おっさんのかっこよさとかっこわるさについて:『ファミリー・ツリー』

ファミリー・ツリー』観賞。
えがったー。なんだかんだ適当なことを書きつつも自分は二児の父親であったりするのだが、身につまされる所あり、爆笑するシーンありと、楽しめる映画だった。


以下、ネタバレなのだけれど、ネタバレしても楽しめるように書くよ。


なにが良かったって、ジョージ・クルーニー演じる主人公が、意識不明となった妻が過去にした浮気をなかなか受け入れられなくてじたばたするのだが、そのじだばたっぷりが本当に良いんだよね。
基本的にジョージ・クルーニーって色男じゃん。ガタイも良いし、『最もセクシーな男性』に選ばれたり、ブルース・ウェインを演じた俳優の一人でもあったりするわけじゃん。そんな色男が、「妻の浮気」という非モテ極まりない事態に陥る。しかも、妻は植物状態なので、自分に再度振り向かせるとか、妻の気持ちを取り戻すなんてことは根本的にできない。ただ事態を受け入れるしかない。でも受け入れ切れなくて、涙を流したり、精一杯の虚勢を張ったり、黙り込んだりするさまが本当に良かった。ジョージ・クルーニーがグスグス泣きながらサンダル履きで全力疾走するシーンの、なんと感動的なことか。ジョージ・クルーニーがかっこいいだけに、かっこわるさがかっこよかった。真・かっこいいとはこういうことさ、って感じか。自分は同じくジョージ・クルーニーがおっさんの情けなさを開陳してしまう『マイレージ・マイライフ』が大好きなのだが、近年のジョージ・クルーニーは真のかっこうよさに気づきつつあると思う。
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しかも本作は、その情けないおっさんがじたばたしていく過程で、それなりに成長していくんだよね。
妻の隠された浮気を知った主人公は、娘二人を外に待たせて病室に一人で入る。口を半開きにして意識不明の妻に向かって、ひとしきり悪態をつく。で、その後、娘が自分より更にひどい悪態をつくさまをみて、どん引きする。
その後も、同じ構図が繰り返される。娘の彼氏の鈍感さにどん引きする。義父の、娘を思う余りの傍若無人さにどん引きする。でも、これは成長なんだよな。彼ら彼女らの中にも自分と同じもの――同じ喪失を発見すること。それは、自分を見つめなおすことでもあるのだ。
ジャンルは全然違うのだが、自分は『スーパー!』を連想してしまった。
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『スーパー!』の主人公フランクは、持ち前の正義感から、お手製のコスチュームを身につけて、スーパーヒーロー活動を開始する。でもそれは、行列に横入りした人間の頭をレンチでカチ割るような、過剰で自分勝手な「正義」だった。フランクは、自分だけではそのことに気づかない。でも、サイドキックとして弟子入り志願してきたエレン・ペイジが、自分の10倍くらいの暴力を振るうさまをみてどん引きする。それでやっと、自分がやってきたことを客観視する。違う視点を持ったことで、行為の本質に気づくんだよね。
こういう、立場の違う人間の中にも自分と同じものがあることを発見し、どん引きした後に成長するってのは、一つの定型なのだろう。なんか、自分はスーパーヒーローや宇宙人が出てこない映画を一段下にみるオタクでボンクラなもので、ジャンル的に順序が逆かもしれないが、やっと気づいたよ。


もう一つ。
本作における「先祖伝来の土地」が意味するものって、かなり多層的なんじゃないかと思う。
普通に考えたら、「先祖伝来の土地」は家族や家族の絆の象徴だろう。これまで主人公は「先祖伝来の土地」も家族の絆も蔑ろにしてきた。しかし、妻の安楽死と浮気の判明を気に、それに気づかされる……みたいな。


でも、“The Descendants”というタイトルや、一族会議直前の朝、先祖の写真を眺めるシーンなぞを考慮に入れると、若干意味合いが変わってくるように思える。なんというか、「家長」や「父親」といった役割を「演じる」ことの象徴なんじゃなかろうか。まぁ、それも家族の絆を維持していくうえで大切なものの一つなのだけれど。妻の安楽死を受け入れた主人公は、周囲の人間に妻とお別れをする機会を作ろうとする。家族や親戚、共通の友人知人まではまだ良い。妻の浮気相手にまでその機会を与えようとするんだよね。
それは、主人公にとってみれば、「妻から愛されていなかった自分」を再確認させられる、情けなくてかっこわるいシチュエーションを自ら作ることを意味する。そんなことしない方がラクだ。同じく、「先祖伝来の土地」、売っ払ってしまった方がラクだし、大金も手に入る。訴えられるリスクもない。でも、敢えて引き受ける方が、「家長」や「父親」としてフェアに振舞うという意味で、重要なんじゃなかろうか。少なくとも自分はそういう意味に受け取った。
だから最後、浮気相手の妻にまで自分と同じものを発見するシーンは、いたたまれないと同時に感動的だったよ。


そんなわけで、冷静に考えてみればかなり情けなくてシビアな事態に陥っているのだが、にも関わらず笑いを失わない、ハワイ版松竹人形喜劇みたいな雰囲気が『ファミリー・ツリー』の魅力だと思う(娘役のシェイリーン・ウッドリーがえらいエロくて魅力的で、そんなちょいデブ彼氏よりおれとつきあって欲しいなんて思ったのだが、本筋とは関係ないので省略)。
ロケ地や音楽の効果もあると思うのだが、深刻なシーンに必ず笑いを入れる、アレクサンダー・ペイン監督の演出手腕が光っていた。
自分はこの監督の映画を観るのが初めてだったのだが、まだ他の作品を観る楽しみが残っているのかと思うとわくわくする。とりあえず『ハイスクール白書』くらいから観てみるか。
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