スポーツ映画ベストテンに参加します

毎年末に開催されているid:washburn1975さんの映画ベストテン。昨年は色々と忙しくてパスしてしまったのだが、今年は「スポーツ映画ベストテン」という興味を惹かれる企画なこともあって、参加することにした。



なんで興味を惹かれたかというと、自分はスポーツ中継を全く観ない人間なのだな。野球も観ない。サッカーも観ない。相撲も見ない。オリンピックも観ない。サッカーW杯が日本であかれた2002年なぞ、奇人変人のように扱われたものだった。
でも、スポーツを扱った映画は普通に観る。多分、自身のナラティブというか、物語を見出すスキルとか、現実とフィクションの距離のとり方に関係あるのだと思う。
一方、近年お笑いのスポーツ化なんてことが語られているが、お笑いは観る。自分でも不思議だ。単に入り口が違っただけのことかもしれない。


そんな男が考える自分スポーツ映画の魅力とは何かというと

  • ビルドゥングス・ロマンとしての成長譚
  • 圧倒的な弱者が知恵や努力や現実世界では全く認められないボンクラ的才能で強者を凌ぐ下克上描写
  • 単純な勝利以外のなにごとかを見出す結末

の3点に加えて

  • 映画でしかありえない妄想の競技化

だったりする。


1、スピード・レーサー(08年米、モータースポーツ
2、ミリオンダラー・ベイビー(04年米、ボクシング)
3、柔道龍虎房(04年香港・中国、柔道)
4、キッズ・リターン(96年日本、ボクシング)
5、カーズ(08年米、モータースポーツ
6、マネーボール(11年米、野球)
7、少林サッカー(01年香港、サッカー)
8、ガールファイト(00年米、ボクシング)
9、ビヨンド・ザ・マット(99年米、プロレス)
10、ロボ・ジョックス(90年米、ロボットバトル)


次点、
ナチョ・リブレ 覆面の神様 (06年米、プロレス)
マーダーボール(05年米、車椅子ラグビー
ビジョン・クエスト 青春の賭け(85年米、レスリング)
アメリカン・フライヤーズ(85年米、自転車)
ヤング・ゼネレーション(79年米、自転車)


……なんか、レースと格闘技あかりのラインナップになってしまたったが、順に解説していこう。



1、スピード・レーサー(08年米、モータースポーツ
スピード・レーサー [Blu-ray]
B003GQSY0S
なんでベストなのかというと、この映画は上記に挙げた4要素全部を満たしていると思うんだよね。レースしか能のないボンクラ男子が現実と対峙し、敵は強いレーサーでもレースの元締めでもなくレースというシステム――すなわち世界であることを知る。そんなストーリーが、アメリカの小学生がLSDをやりながら考えたような極彩色ドラッギーなCGで描かれる。すわ、最高の映画だ! ……と思うのだが、あんまり同意してくれる人に出会ったことが無い。


2、ミリオンダラー・ベイビー(04年米、ボクシング)
ミリオンダラー・ベイビー [DVD]
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完全にアメリカ貧乏白人版『あしたのジョー』なストーリーに加えて、ライティングで黒くつぶれる表情、小道具を使った心情描写、名優たちによる演技の掛け合い、ナレーションの妙味と、とにかくイーストウッドの演出にやられた映画。


3、柔道龍虎房(04年香港・中国、柔道)
柔道龍虎房 [DVD]
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姿三四郎』が香港ノワールと出会い、男がも一度やりなおす、宇多丸いうところの「負け犬たちのワンス・アゲイン」映画の傑作。なんでも柔道でカタがつく世界観や、いきなりテレビ版『姿三四郎』の歌を日本語で唄い出すエクストリームさもグッド。


4、キッズ・リターン(96年日本、ボクシング)
キッズ・リターン [DVD]
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第一期北野武の最高傑作。本作のストーリーも『あしたのジョー』であると思うのだが、最悪の敵が試合相手ではなく一見優しい先輩であるとか、第三、第四の主人公であるタクシー運転手や金髪デブの存在や、如何様にも受け止められる最後の台詞など、北野映画の魅力が詰まった一作。今見返すと「失われた10年」的描写に気づいたりという発見も。ちなみに第二期北野武の最高傑作は誰がなんといっても『TAKESHIS'』だ。


5、カーズ(08年米、モータースポーツ
カーズ [Blu-ray]
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アメリカ、そしてレース。この二語から連想されるのは一位になるまで、死ぬまでやめないアメリカン・スピリッツであるのだが、それとは真反対なテーマを内包する本作。アメリカ中の観光地を寄せ集めたような背景美術と相まって、21世紀の『南部の唄』なんじゃないかと思う。


6、マネーボール(11年米、野球)
マネーボール(ブラッド・ピット主演) [DVD]
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主人公がプレイしているのは「野球」じゃなくて「野球の仕方合戦」というゲームなのだけれども、前述した3点を満たしつつ、映画的盛り上がりを可能な限り避け、映画的試合シーンを可能な限り拝してもなお、映画以外の何者でもないという稀有な一作。娘の唄による心情描写が染みた。


7、少林サッカー(01年香港、サッカー)
少林サッカー デラックス版 [DVD]
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金も力も何もない負け犬サッカー選手が考えた逆転の一手、それは少林拳法の達人を引き入れることだった……功夫が強ければサッカーも強い筈! というワクワク感が堪らない一作。どんどん島本和彦化するストーリーや周星馳お得意の下衆描写も楽しい。


8、ガールファイト(00年米、ボクシング)
ガールファイト [DVD]
カリン・クサマ
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みんな大好きミシェル・ロドリゲス姐御のデビュー作。ジャンル女優まっしぐらの彼女だが、ボクシングとジェンダーの相克に悩む少女を好演していて、今観ると新鮮だったりする。素顔の姐御はこんな感じの人生なんじゃなかろうか。


9、ビヨンド・ザ・マット(99年米、プロレス)
ビヨンド・ザ・マット [DVD]
B00005YV42
プロレスを切り口のレスラーの仕事、家族、人生に迫ったドキュメンタリーの名作。頭を割って流血し、見守っている家族が泣いてるにも関わらず「おれはプロレスが大好きなんだ」ときっぱりと宣言するマンカインドに泣ける。マイクパフォーマンスや練習やアングルの作り方も詳細に描いていて、ディズニーランドの裏側を見せてしまったという理由から嫌う人の気持ちも分かる。


10、ロボ・ジョックス(90年米、ロボットバトル)
ロボ・ジョックス [DVD]
アルバート・バンド
B0000DJWRB
誰もが一度は夢想したことがある筈の、ロボット同士の格闘バトルを描いた秀作。地味に「勝利以外の何か」を掴むラストも良い。公開当時は「こういうのが観たかった!」と興奮したものだが、CG全盛の今ではすっかり普通なモチーフになってしまった。もうちょっと人間ドラマの演出が上手ければなぁ……ジョー・ホールドマンが脚本を書いているらしいのだが、「本当に?」と突っ込んだものだった。
終りなき戦い (ハヤカワ文庫 SF (634))
ジョー・ホールドマン 風見 潤
4150106347



ナチョ・リブレ 覆面の神様 スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
ジャレッド・ヘス
B003V27SUY
次点として、監督の濃厚なメヒコ愛にヤられる『ナチョ・リブレ 覆面の神様』や、健常者より熱く生きる障害者を描いた『マーダーボール』なんかを挙げておきたい。小〜中学生の頃にテレビで観た『ビジョン・クエスト 青春の賭け』『アメリカン・フライヤーズ』『ヤング・ゼネレーション』なんかも面白かった印象があるのだが、記憶が曖昧なものでランクインさせなかった。もう一回観ておきたいねぇ。



そうそう、先日『リアル・スティール』を診て、やっぱり架空競技を描いた映画はイイよなと感じ入った。というわけで、次回に続くような続かないような。