This is the America!:「ウォッチメン」

 どうにもこうにもこうにも我慢ができなくてウォッチメンの試写会に行ってきてしまった。ちょっと旅行にいく用事があって、来週の公開日初日には観れないのだな。


WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)
石川裕人秋友克也、沖恭一郎、海法紀光
4796870571
 だってさ、あの「ウォッチメン」が制作費150億円で映画化だぜ?アメコミ全然知らないという方の為に喩えるなら、ハリウッドで「逆襲のシャア」が実写映画化とか、「ゲド戦記」を宮崎吾郎じゃなくて現在の駿が長編アニメ化とか、ピクサーが「トランスフォーマー」をCGアニメ化!みたいな感じだぜ?それ、超期待するのだけれど、超駄作になることを皆が制作前から心配する、という雰囲気をこの喩えで幾らかでも表現できればと思う。

ムーアがTVをつけたらこの映画がオンエアされていて、ついつい見てしまい”ふーん、意外と頑張ってるじゃないか”なんて思ってくれたら最高だ。それだけでオレは十分、報われた気持ちになる」


……と、監督のザック・スナイダーはインタビュー(TVブロスより)で語っているのだが、「2010」の監督を務めたピーター・ハイアムズが「もしキューブリックがこの映画を観て、”そんなに悪くないじゃないか”と言ってくれれば最高だ」みたいなことを何かで言ってたのを思い出したよ。頑固で偏屈で鬼才で完全主義者のイギリス人に謙虚な姿勢を貫くアメリカ人、みたいな。
2010年 [DVD]
ピーター・ハイアムズ アーサー・C・クラーク
B001F4C670


 で、感想なんだが、スゲー面白かったよ!あの原作をよくぞここまで上手くまとめたなと思ったよ。勿論、あの印象的な台詞が無いとか、この台詞をこいつが代わりに喋るのはおかしいとか、不満な点をあげればキリがないのだが、この尺に収めきるのはスゴイよ!


 まだ公開前なんであんまりネタバレ的なことは書かないでおこうと思うのだが、「原作通りにやる」と言いながらも、ザック・スナイダーはきちんと自分の持ち味を出しているのが良かった。


 わかり易いところでいうと、アメコミ風リアルからアメコミ映画風リアルに舵をきった結末とか、増量されたエロとバイオレンスとかなのだが、なによりも「300」みたいにスローモーションと演劇的セットで印象的なシーンを演出するという技法が実にザック・スナイダー流だ。冒頭の、これまでの「ウォッチメン」世界でのアメリカ近代史を説明する映像なんて、本当に「300」とテンポが良く似ている。
そうそう、Dr.マンハッタンの喋り方が「神」っぽい感じを意識していて、結果的に「2010」のボーマン船長に似てしまっていたのには、前述の理由から、笑った。
300<スリーハンドレッド>特別版(2枚組) [DVD]
ジェラルド・バトラー.レナ・ヘディー .デイビッド・ウェナム.ドミニク・ウェスト.ビンセント・リーガン, ザック・スナイダー
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 あとさ、音楽の使い方が実に上手いよね。いかにも80年代アメリカンヒットナンバーがこれでもか!という具合に使われていて、これに本作の作り物感満載な演劇的映像が重なると、「もう一つのアメリカ」感が漂ってくる。


 そう、「ウォッチメン」の本質というのは「もう一つのアメリカ」なのだな。それは「スーパーヒーローが存在するアメリカ」であると同時に、「普通のアメリカ人からは不可視のアメリカ」だったり、「普通のアメリカ人が見えないふりをしてきたアメリカ」だったり、「普通のアメリカ人が見たくないアメリカ」だったりしたわけだ。
 神のような能力を持った超人も、古女房を捨てて若い女に走る。自分の子供を宿したベトナム人妊婦を射殺する。インポテンツだった男もコスチュームを着てヒーローになると復活する。自分をレイプしようとした男ともヨリを戻す。そして、最底辺に棲む狂人のような男が「正義」を語る。現代アメリカ産業を象徴するハリウッドで映像化されると、そういう点が実にわかり易くなるというのはむべなるかなといったところか。
This is America! An American in the America! 藩属国である日本に住む我々も、無関係ではいられない。