その9 イルカとイルカ教
形霧:あっ、古林くん!!久しぶり!!
古林:そんなに久しぶりじゃないぞ。先週会ったばかりじゃないか!!
形霧:そういえば、そうだったね。
古林:まったく、先週はオマエのせいでエライ目にあったぞ。
形霧:いやー、菅原くんには悪いことしたよ。ボクも思わずエキサイティングしちゃってさ〜。
古林:それを言うなら「エキサイトする」だろ!!
形霧:(胸鰭を左右に振って)チッ、チッ、チッ。知らないの古林君?世の中には「エキサイティング」という妖精がいて、それに乗り移られると思わず興奮しちゃうんだよ。そしてそれに乗り移られることを「エキサイティングしちゃう」と表現するんだよ!
古林:……最初から飛ばしてるな。
古林:しかし、オマエのせいで俺は不安だよ。
形霧:え、なんでなんで?
古林:前回のオマエの暴力沙汰のせいだよ!!2人揃ってこの水族館クビになるかもしれないぞ。
形霧:うそーん!そんなことないでしょ。
古林:いや、ありうるぞ。今、かなり不況だし。体のいいリストラ感覚でクビになるかもな。まったく俺は不安で堪らないぜ。夜も眠れないよ。
形霧:ま、人間いやイルカなんて多かれ少なかれ皆不安を食って生きてる生き物さ。
古林:オマエが言うな!!
形霧:そんなに不安なら良い人紹介しようか?
古林:え?なに?合コン?行くぜ、行くぜ、行くぜ!
形霧:違うよ。ボクの知り合いでとっても人間、いやイルカが出来てる男が居てさ。そいつの話を聞く集まりがあるんだよ。
古林:そんな新興宗教チックな集いに誰が行くかー!!!
形霧:(チッ。やっぱり引っかからなかったか)
古林:そもそもオマエ神様なんか信じて無かったんじゃないのか?
形霧:……白状すると、誰か紹介すると照会料をくれるっていうからさ、バイト感覚で引き受けちゃったのさ。
古林:俺を売るような真似すんなー!!
形霧:まぁまぁまぁ。でも、昔から不安をお手軽に打ち消すなら宗教じゃん。
古林:その口で良く言うなぁ。オマエこの前「しあわせのサイエンス」の人に勧誘されたら「ボクはすでに"インコ心理教"を信じてますので御辞退させて頂きます」なんて断ってたじゃないか!!!俺は開いた口がふさがらなかったぞ!!
形霧:なんか「しあわせのサイエンス」って単語、ドラクエの「しあわせシリーズ・アイテム」っぽい響きだよね。「しあわせのくつ」とか「しあわせのぼうし」とか「しあわせの箱」とかさっ!!
古林:話をそらすな!!!
形霧:……あんな(検閲により削除)な奴ら、断るにはあの程度の台詞が適当じゃんか。
古林:オマエいつか刺されるぞ!!
形霧:まぁ、なんつ〜のかね〜。結構苦労の多い世の中じゃん?この世の不安や苦しみは、全部あの世で解消されるって考えたほうが生きやすいわけよ。
古林:だから、そんなことオマエ露ほども信じてないだろ!!
形霧:まぁまぁまぁ。そんな考え方をした方が、楽に不安を解消できるよねって話だよ。
古林:だから、その口で言うなァ!!
菅原:ハー……。
古林:あ、菅原じゃねぇか。
菅原:アッ、古林サン。オ疲レ様ッス。
形霧:菅原くん。この前はごめんね。
菅原:大丈夫デス。全然気ニシテマセンカラ……。
古林:どうしたんだ?なんか元気ねぇじゃねぇか。
菅原:実ハ……。
古林:……そうか、それは大変だな。
菅原:ソウナンデスヨー。モウ僕ハ不安デ不安デ堪ラナイッスヨー。
古林:そんなことになるとなー。
菅原:ソウナンデスヨー。モウ夜モ眠レナイッスヨー。
形霧:菅原君!大丈夫だよ!なんとかなるって!!
古林:(いきなりどうしたんだ、コイツ)
形霧:どんなことでも、頑張ればかなわない夢はないよ!!
古林:(……なんか、嫌な予感がするぞ。)
形霧:それでもかなわない時は、この「バモイイルカ神」さまにお祈りすれば良いよ!!
古林: (うわー……やっぱり。)
菅原:ナンデスカ?コノキーホルダー?
形霧:これはね、「バモイイルカ神」さまにいつでもお祈りできるよう、「バモイイルカ神」さまを象った銅像なんだ。僕の友達もいつもこれを持ち歩いているんだけど、そいつはこの前宝くじで一億当てたんだよ。
古林:(またコイツ適当なこと言ってるよ)
菅原:本当デスカ?凄イッスネー。
古林:(おいおい、信じてるよ!)
形霧:本当だよ。僕の親戚なんかこれを常に携帯していたおかげで糖尿病が治ったんだぞ。
古林:(あからさまな嘘つくなよ!)
菅原:ヘー。ナンダカ欲シクナッテキマシタ。
古林:(だから信じるなよ!!)
形霧:うーん。本当ならこういう神聖なものは皆に分け与えないといけないんだけど、タダというのも「バモイイルカ神」さまに失礼なんだよね。だから19800円ほど頂けるかな?
古林:(高ッ!!!)
菅原:アー……。ショウガナイ、頂ケマスカ?
古林:(こいつ馬鹿か??)
形霧:よし売った!キミのホーリーネームは「玄田牛一」だ(イルカだけに)!!
古林:(ムチャクチャだ!!!)
形霧:……ま、こんな感じで一丁あがりさ。
古林:オマエ絶対いい死に方しないぞ!
形霧:まぁまぁ。これで菅原君の不安が解消すれば安いものさ。
古林:オマエの貧乏生活もついでに解消されたよな。全くヒドイ奴だぜ。
形霧:いやいやいや。ボクは心の底から彼の精神状態を願ってだね……。
古林:あれ?あそこに居るのは当の菅原じゃないか。お姉さんと話してるぞ。
菅原:……トイウワケデ、コノ「バモイイルカ神」サマニイツモオ祈リシテルンデスヨ。
イルカの姉えさん:そっかー。菅原君って信心深いんだね。良いじゃん。最近そういう真面目な若者少ないじゃん。
菅原:エヘヘヘヘヘ。
形霧・古林:(喜んでるよ!喜んでるよ!)
イルカのお姉さん:でも、イルカにも神様がいるなんて知らなかったなー。
菅原:エ?人間ニモ神様ガ居ルンデスカ?
イルカのお姉さん:居るよ居るよ。特にアタシなんかミッション系の大学だったからさー。毎週日曜日は協会に行ってたよ。
菅原:……ソノ神様ハドノヨウナ教エヲサレテイルンデスカ?
イルカのお姉さん:そうねー。…簡単に言うと、悪いことせずに良いことだけして、神様にお祈りしていれば、死んだ後地獄じゃなくて天国に行けます、ってことかな?
形霧・古林:(すごい要約の仕方だな。)
菅原:……オ姉サン。
イルカのおねえさん:なに?
菅原:……残念デスガ、ソノ神様ハ、誰カ気ノ利イタ奴ガオ姉サンヲ安心サセル為ニ考エタ嘘ッパチデスヨ!!
形霧・古林:(……うわー)