おれの田舎はDASH村

もう放送から一週間近く経ってしまったが、やはり書いておこう。夕飯食いながら『鉄腕DASH』を観てたら、山口達也放射性物質防護服を着こんで汚染されたDASH村に赴き、せっせとひまわりの種を植えていて驚いた。全部無かったことにするのも可能だったのに、TOKIOも『鉄腕DASH』スタッフも、本気でDASH村をやっていたんだなぁと感じ入ったよ。
参考リンク:『DASH村』
参考リンク:http://now2chblog.blog55.fc2.com/blog-entry-956.html



まず驚くのは完全防備の放射性物質防護服で日本の田園風景をうろつく、その絵ヅラだ。

DASH村福島第一原発の北西25kmに位置している。3/14日に三号機が水蒸気爆発を起こしてから数日間、現地は北西の風が吹いていた。そして雨。里山に囲まれたDASH村には風にのった放射性物質が降り積もると共に、雨水に溶けたそれらが流れ込み、原発から同程度離れた他の地域と比較しても格段に放射線レベルが高くなってしまったのだという。
それを避けるために、タレントを含むスタッフ一同はガラス繊維性の放射性物質防護服を着込む。空気も腰につけたフィルターユニットを介して供給されるものを吸い込む。勿論、これで放射線を防げるわけではなく、あくまで放射性物質を体内に取り込むのを防ぐための装備だ。DASH村に滞在するだけで確実に被爆する。無用の被爆を避けるために滞在は2時間という制限が設けられた。DASH村には常にTOKIOのメンバー複数人が滞在していた印象があったのだが、今回のロケは山口達也のみ。TOKIOの中で山口達也だけが唯一結婚していて子供がいることと無関係ではないだろう。


で、JAXAや国立大学の研究者と一緒に、まずはDASH村内の放射線レベルを測定していくわけなのだけれども、半年ぶりに訪れたDASH村は草伸び放題、苔生えまくりで、大荒れなんだよね。

よく田舎暮らしを「自然の中で暮らす」なんて表現するけれど、里山も田園も人工物なんだよね。日本だったら、たいていの草原は30年くらい経てば雑木林になり、雑木林は100年くらい経てば照葉樹林になる。で、その前段階、地表が裸地状態になっている耕地には、数ヶ月で経てば周辺から徐々に雑草が侵入してくる。地学の教科書に書いてある知識なのだけれども、そういうのを実感できる映像だった。
里山や田園は、人間が定期的に手を入れることで植生遷移を遅らせたり、留めたりしている。だから、人が居なくなったら荒れ果てる。計画避難している人たちに対して、放射線レベルが下がったら農業を再開すれば良いだろうと軽くいう人たちがいるのだけれども、避難が長引けば長引くほど、再開は難しくなるだろう。


特に、DASH村はそれまでほとんど荒地だった土地を、11年かけてあの状態に持っていったわけだ。畑を開墾し、田んぼに水をひくと、荒地よりも生態系の多様性が上がる。番組後半では、当初いなかったゲンゴロウオオタカ、キジまでもが姿をみせるようになっていた。この11年間の努力を、我々はテレビを通じて観ていたわけだ。都会に住み、農作業なんて一切しない人間でも、その喪失を実感してしまう。



東北は日本の原風景といわれてきたわけなのだけれど、その原風景の中で里山・田園・手打ち蕎麦生活を送る若者たちという構図がDASH村だった。TOKIOは週に何日か代わる代わるやってきて、近くに住んでるじじぃやばばぁに農業や料理を教えてもらう。ムラ社会ならではの因習や閉鎖性などは全く感じ取れない。
DASH村を11年間見続けてきている視聴者にとって、そこで生活していた(ふうに思えた)TOKIOや村人(という名の放送作家)や近隣のじじぃばばぁは最早他人じゃない。友人……とまではいかないが、近所でよくみかける人レベルの親密さを感じてしまう。


そのDASH村放射性物質で汚染され、荒れ果てる。じじぃやばばぁ達は原発事故で住む土地を奪われ、仮説住宅や避難所住まい。里山や田畑と同じくらいの財産であった地域の人的ネットワークからも切り離されてしまう。
これは、日本人の原風景がテレビのゴールデンタイムでも汚染され、喪われたということと同義なんじゃなかろうか。



しかも、何が凄いかって、こういうことを311前と全く同じテンションで伝える番組の作り方だ。「死の町」なんて一言も言わないけれど、DASH村は今後数十年は「死の村」であろうことが分かる。震災で被災し、山河が荒れ果てる……文章で書けばよくある話だけれども、理屈ではなく、感情や情緒や風景で説得される。しかも、ゴールデンタイムでの放送だ。しかもしかも、日本テレビで。



日本に初めて原発を持ち込んだのは正力松太郎だ。正力松太郎は読売新聞の社長で、日本テレビの社長だった。そのせいかどうかは分からないが、読売新聞はこの段になっても原発推進の社説を書いていたりする。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20110906-OYT1T01165.htm
日本テレビはここまで露骨ではないけれども、同じような流れの下にあるとするのは自然な見方だろう。



そう考えると、TOKIOや『鉄腕DASH』スタッフの、なんと反骨精神に溢れたことか。DASH村関連のその後は今後も定期的に放映し続けるらしい。彼らがやりたいのは、ゴールデンタイムにボーッとテレビを観ながら夕飯食ってるような非インテリ層の原発問題意識に影響を与えることなんじゃなかろうか。その意気やよし。