たか」、「今までに何回観たか」、「一監督につき一本(黒沢清押井守ばっかというのは面白くないので)」等を基準としてみた。

1:回路(2000年、黒沢清監督)

回路 [DVD]
黒沢清
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 映画にナレーションは必要ない。テロップや説明的な台詞も必要ない。ストーリーを映像と断片的な台詞で表し、後は観客の想像に委ねるのが最も冴えたやり方だ。そのような哲学の下に制作された映画の中で、最高の一本。日本で作られた最高のゾンビ映画でもあり、投身○○をワンカットで捉えたシーンは冗談抜きで映画史に残るのではないかとも思う。

2:ガメラ2 レギオン襲来(1996年、金子修介監督)

ガメラ2 レギオン襲来 [DVD]
永島敏行.水野美紀.石橋保.吹越満.藤谷文子.川津祐介, 金子修介
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 我々は怪獣映画に失望し続けてきた。怪獣映画を見ている最中、常に頭の中で勝手な設定を作り、妄想のカメラから撮影されたカットを想像し、合成のまずさに目をつむり、心中で映画を補完してきた。しかし、安心したまえ諸君!もはやそのような努力は不要なのだ。

3:機動警察パトレイバー the Movie(1989年、押井守監督)

機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]
ヘッドギア
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 ポスト911の現在としては続編の評価の方が高いかもしれないのだが、私としてはやはりこちら。中学生の時に観て、こんなに面白い映画があって良いのか!と椅子からズリ落ちそうになった。
 押井守は、映画中で長いウンチクを垂れたり、現実と仮想に必要以上にこだわったり、映画内で学生運動をやらかしたりするものの、映画を見ている間は退屈しない。それは彼が本質的にアクション映画監督であり、カットを割るごとに観客を良い意味で裏切る術に長けているからだ。そしてこの一本の映画は彼のそのような本質に溢れているが故に、傑作であると思う。

4:キッズ・リターン(1996、北野武監督)

キッズ・リターン [DVD]
北野武
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 青春の素晴らしさ、そして残酷さを同時に描いた青春映画の傑作。観賞後、誰もが何かをせずにはいられない、思わず走り出さずにはいられない一本。「自殺したいオーラ」がばんばん出ている「ソナチネ」や、普通に面白い「座頭市」も捨てがたいのだが、自分が影響を受けたという意味でこれ。

5:王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987年、山賀博之監督)

王立宇宙軍〜オネアミスの翼〜 [DVD]
森本レオ, 弥生みつき, 山賀博之
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 かつて黒沢明はこう言った。「何か伝えたい事があるのなら、プラカードを持ってデモする方がずっと効果的だ。映画でしか伝えられない事があるから映画を作るのだ。」
 一個人の成長、一組織の目標、一国の進展、一種族の進歩、この映画には様々な要素が様々なレベルで詰まっている。そして全体的なテーマは「根性は素晴らしい!」それらによるモザイクであるこの一本は、映画的な魅力に溢れているんじゃないかと思う。

6:火垂るの墓(1988年、高畑勲監督)

火垂るの墓 完全保存版 [DVD]
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 私もこれくらいの年代の例に漏れず、「トトロ」を観た記憶をこの映画で粉々にフっ飛ばされた経験の持ち主なのだが、見栄とプライドで破滅の道を歩む主人公、ゴザの隙間から覗く母のケロイドに代表されるグロ描写、最初から崩壊が約束された子供だけの「王国」、そして妹の死と、初見時は呆然自失。今観なおしてもよくこんな映画作れたなと思う。後年になって、主人公の姿は、勝てる見込みのない戦争を仕掛けて国民を飢えさせた当時の日本の姿にそのまま重なるのではないか?という評を読んで頷いたりもした。

7:機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(1988年、富野由悠季監督)

機動戦士ガンダム 逆襲のシャア [DVD]
富野由悠季 北爪宏幸
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 少なくとも劇場版ガンダム三部作くらい観ていないとストーリーを理解できないのだが、理解できる人には珠玉の一作。シリーズものに特有の難解な固有名詞や作品内の歴史を置き換えればどこに出しても恥ずかしくない立派なポリティカル・サスペンスになると思うのだが、リアルな政治、リアルなテロ、そしてリアルな嫉妬、リアルな憎悪……とリアルな描写を突き詰めた後、最後の最後にファンタジーでシメる演出の妙にヤられる。やはり富野は演出モンスターだ。

8:劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト(2003年、田恕W竜太監督)

仮面ライダー555 パラダイス・ロスト ディレクターズカット版 [DVD]
石ノ森章太郎
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 冒頭、「キャー!仮面ライダーよ!!」と叫びながら逃げ惑う親子連れの姿から、ただならぬことが始まったと実感させられる一本。善悪なき時代の正義、徹底してアウトサイダーであり異形である主人公、そして彼の内なる苦悩と、ライダー特有のテーマを現代的に描きつつ、単なるアクション映画として観ても面白い。平成ライダーというシリーズが現在までに残せた財産だと思う。

9:それいけ! アンパンマン いのちの星のドーリィ(2006年、矢野博之監督)

それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ [DVD]
やなせたかし
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 我々はアンパンマンを侮っていた。何のために生まれて、なにをして生きるのか。フィリップ・K・ディック手塚治虫石森章太郎がアンドロイドやロボットといったメタファーを使って続けられてきたあれやこれやが、まさか「アンパンマン」という素材で語り直されるとは。しかも、幼児にも理解できる形で!
(詳細な感想はこちら

10:少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録(1999年、幾原邦彦監督)

少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録【劇場版】 [DVD]
渕崎ゆり子, ビーパパス, 幾原邦彦, 川上とも子
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 映画というものはやはり、変態でなくては作れず、変態でなくては面白くならず、変態でなくては作る意味もないのだと思い知らされる一本。しかも、お客さんであるところの、こういう変態映画を好きな大きなおともだちに「書を捨てよ、町へ出よう」的なテーマを投げかけるアグレッシブさ。こんな映画、日本以外のどこの国で作れるというのか!という意味で邦画ベストテンには入れておきたい。

次点:犬猫(2004年、井口奈巳監督)

犬猫 [DVD]
井口奈己
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 三十代のおっさんでありながら心はOLである私が、若い女性のリアルライフを想像してウフウフと笑いながら悶えるのに最適な映画。ワンカットごとに「こういう撮り方、アリなんだ!」と驚けるオマケつき。


 以上。
 アニメ、特撮、ホラー、そして北野武と、1975年生まれの自分としては、我ながら実に正直なベストテンだと思う。