アニメ昼話 ポニョとハヤオを語りたおす! in ロフトプラスワン その2

幸せ光線、よかった光線

  • 宮崎アニメには「幸せ光線」とでも呼ぶべきものがある。
  • たとえば「千と千尋の神隠し」。たいへんたいへんハクが死んじゃう〜ということで行動するのに、ピンチになったらそのハクが助けにきて、椅子から転げ落ちそうになった。たとえば僕の奥さんが病気になったとして、その病気の薬を手に入れる為にドイツに行ったとして、そこで交通事故に巻き込まれそうになった時に奥さんが助けにきたら怒るでしょ(笑)?なんでオマエこんなところにいるんだー!って(笑)。
  • でも観客はよかったね〜、よかったね〜。湯婆婆もよかったね〜。そこでよかったと言う理由は無い(笑)。あるとすれば、あと10分で映画が終わるという理由だけ(笑)!
  • 矛盾があるのに、なんでそれを乗り越えられているのか?つまりそこには「幸せ光線」「よかった光線」とでも呼ぶべきものがある。
  • シナリオはロジックで書くもの。それが破綻している。でも、理と情のうち、情で解決している。
  • 映画の後半は強引で良い。何故なら観客も映画がそろそろ終わると思ってるから。
  • 東京ゾンビ」の監督の佐藤佐吉は、宮崎アニメの主人公にはヒーロー・ヒロインには「こいつらならなんとかしてくれるのではないか?」という信頼感があると言っていた。

シナリオの矛盾と魅力について

  • 千と千尋」のシナリオ上の矛盾についてもう一つ。冒頭、千尋の両親が豚になって、保護者を元に戻す、あるいは保護者を探すというテーマが、いつのまにかハクとの恋愛になってしまった。
  • 「ポニョ」もそうで、いつのまにかフジモトが「もう時間が無いんです!」などと言う。オマエは世界を海に沈めたいんじゃなかったのか(笑)?時間が無いのは映画の尺だろ(笑)?
  • そうかと思えばトキ婆さんが「騙されてはいけないよ!」なんて言う。いったい何と何が対立しているのか?
  • ハウルの動く城」にもそういう所があるが、腐女子にはウケが良いらしい。考えてみれば、旦那が外で戦ってるのを家で掃除しながら待ってるソフィは主婦と一緒。なおかつ旦那はイケメンだし声はキムタク。しかも、ハウルの部屋を開けてみればオタグッズが一杯(笑)。「ハウル」や「水グモもんもん」からは女性の方がセックスを読み取るのが上手い。
  • 宮崎アニメはシナリオの本筋とは関係ないところが面白い。ハウルでいうと、階段を登りながら老けていくところが最高だった。
  • 手塚治虫は物語の作家。高畑勲は演出の奴隷。宮崎駿は描写の奴隷*1
  • 鈴木敏夫プロデューサーのラジオに押井守が出演して「映画になってない」と「ポニョ」を批判していたが*2、鈴木プロデューサーは「あんまりそういうこと言わないでよ」なんて言っていた(笑)。つまり鈴木敏夫も映画の破綻を認めているということ。だが鈴木はそれで映画の評価が変ると思ってない。つまり、「ポニョ」を初めとする宮崎アニメの魅力はそこに無いと考えているのではないか?
  • 鈴木敏夫はバクチ打ちなのでリスクの大きい方に舵を切っているんじゃ(笑)?
  • 鈴木敏夫が押井を使って宮崎を批判するのはよくやること。
  • 「生まれてきてよかった」というコピーも鈴木が「それってこういうことだよね」と指摘して「あー、そうか!」となった。でも、「千と千尋」でも同じような台詞があった。鈴木の指摘で思い出しただけ。鈴木敏夫はやっぱり編集者。
  • 製作の合間合間にプロデューサーからのチェックが入るハリウッド式の作り方では宮崎アニメを作れない。おまけにハリウッドのプロデューサーは最終編集権も持っている。80年代に宮崎はルーカスからハリウッドに招かれたが断った。「ニモ」の失敗もあったから?
  • 千と千尋」には最初に夢の世界に入って、最後に出てくるという構造があった。「ポニョ」にはそれがなくて、どこまでが現実でどこからが夢か釈然としないのが混乱する原因では?
  • そういえば氷川さんのMixi日記でポニョを最初に試写室で観た感想として「これは凄い!これを子供達が観れば世界は変わる!」と書いていて、そこに「そんなに凄いんですか」「期待できますね」的なコメントがパパパパッとついた後、本人が「でも、だからといって傑作だとはいってません」と書き込んだのが面白かった(笑)。「増補改訂版」での「ポニョ」評での「世界の再編」のヒントになった。

意図的に一貫性を失おうとしているのか?

  • 魚形態のポニョなんだけど、皆が金魚だというから金魚だということで理解していたのに、トキ婆さんが「ゲッ、人面魚!」などと言う。それは言っちゃいけないことなんじゃ(笑)?リアリティのレベルが二つある。
  • これは富野由悠季がよくやる、「∀ガンダム」における「ヒゲガンダム」発言に代表されるような、予想される観客のツッコミをあらかじめ入れ込んでおいて受け入れやすくさせるやり方とも違う。
  • 宮崎駿が「ナウシカ」「カリ城」で引用していたくらい大好きなフライシャー・スタジオのアニメも作画が一定していない。キャラの顔がコロコロ変わる。フライシャーは会議でギャグを2、3個出すだけで、あとはアニメーターが書いていた。しかも送り書き。
  • 例えばDAICONフィルムには厳密な意味での監督はいなかった。各自が書きたいものを書いて、あとで山賀さんがそれをまとめる形だった。
  • 宮崎アニメはだんだんとフライシャー・スタジオやDAICONフィルム的なものに向かっているのでは?
  • 最近の宮崎アニメは理屈や説明をいかに破壊するかがテーマなのでは?宮崎駿は、もともとはディズニー的な確固とした物語世界を作る人だった。それが高畑勲をはじめとするリアリズム描写を得意とする人達と出会って、リアリズムとは違うものを求めるようになった。それによって損なわれていくものもあるけれど。つまり作画崩壊
  • でもキャラ表をもとにして、演技にあわせて変化させていくのがアニメーターの腕のみせどころというもの。最近の若者は二言目には「作画崩壊!」「キャラ表と違うと許さないぞ!」許すも何も、君にはそんな権利ないから(笑)。
  • 「ポニョ」はジブリ作品の英語版のプロデューサーを務めるジョン・ラセターも評価に苦しんだみたい。宮崎駿は「合わなかったみたいだね」と言っていた。「ラセターさんありがとう」なんてDVDも出していて、二人はホモみたいに仲が良いのに。先述の「リサ問題」が関係しているのか?

宮崎駿と老い

  • 宮崎アニメでメタモルフォーゼが目立つようになったのはいつからか?「ナウシカ」や「ラピュタ」ではみられなかった。「紅の豚」では変身そのものは描かれなかった。「もののけ姫」が分岐点か?
  • 人間は歳をとるとシモの問題もあって、液体に興味を抱くようになる(笑)。「もののけ姫」以降のメタモルフォーゼや液体描写もそういうのが関係してるのではないか?

歯茎の描写(これはトトロからか?)も目立つよね(笑)。

ジブリ後継者問題

  • この前新聞でスタジオジブリが後継者育成の為に養成所を作るというニュース*3を読んで、「プッ!」と笑ってしまった(笑)。
  • 以前あるプロデューサーに「あなた達評論家はなんで後継者を育てようとしない宮崎駿を褒めるんですか!?」と激しく詰問されたことがある(笑)。
  • 数年前に「ブレイブストーリー」という映画があったが、「ジブリみたいなものを作りたい」という命題がアニメ界にはある。しかし、ジブリ自身もそれに失敗している(「ゲド戦記」のことでしょう)。

その他

  • 劇中、ポニョは性が未分化な存在として描かれているが、大きくなったらもの凄いセックスをしそう。浮気したらどうなる?ラムちゃんみたいになるのか?(そういやポニョの元の名前はブリュンヒルデだった)
  • ロリコンの特徴として、自分で男か女か分からない未分化な少女に萌える、というのがある。キキとかメイとかサツキとか。
  • 宮崎駿が関わるも、世に出なかった企画は沢山ある。その中でも「煙突描きのリン」は震災後の東京を舞台にしていた。宮崎の中には破壊願望があるのだが、「ポニョ」の水没後の世界にもそういう意味合いが入っているのでは?
  • 町山智浩が「千と千尋」の湯屋をソープにたとえていて、宮崎駿本人も制作時にそのような指示を出していたが、日本アニメ研究家のスーザン・ネイビアが「千と千尋」をカーニバルと評した数年後、宮崎駿も「私の作品はカーニバルですから」というようになった(笑)。

現代日本のアニメ―『AKIRA』から『千と千尋の神隠し』まで (中公叢書)
Susan Jolliffe Napier 神山 京子
4120033287

  • でも、ジブリ美術館で上映されている短編群の方がよりカーニバル性が高い。おまけにちゃんとした構成も持っている。つまり宮崎駿はちゃんとした構成の作品を作ろうと思えばまだ作れる。
  • 宮崎駿の本質は長編作家で、「もののけ姫」なんか尺が足りない感じがする。テレビシリーズで観たい。

質疑応答その1 「On Your Mark」についてどう思うか?

  • うーん。ミリタリーやメカニック描写はもの凄く良いのだけれど、原発反対みたいなメッセージではなく、モデルグラフィックスで連載していたような、思想性の無いものが観たい。
  • 宮崎駿は意外にプロモーションビデオを作るのが上手い。
  • 藤津亮太が言っていたように、「いつでもスタートラインに立てる」というメッセージがあるのだが、それを表現する為に、長編では滅多にやらない、時制のズラしなどをやっている。
  • 回想シーンは難しくて、演出力が必要。ディズニーなんかは基本的にやらない。
  • そういや昔「おぼっちゃまくん」の脚本を書いた時、回想シーンを入れたら「何故だか知らないけどアニメでこれやっちゃ駄目なんだよね」と言われた(笑)。

質疑応答その2 富野由悠季との共通点や相違点について語って!

  • まず出自が違う。宮崎駿東映系。富野由悠季虫プロ系。
  • 両者共に白土三平の影響がある。「ガンダム」の敵も味方も無いというところは白土三平的。宮崎も「ホルス」は「ワタリ」の影響が大きい。
  • 最大の共通点は、二人とも作品を作るという行為に疑いが無いこと。ものづくりに対して確信がある。その下の庵野秀明などの世代は躊躇があり、パロディに逃げてしまいがち。本当にやろうと思ったら、パイプ椅子に座って「僕は駄目な人間なんです!」と叫ぶようなものになってしまう(笑)。80年代の悩みともいえる。宮崎や富野にはそういう躊躇が無く、多少の屈託はあるけれども、思っていることをそのまま出す。
  • 最大の相違点は、富野由悠季は絵の力を信じていないこと(!)。あの人はコンテ主義。コンテでカッティングを全て済ませ、その後のプロダクションはみない。あとは編集での調整と音付けだけする典型的な中抜き作業。宮崎駿は全く逆で、コンテ未完成の段階から作画にも関与する。
  • あと、富野由悠季はセックスが匂い立つ。ランバラルとハモン、シャアとララァは絶対にセックスしてる(笑)。そう見えるように描けと指示も出した。これは、富野は絵でニュアンスを出せないからでは?
  • そういや高畑勲がセックスに関する映画を作るという噂を聞いたが、もの凄く観たい。「おもひでぽろぽろ」の今井美樹柳葉敏郎演じるキャラクター二人がネチネチとセックスするようなものになるのか(笑)?
  • 親父が兵器産業に従事していたというのも共通点。

質疑応答その3 「もののけ姫」で枯れたと思ったが、「千と千尋」くらいからエロスが爆発してきたのは何故?

  • 先程の話と重なる部分もあるが、50代前半は丁度男の更年期の時期で、調子が悪い。富野由悠季押井守も調子が悪かった。
  • もののけ姫」と「千と千尋」の間に断絶があるのは、赤玉が出て男のエロから爺が孫を見守るエロに変化したから。開き直りともいえる。
  • ハウル」でせっかく大砲がついているのに一発も打たないのはそのせい。
  • 「ポニョ」の宗介が5歳なのは実年齢である65歳から還暦分の60歳を差し引いたからでは?
  • 僕はこれから50歳なので、未来の自分をみるようでドキドキする(笑)。
  • やっぱり映画監督は変態でなければならない。いや、皆笑ってるけど、これは大事なところだから。エロスとタナトスという現代美術に特徴的な二つが象徴的に出ている。女の子が好きというのがクリエーターにとって大きな要素。

その他雑談

  • 日本のアニメファンは監督の個人的なプロフィールをよく知っている。というか知りすぎ(笑)!
  • 何故魅力的なのか?それが分かったら明日から俺が宮崎アニメを作るよ!
  • 理屈じゃないところが面白いというのは批評の敗北だが、でもとても書きたくなる。「増補決定版 宮崎駿の〈世界〉」も本当は決定したくない。
  • この先、地デジが普及してくると日本のアニメ表現は予算とクオリティの間で引き裂かれていく運命にあるのだが、ポニョはそういう時代にあって2Dの手書きアニメで、100億円クラスの大ヒットを飛ばした。でもだからといって、今後、他の人が2Dアニメをアニメーター雇って作ろうという流れになるとは思わない。偉大なる最後っ屁。
  • 自分達の世代としては、やっぱり一度「オタク」というものについて自分達の経験から語る必要があるんじゃないかと感じている。例えば「オタク第一世代」「第二世代」という分け方があるけれど、僕から言わせてもらえれば「Q」「マン」「セブン」といったウルトラ第一期とそれ以降の第二期のファンとの間には相当な断絶があるんだよ(笑)!


 ここいら辺で終了。いや、面白かった。さすがロフトの予告文に「ハヤオ三賢人」と書かれていただけあって、中身の濃い話が多分本人たちの予想もつかない方向にポンポンと飛ぶさまはブレインストーミングのあるべき姿を観た思いだった。このやりとりは演者の体力の続く限り永遠に続けられそうで、終了時間が迫ってきたので最後の最後に「じゃ、宮崎アニメの魅力とは?」と強引に締めようとしたのが面白かった。
そういう意味では短時間だったが質疑応答が最も刺激的で、特に富野由悠季との比較や年齢的な要素にはハッとなる思い。そうだよな、トミノは常に画の力とは別な部分で勝負しているし、クリエーターというものは変態じゃなければ務まらないよな。

 以前、すがわらくにゆきが自作の中で、「トトロ」の中で空を見上げるとクシャミをしてしまうという印象的な描写があって、あれは「空を見上げるとクシャミがでる」という生理現象に意識的であるからああいう描写ができるんだ、といったことを語っていて、宮崎駿の魅力はそういったものの集合体なのだろうなと思った。

おれさま!ギニャーズ!! (ゲーメストコミックス)
すがわら くにゆき
4881995863

 で、現在は会場で買った「増補決定版 宮崎駿の〈世界〉」を読んでいるのだが、600ページを越える分量にクラクラきていたりする。しかも、これ読んでいると、宮崎作品の過去作を観たり読んだりしたくなるので、どうしようもない。
宮崎駿の〈世界〉 増補決定版 (ちくま文庫 き 25-1)
切通 理作
4480424881