虫皇帝におれはなる!:「劇場版 虫皇帝」

TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル


上記ポッドキャストにて町山智浩が熱く語っていた「劇場版・虫皇帝」を観にいったのだが、想像以上の面白さだった。ボンクラ男子の昏い欲望を充足させるような映画だったよ。


まぁ、なんだかんだ言っても、自分は幼稚な男なわけですよ。「猪木VSアリ」とか、「ゴジラVSガメラ」とか、「サイバトロンVSデストロン」とか、「平成ライダーVS昭和ライダー」とか、そういう対戦カードを聞くだけでワクワクするわけですな。


そこに「劇場版・虫皇帝」ですよ。
カブト・クワガタ・カマキリ等ビッグネームを揃えた「昆虫軍」Vsサソリ・クモ・ムカデといった毒を持つ節足動物からなる「毒蟲軍」、世界にあまねく存在する昆虫と毒蟲が時空を越えて(いや、時間は越えてないが)リングの上で雌雄を決し、最強昆虫王、いやさ虫皇帝を決するという趣向だ。これこそ現代の虫相撲!もう、ドキがムネムネするとはこのことだね!


実際観てみるとおどろくのはカブト・クワガタ・サソリの強さ!そしてカマキリの弱さだ。
なんかさー、どんだけ強い、強いと言われても、クワガタとか背中からひょいと摘める人間の身としては、そんなに強さを実感できないわけよ*1。でも、こうして他の昆虫と戦わせてみると、あの姿形は、前方から向かってくる敵に対しては挟んでよし突いてよりと最強の武器である大アゴと、サソリの毒針も寄せ付けない最高の鎧である硬い甲殻を併せ持った、無敵形態であることが理解できる、クワガタ強えー。
一方でサソリの強さも相当なものであった。あのハサミは武器でありつつ前方からの攻撃をガードする盾でもあったのだな。自分より明らかにウェイト面で負ける重戦車の如きカブトやクワガタの攻撃を必死にガードしつつ、翅が収められている甲殻の隙間や、唯一柔らかい部分である口に毒針を突きたてようとする戦いは、正に手に汗握るものであった。


で、サソリがカマキリの柔らかい腹部を切り裂いたり、クワガタがクモを挟み込んだりして、体液がびしゃびしゃ噴出する姿に客も大盛り上がりだ。いや、虫同士を戦わせて鑑賞するDVDがあると聞いてはいたし、「トリビアの泉」なんかでちょっと観たりはしたのだが、こんなに凄惨なものだとは思わなかったな。


たださ、世の中にはこれを「残酷だ」と批判する声があるし、実際町山智浩も「ゲロ吐きそう」とか「しばらくエビ食べられない」なんてコメントしていたけれども、確かに凄惨だとは思う一方で残酷だとは感じなかったな。
ていうのはさ、サソリやクモの多くは惨殺した昆虫の多くを食おうとするんだよね。まぁ、考えてみればあたり前だ。彼らのハサミや毒針は身を守ると同時に捕食に有利だという理由で発達したのだから。これが残酷だというのならば、飼育下でコオロギやマウスの子供を与えることも残酷になってしまう*2。まぁ、そう感じる人も多いのだろうが。
自然界でこのような「対決」はありえず、人間の手で意味も無く*3戦わされ、バラバラになる昆虫の姿が残酷だ、という理由なら理解できる。だが、それなら自動車に轢かれてペチャンコになったセミや、誘蛾灯に誘われて感電死する蛾の方がより残酷なように思える。もっというのならば、キミはこの夏一匹の蚊も蝿も殺さなかったのか?キミの家のキッチンや台所を走り回るゴキブリを新聞紙で叩きまくってグッチャングッチャンにする方が残酷ではないのか?人間の都合で死ぬという点ではどれも同じだ。
蚊や蝿やゴキブリを殺すのは生活環境を守るためだというのならば、闘犬や闘鶏はどうか?それこそ先に挙げた虫相撲はどうか?自分としては、普段虫をみてギャーギャーわめくような人間が倫理面からこの映画を批判するのは難しいのではないかと思う。


もっと言うのならば、この映画の面白さってのは見立ての面白さなんだよね。ダイオウサソリVS国産カブトというマッチにて、カブトムシが角を折られて頭も半分失っちゃうのだが、その後の光景を「それでも果敢に立ち向かっていく大和魂溢れるカブトムシ」と捉えるか「頭が半分もげてのたうちまわるカブトムシ」と捉えるかは(ナレーションを別にすれば)観客次第だ。正直なところ、サソリやカブトムシが実際にどう感じ、どう考えているかは永遠の謎だ。だって、我々は隣に座っている人間は本当はどう感じ、どう考えているのかすら断言できないのだから。
虫を扱った映画で最近面白かったのは「バグズ・ワールド」なのだけれど、一見真面目そうにみえるこの映画も、サスライアリVSオオキノコシロアリの種間闘争を、「黒き女王の復活」とか「高貴なる白き女王の怒り」なんて勿体ぶったナレーションをつけて、説明的なBGMをつけて、欧州貴族的ファミリー間の対決に見立てていたりした。また、メイキングをみると、全く異なる日時に撮影した別個体の映像を上手く繋いで、編集で一つのドラマを創出させていたことが判明したりもした。つまり、生物の挙動をどう捉えるかは観察者次第なのだな。
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しかし、昆虫愛好家からすれば「おれが○千円で買って愛情を注いで繁殖させた美しきアフリカメダマカマキリがこんなにも無残な姿に!」なんてお怒りも、確かにあるんだろうな。私も魚やらイグアナやらを飼育していたので、その気持ちは痛いほど理解できる。残酷とは思わないけれど、勿体無いとは思う。MOTTAINAI精神からの批判は当然アリだ。


その一方で、「ゴチャゴチャ言わんとどの蟲が一番強いんか決めたらええんや!」みたいな、カブトとクワガタを無理矢理戦わせる小学生的欲望も確かにあるわけだ。*4つまりは、同じカースタントでも、ボロイ中古車より高級車の方がパワーもあるし派手に壊れた時に興奮するみたいなもので、一個人では実現不可能な昏い欲望を実際にやってしまう、実にワクワクする映画なのだなと思った。


しかし、この映画が幼稚であるという批判には、全くもって返す言葉を持たない。これは真なる意味で小学生や中学生向けの映画だよな。会場ではパンフ代わりのムックも売っていたのだが、付属のDVDを観せたら我が家の子供達は大喜びだ。勿論、うちの子供たちはバッタやアリンコの脚をもいで喜ぶ子供たちです。
虫皇帝
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されどしかし、映像的には問題も大アリだ。まず、カメラが一台ってのが辛い。デジカメのオートで撮影しているらしく、虫が高速で絡み合うと*5ピントが合うまで時間がかかり、イライラしたりする。先の「バグズ・ワールド」では完璧にピントのあった超美麗映像が頻出していたのに比べると、その差は歴然だ。


まぁ、多分制作費が少ないんだろうなぁ、とは思う。バトルの合間に監督新堂冬樹の解説*6が入るのだが、新堂が着用しているグラサンにカメラやその周囲が映りこんでしまっていて*7、しかもその撮影場所ってのがどうみても新堂の自宅か事務所らしきマンションなんだよね。
身も蓋もない言い方をすると、この映画は虫同士のバトルをプロレスや総合格闘技に見立てているわけなのだが、完成度を求めるならば、後楽園ホールを借り切って客で満員にしてラウンドガールを呼んで*8国家斉唱もして……という風に、徹底して「見立て」にこだわるべきだ。「ガキの使い」の「山崎VSモリマン」が面白いのはそこら辺の演出が徹底されているからだと思う。クオリティの問題だ。
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それにしても、カブトやクワガタを屠りまくって大活躍のダイオウサソリは格好良いよな。戦車に喩えられたりしていたが、自分はゾイド24のデスピオンを思い出したりしたよ。
パンツァーティーア 1/20 デスピオン PT04
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検索して調べてみると、ダイオウサソリは実のところ毒性が弱く、飼育や繁殖も容易らしい。……離婚したら飼ってみるかな!でも、実際飼ったら勿体無くてバトルとかさせられないんだろうなー。ボクのサソリたんに傷が!みたいな感じで。

*1:クワガタの第一の天敵は「ヒト」であるらしい

*2:サソリだけではなく、アロワナやナマズやイグアナといった多種のペットも同様の餌を食べる

*3:いや、映画的な意味はあるんだけどね

*4:私は空き地で採ってきたカマキリをイグアナと戦わせたりしてました

*5:ムカデとか超素早い

*6:これがまた実況と同じことを繰り返してつまらない

*7:プロのカメラマンだったら悶死

*8:なぜ「応援団長」を水着にさせない?自分の事務所なのに