『GODZILLA ゴジラ』と合わせて読みたい漫画:ビッグコミック ゴジラ増刊号

というわけで、レジェゴジこと『GODZILLA ゴジラ』観てきましたよ!
予告編やらなんやらから想像してたのと違う映画だったのですが、これはこれで面白かったです。
詳しくは明日のニコ生で話す予定なのですが、どうも世間はちょっとしたゴジラブームらしくて、ゴジラ関連本が山のように出ています。
その中でも、ビッグコミックゴジラ増刊が特に面白かったですよ。
ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号
小学館
B00LOFYDVC

ビッグオリジナル増刊 ゴジラ増刊号 デジタル版 [雑誌] (ビッグコミックス)
ビッグコミックオリジナル編集部
B00LWQAJW0

ゴジラのコミックアンソロジーといえば、宝島時代の町山智浩さんが編集し、『ゴジラVSビオランテ』公開に合わせて出版された『Theゴジラcomic』が有名です。
Theゴジラcomic (宝島コミックス)
4880637920

とにかく、ゴジラをダシにしてやりたい放題やろうと思って、編集協力の安藤くんと近藤くんと一緒に、一度一緒に仕事をしたかった先生方に原稿を依頼した。

風忍が描く「骨法対ゴジラ」! - 映画評論家町山智浩アメリカ日記

という御本人の言葉

通り、当時からカルト漫画家だった風忍の描く『Gからの警告』では骨法で倒されたゴジラが赤ん坊に転生したり、この本を手に取った人間なら知らない筈はないであろう実相寺昭雄原作・加藤礼次郎画の『小さなゴジラ』では主人公が河崎実だったり、着ぐるみ役者兼漫画家の破裏拳竜が描く『GODZILLA 怪獣戦士』では鎧を着込んだ擬人化ゴジラが勇者として人類と戦ったり……と、一回読んだら忘れられない本でした。
他にも、エロマンガを描く前の若かりし環望が『ガンダム』『イデオン』の脚本家 松崎健一原作で参加していたり、当時(も今も)イラストレーターとして有名な横山宏や近藤ゆたかが漫画家として参加していたり、石川賢一峰大二といったベテランが皆の先入観を裏切るような作品を書いていたり……。
ちょうどティーンエイジャーだった自分は、この二冊で風忍の存在を知ったり、B-CLUBで活躍していた破裏拳竜に注目したりしたものです。


当時は、ハイパーゾーンやサイバーコミックスといった、特撮やアニメをテーマとしたA5版型のアンソロジー本がちょっとしたブームだったのですが、バラエティーの豊かさという点で本書は異質でした。
ゴジラコミックの逆襲
池田 憲章
4796602593

一部の原理主義的特撮ファンには蛇蝎のごとく嫌われたものの、続編的アンソロジーである『ゴジラcomicの逆襲』も出版されたことをみると、成功の部類に入る本だったのではないかと思います。


日本ふるさと沈没―ORIGINAL COMIC ANTHOLOGY (ANIMAGE COMICS SPECIAL)
鶴田 謙二 他
4197701322

怪獣文学大全 (河出文庫)
東 雅夫
4309405452

その後、リメイク版の『日本沈没』に合わせた『日本ふるさと沈没』には完全に同じコンセプトを感じ、エメリッヒ版『GODZILLA』にあわせて纏められた『怪獣文学大全*1』には同じような匂いを感じたのですが、レジェンダリー『GODZILLA』に合わせて出版されたビッグコミックゴジラ増刊にもちょっとだけ同じような匂いを感じましたよ。


なにしろビッグコミック増刊ですので、小学館で活躍している漫画家が沢山参加しています。『ムーンライトマイル』や『サンダーボルト』で有名な太田垣靖男が描く『幕末ゴジラ』は怪獣コレクターのX星人ゴジラを幕末にテレポートしてしまう話ですが、『Theゴジラcomic』の近藤ゆたか短編を強烈に連想してしまいました。


高橋留美子浦沢直樹北見けんいちといった小学館を代表するベテランが肩の力を抜いたようなエッセイを描く一方、『ぼくらのフンカ祭』の真造圭伍や『団地ともお』の小田扉といった(比較的)若手はかなり力を入れた短編を描いていて、ガチンコの意気込みを感じてしまいます。真造圭伍はゴジラ襲撃時にセックスしているカップルを描いているのですが、こちらも『ゴジラcomic』の夢野一子の短編との同一性を感じました。真心一芭という漫画家は、この増刊で始めて名前を知ったのですが、ゴジラキングギドラが戦うさまを画力だけで魅せるという最もギラギラした漫画を描いてます。
吉田戦車ほりのぶゆきといった特撮に一言も十言もありそうな漫画家は、「ゴジラがテーマの漫画」をオファーされた嬉しさと「俺が描くならこう描く!」という意気込みで一周半くらい回った意欲作を描いてるのですが、流石と言わざるをえないのが唐沢なをきです。

シリーズ中最も評判が悪い『ゴジラ対メガロ』のゴジラを芸人として描く『がんばれぼくらのメガロゴジ』はゴジラ漫画の歴史に残るのではないでしょうか。


「オファーし易さ」ではなく「ゴジラをダシに」依頼したと思しきベテランも凄い短編を描いてます。
特に、諸星大二郎が描く『ゴジラを見た少年』は1954『ゴジラ』から311までを見据えた内容で、実はこの別冊の中で最も真っ当な「ゴジラ」ではないかと思いました。
特に凄いのが、作者本人を強烈に思い起こさせる67歳男が登場する花輪和一の『ゴジラの国』です。リタイアしたと思しき主人公はプラモ製作が趣味なのですが、ある日自分の王国であるプラモ製作小屋を等身大のゴジラのような生物に襲撃されます。これをきっかけに主人公は「自分にとってのプラモとはなにか」「家族とはなにか」「極楽とはなにか*2」といったことに気づき、思いを巡らしていくのですが……

近年「老い」を感じることが多い自分には感極まってしまう内容でした。


この本がなんと税込み400円という安さ! これは買いでしょう!
……唯一の欠点は、刷り部数が少ないせいか、たいていの本屋には一、二冊しか入荷せず、発売日から二週間以上を経過した現在では入手し難いことです。
こういう雑誌こそ電子書籍にすれば良いのに……と思っていたのですが、自分のような不満を持っていた人間が多かったのか、当初からその予定だったかは分かりませんが、めでたく電書化されました。買いや!
ビッグオリジナル増刊 ゴジラ増刊号 デジタル版 [雑誌] (ビッグコミックス)
ビッグコミックオリジナル編集部
B00LWQAJW0


あと、『Theゴジラcomic』にも『日本ふるさと沈没』にも今回のビッグコミック ゴジラ増刊号にも、伊藤伸平が全く同じテイストのパロディ漫画で参加していて、唐沢なをきと同じく流石というほかありません。


そんな伊藤伸平が平成ウルトラで有名な川崎郷太 原作で描く『永遠のグレイス』は『ガメラ3』以降の「怪獣映画と人死に」に一つの答えを出した名作だと思うので、一緒にお奨めしておきます。
永遠のグレイス (ヤングキングコミックス)
川崎 郷太 伊藤 伸平
4785922230

*1:これは新作ではなく過去作のアンソロジーですが

*2:ちょっと『ビルドファイターズ』を思い出したりもしました